え、わたしが魔王ですか?〜無能だからと追放された創造魔法士だけど、魔族のみんなと楽しく国を創っていたら最強の魔王に覚醒していた!

泥水すする

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楽園破壊編

とりあえず一件落着しました

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 ロクティス襲撃から一夜明けた、その翌日。

 早朝のことだった。

「び、ビルマぁああああッ!」

 そのうるさい声で、わたしは目を覚ました。ベッドから起き上がろうとすると──痛っ!

 半べそ状態のマドルフが、勢いよくわたしの胸へと飛び込んできた。

「もう、なんなの急に~」
「いや、だってぇ……だってぇえっ!」

 言葉にならない言葉を必死に紡ぎ出すように、マドルフは泣きながら叫んだ。

「朝起きたら、が部屋にいたんだよぉお⁉︎」

 ……あ。

「しかも、何故かぶっ壊れた窓を黙々と直してんだよ⁉︎」
「えっと、マドルフ……それには深い事情があってね、」
「ベッドも無茶苦茶だし、部屋も……それに、あたしの服も!」

 マドルフは、ボロボロとなったメイド服姿を見せてくる。

「あぁ……せっかく大切に着てたのにぃ~」

 おう、これは酷い……昨日は慌ただしくて気付かなかったが、マドルフが寝ている間に激しい戦闘があったからね……。

 と、マドルフが半狂乱となっている時だった──ガタンッ!

「ビルマ、おはよう! 素晴らしい朝だな!」

 勢いよく扉を開け放って入ってきた、それはロクティスだった。

 なんてタイミング悪いこと!

「で、でたぁあああッ!」

 いよいよ、マドルフがおかしくなる。わたしの背中に慌てて隠れて、ぶるぶると震えている。でもまあ、朝起きたて部屋に半裸の男がいたのだから、驚くのも無理はないかもしれない……。

 そんな乙女事情など我関せずと、ロクティスは歩み寄ってくるや否や、

「結婚しよう、ビルマ」
「⁉︎」

 は、はいぃ⁉︎

 真摯な瞳を浮かべて、ロクティスはわたしの手をがっしりと握りしめてきた。

「俺は、あんたに惚れてしまったんだ」

 ひぃーーー!

 だ、だめだ! 頭がオーバーヒートして、なんて返していいのか分からない!

 ホワイ! イッタイ、彼ガ、何ヲ言ッテルノカ、ワタシ分カリマセーン──

「魔王の前で不敬だぞ」

 これまた珍しい来客が一人──それは、本来この時間には起きていないだろうハデスであった。

 ロクティスを見るや否や、あからさまな嫌悪感をあらわにした。こんなハデスを見るのは、はじめてだ。

 ロクティスはハデスの一瞥し、首を傾げた。

「何者だ、小僧」
「それはこちらの台詞だ。誰の了解があって、ここにいる」
「ふん、俺は俺の意思に従い、この地へ訪れた。ただそれだけのこと。誰の了解もいらん!」

 ブレない姿勢。多分、このロクティスは誰かの指図を受けるようなタイプではないのだろう。自分を中心に世界が回っているとか、本気で思っていそうだ。

 ちなみにこのロクティス、ディスガイアまではという。いやいや、化け物ですかあなた……。

「……確信したよ。僕は、君のことがかなり嫌いだ」

 眉間に皺を寄せたハデスが、指先をスッとロクティスへと向けた、その直後だった──ロクティスの動きが、ぴたりと静止する。

 ロクティスの目の色が、瞬時に変化した。

「ほぅ、なかなかに高度な束縛魔法だ。お前、名をなんと言う」
「ベルモット・ハデスだ」
「聞いたことのない名だ。それにお前の魔力反応……妙だな。何故、魔力をお前が扱える?」
「答える義理はない」
「……ククク、まあいい。つくづく面白い地だな、ここは」

 と、ロクティスは高笑い。肩を揺らして笑って、そのまま床へと胡座をかいた。どうやら、ハデスが発動したという束縛魔法を自力で解除したみたいだ。

 その場の空気が、張り詰めていくのが分かる。

 一体、どうなってしまうの⁉︎

◾️

 昨晩の襲撃後、覚醒したわたしにコテンパンにやられたロクティスは、すっかりわたしの言いなりとなっていた。

『いいこと。自分で壊したものは、自分で直しなさい。逆らうようなら、マジで潰すわよ?』

 わたしが記憶している範囲では、そんな感じで……ロクティスは口答えすることもなく、「承った!」と一人せっせと壊した窓や、その他箇所の突貫工事を始めた。

 といっても、それはあくまでも突貫に過ぎず、結局はわたしがやるハメになるんでしょうけどね……。

 それはそうとして、真っ先にやることとはロクティスの処遇についてであった。逃げる素振り一切見せないのでそのままにしておいたが、このまま放置ってわけにもいかないだろう。

 ハデスより少し遅れて、四魔皇グレゴリウスをはじめとする魔族たちも集結。皆、ロクティスを見るや否や驚愕そうに目を見開いていた。どうやら、2人はこれが初対面というわけではないらしい。穏やかな関係性ではなかったのは、彼らの態度を見れば分かるけど……。

「ロクティスはオーガ族の里の長をやっていましてね。その頃にも、彼らオーガ族とは何度も小競り合いを重ねていたのですよ」

 と、ザラトが捕捉とばかりに説明。なるほど、同じ魔族同士でも、友好関係にあったではないのか。

「まあ、このロクティスのみならず、魔王軍と敵対していた魔族は数多くいましたからね。特にロクティス率いるオーガ族たちは、リリス様のやることなすことに難癖ばかりをつける厄介集団でして──」
「兄者が悪いのだ。兄者は、冒険者たちが挑発してきても、手は出すなどといつも腑抜けたことばかりを言ってきていた。誇り高きオーガ族の、しかもその始祖ロードたる『紅蓮鬼』でありながらの、あの姿勢。オーガ族の面汚しよ……」
「でも、そんな面汚しにあんたを含めたオーガ族は誰も勝てなかったんだろ?」

 横槍を入れてきたマドルフの発言には、ロクティスはキッと睨みつける。

「ひっ!」
「もうマドルフ。あんまり茶々入れちゃダメだってば……」
「ですが、駄犬の言うことは最もです。ロクティスはリリス様の、その足元にも及ばなかったのですから」

 まさか、リリスってそんなに強かったのか……わたしは田舎者だから、世界情勢名はかなり疎いのだけど、魔王リリスが本当は弱いのではないか、という噂は冒険者界隈での鉄板な話題であった。つまりそれは、それ程にリリスが争いを起こさなかったことに通じている。

「それでロクティス、あなたはどうしてここへ?」
「そのことなんだが……保護してもらいたい者たちがいる。魔狼族の餓鬼どもだ」

 と、そう言ったロクティスの言葉には、ザラトのみならず、この場にいるほとんどの者が「まさか」と言いたげな表情を作った。

 ロクティスは、話し続ける。

「道中に立ち寄った廃村で、たまたまあいつらを見つけた。聞くところによると、親は皆、冒険者たちに捕まり、連れて行かれたという。残されたのは、食う物を調達する術すらも儘ならぬ幼き餓鬼共だ。そんな姿を見ていたら、あまりに不憫でな……だから、探していたのだ。あいつらが安心して暮らせるという、楽園エデンを」
楽園エデン? それって、まさか……」

 言い淀むわたしを見て、ロクティスはこくりと頷いた。

「魔族たちの中で、しばしこの地のことは話題となっている。この世界のどこかで、新たな魔王が建国した、ディスガイアという楽園エデンがあるのだとな」

 まさか、知らなかった。

「初めその話を聞いた時は半信半疑であったがな……だがもしも本当にそんな場所があるのならば、この目で確かめてみたいと思ったのだ。そして、実際にもそれは存在した。紛うことなく、ここは楽園エデンだ。あいつらにも、早く見せてやりたい」

 と、ロクティスは次に頭を下げてきた。

「突然訪れ、不躾な頼みだと思うが……餓鬼共の面倒を、ここで見てはくれないだろうか──」

「僕は反対だね」

 ぴしゃりと、そう断言したのはハデスであった。腕組み俯きながら、重たい口振りで、

「ロクティス。僕はどうも、君のことが信用できない。そもそも、それならそうと初めから言えばよかった話だろう。それがどうして、襲撃なんてことを?」
「それは……」
「僕らの実力を試す為、とでも言うつもりかい? だったら、君はもしも僕らにその実力がなかった場合どうしていたのさ」
「……」
「言えないか。それならそれで、別にいい。たださ、君の事情に、僕らを巻き込むのは卑怯だ。僕らは君らと、なんの関係もないんだから。信用できないよ、君は」

 と、ロクティスに意を唱えるのは、なにもハデスだけではなかった。

「ハデスの言う通りだ」「ロクティスのことだ、なにか裏があるに違いない」「俺たちのビルマ様から離れろ、馬鹿野郎!」「今回は一体企んでやがる!」

 魔族たちから、一斉にブーイングの嵐が巻き起こる。

 どうやらみんな、ロクティスに対してあまり良い印象を待っていないようだ。今回いきなりの襲撃してきたことも相まって、その印象がより濃くなってしまったのかもしれない。

「信じてくれ」

 そんなロクティスの声に、しんと静まり返る室内。また、ロクティスは続けて言った。

「ここで引き下がるわけにはいかぬ。俺にできることならば、なんだってするつもりだ」

 ロクティスが、膝を折って地べたに正座した、その後。

「頼む、この通りだ」

 それは、ものの見事な土下座であった。

「お、おい……あのロクティスが、土下座だと?」「あり得ねぇ……あいつ、本当にあのロクティスか?」「実は、別人でしたってオチか?」

 信じらないと、皆が口々にそう語る。それ程に、昔のロクティスとは全く異なる見え方をしているのだろう。決して、誰かに頭を下げるような男ではない。ましてや、誰かのために動くような男ではない、と。

 一体、なにがロクティスをここまで変えたのだろうか──知りたいと、そう思った。

「教えてよ、ロクティス。ロクティスのなにが、そうさせるのかを。お願いを聞いて欲しいのなら、まずはそこからだと、わたしはそう思う」

 そんなわたしの言葉に、ロクティスは黙り込む。それからしばし俯き込んで、

「……全く、その通りだな。順序を、間違えていた」

 ロクティスは土下座を中断。正座に直り、目を瞑り、大きく息を吸って、吐いた。

 その身に起きた変化の成り行きを、ゆっくりと語り始めるのだった……。

◾️

「今より、数年ほど前だ。魔王であった兄者が降伏してから、世界の情勢は大きく変わってしまった。

 魔王軍の傘下に入ってなかった魔族にとっては、地獄の日々。魔族殺しの紋章ディスペリアなんていう恐ろしい力を手にした冒険者や勇者たちが、『浄化作戦』などという大義名分を引っ提げて魔族狩りを始めたのだ。

 そんな奴らと争う中で、俺は魔族殺しの紋章__ディスペリア__#の攻撃をもろってに受けてな、身の淵から焼けるような痛みに意識すらも失ってしまった。

 暗い森の中で一人、俺は死を覚悟した。戦いに明け暮れた俺に相応しい最後だとも、あのときばかりはそう思ったものだ。

 だが、それから予想外の出来事が起きた」

 流れるように話すロクティスは、その辺りで一旦息をついた。たっぷりと間をとった後にも、

「次に目覚めると俺は家の中にいた。ベッドに寝かされていて、しかも傷の手当てまでされていて……最初は、そこが死後の世界かと疑ったくらいだ。だが、そうではなかった。俺の介抱をしたのは、なんと人間だったのだ。

 初めは、なにかの罠かと思った。でも体が全くいうことを聞かなくてな、結局はそこで世話を受けることとなった。

 屈辱的だった。触るな、殺してやると、散々脅してやったのだがな……あいつらは、そんな俺の脅しになど怯むことなく、懸命に介護をしてくれた。

 俺を森で見つけたのが、まだ年端も行かない少女のミリヤ。そうして俺を安全な場所へと運んでくれたのが、猟師のダリヤにエリック。傷の手当てをしてくれたのがカヤ、医者となるため王都へ行って勉強したいと、楽しそうに語っていた……愉快な人間たちであった」

 楽しそうに語るロクティス。聞いてくるわたしまで、幸せを感じくらいに──ただ直ぐに、ロクティスの表情に暗い影が落ちた。

「それから、程なくしてだった。少しばかり回復した俺は、ミリヤと共に森の中を散歩していた。戻ると……彼らは皆殺しにされていた」

 そんな……。

「その瞬間、俺は……未だかつて感じたことのない、激しい怒りを覚えた。だが、怒りのやり場もなかった。彼らを殺したのは、旧魔王軍の残党たち。彼らは俺を見るなり、そいつらは言ったのだ……、と」

 ロクティスの辛そうな表情、瞳、声は、当時の惨劇を物語る。やるせなそうに、「結局は、殺せなかった」と呟いた。

「ミリヤも、その後しばらくして死んだ。旅の途中、冒険者の放った魔法が彼女の小さき体を焼いたのだ。

 あの出来事が、俺の価値観を大きく揺るがした。俺は、分からなくなっていた。人間に魔族。さて、悪はどちらだ。正義とは。俺は、なにを撃ち滅ぼせばいい。誰を葬れば、この憎しみは凄惨される。ただひたすらに、自問自答を繰り返した。答えなど、見つけられはしなかったがな。いや、悟りはしたのだろう。そんな答えは、と」

 ロクティスは、深いため息を吐きながら再びわたしへ向き直ると、真摯な瞳を見せてきた。

「俺の話はこれで終わりだ。こんな話なんかで、俺を信用してくれなんて図々しい頼みかもしれないが……それでも、俺にはこうすることしかてきない」

 自身の無力さを呪うように顔を歪めながら、ロクティスは深々と頭を下げてくる。

 そんなロクティスの姿を見て、わたしの答えは決まった。

「ビルマ、あとは魔王であるあんたの意思に任せ──」
「じゃあ、その孤児たちを受け入れるということで! でも、いろいろと準備しないといけないなぁ」
「……え?」
「というわけでザラト、早速だけどさー」
「大部屋の準備は昨晩のうちに既に済ませております」
「え、早くない⁉︎」
「粗暴な性格ではありますが、仲間思いの男ですので。そんなロクティスが身を投げ打ってここへ訪れたというのならば、それはきっと自分のことではなく、仲間の為である、と……そうして、ビルマ様ならば、ロクティスの申し入れを受け入れるだろうと、という推測です」

 と、肩をすくめながらザラト、固まったままのロクティスへと言った。

「これであなたも理解したでしょう、ロクティス。これこそが、魔王ビルマ・マルクレイドという偉大なるお方の在り方です。ビルマ様は、理屈というものが通用しないのです」
「ちょっとザラト、理屈が通用しないってどういうことよ⁉︎」
「誉め言葉ですが?」
「全然褒められた気分しないんですケド⁉︎」

 わたしは激しく抗議する──すると、みんなが一斉に笑い出した。え、なにこの空気は……わたし、笑われてるの?

 そんなに変なこと言ったのかな……わたしはただ、ロクティスの話を聞いて、感激して、ただ力になってあげたいなって思っただけなのに。あとは、ちょっとその子供たちに会ってみたいってのも、少しくらいはあるけれど……。 

 あとは、そうだな──

「わたしたち、ここ3年ずっとここににいるでしょ? 別にね、それが悪いと言いたいんじゃないの。わたしは、今のままでも充分でも幸せだしさ……でもね、世界はそうはいかない。わたしたちが変わろうとしなくたって、世界はそんなこと関係なく変化していく……わたしは、最近ずっとそう思ってた」

 ここ最近は、その変化の波を痛感させれてばかりだった。

 冒険者たちが攻めてきたり、リリスが敵に回っていたり、そして今回のロクティスの一件。世界はわたしたちの知らないところで、刻一刻と移り変わっていく。

 それはもう、度外視できないくらいには。

「わたしたちも、変わっていかないといけないのかなって、そう思う。このまま世界に取り残されたままだと、わたしたちの知らないところで、よくないことばかりが起こる気がするの。今はよくたって、この先もずっとこのままだなんて限らない。

 だからね、これはその第一歩。わたしたちの創り上げたディスガイアが素晴らしい場所なのか、みんなに知ってもらういい機会だよ! そうして子供たちが気に入ってくれたら、その友達たちも呼んでさ、そうやってこのディスガイアをもっともっと豊かにしていくの!」

 わたしはこれまでずっと秘めたる思いを、吐き出すように語り明かした。

 綺麗に咲いた花たちを、もっと皆に見せてあげたい。

 わたしたちの育てた果実や作物が、どれだけ美味しいのかを知ってほしい。

 時間をかけて築き上げた街を、たくさんの笑い声で満たしたい。

 それら野望、もとい夢絵空事を、わたしは永延と語り続けた。時間の感覚を忘れるくらい、たくさん喋った。

 そうして、語りが白熱し過ぎて自分でも収拾がつかなくなっていた、その時だった──

「…………ああ、よく理解した」

 ロクティスが、ぼそりとそう呟いた。なぜか天井を見上げ、目頭に指を添えていた。

「夢想を語るあんたは、かつての兄者とそっくりだ……なるほど、これが魔王ビルマ・マルクレイド、か……なるほど……」

 と、一人納得している様子だ。
 なにを納得しているのかよく分からないけど、まあいいや。

 とりあえず、一件落着!
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