4 / 14
一章
特訓
しおりを挟む
「のわあぁぁぁぁぁーー」
遠山さんの叫び声と共に食器がおぼんから地面へと急降下する。当然のごとく食器は鋭い音をたてながら粉々に割れる。
「大丈夫っすか?」
長崎が厨房から顔をのぞかせる。
「ああ、すまないすまない。頼りない姿をみせてしまったね」
「これ、ほうきとちりとりね。はい」
「ありがとう。助かるよ」
長崎から道具を受け取り遠山は食器の破片を集める。
「二個持ちというのはなかなかに難しいものだね」
少し申し訳無さそうに遠山が告げる。
「慣れないと二個持ちはきびしいからしかたないっすよ」
二個持ちとはおぼんを二つ持つことである。基本的に牛丼屋のクルーは、二つ以上の注文が入った時は二個持ちで商品を運ぶものである。
どうして遠山が二個持ちの練習なんてやっているのか、それは遠山自身もこの店で働くことになるからである。
今はその猛特訓中ということである。
「慣れないうちは両手持ちで確実に持っていった方がいいかもな。最悪なのは商品ぶちまけることだから」
「でもねぇ、牛丼屋の店員が両手持ちしてるのもなんか格好悪いでしょ? かっこよく二個持ちしたいよ」
「たぶん遠山さんは持ち方がなってないからダメなんだよな。テコの原理ってわかるだろ? 基本的にごはんとか重いものを手前にのっけて持ち上げる。奥にあるとそのまま真っ逆さまに落ちるなんてこともあるからな」
「ああ、なるほどね。だからさっきはダメだったのか」
ポケットからメモ帳を取り出しボールペンを動かす遠山。
几帳面な遠山らしく字はとても綺麗だ。
「後はスピードだな。いいかよく見てろ」
長崎は棚から牛丼を入れるどんぶりを6個取り出しおぼんにのせる。
そしてためらうことなくスムーズな動きでおぼんを持ち上げ、早歩きでフロアー内を回る。
「す、すごいなぁ。流石だ」
みとれるほど軽やかな動き。まるでおぼんが長崎の身体の一部かのようだ。
「忙しい時はこれくらいで店内を移動しないとだから、覚悟しないとだぜ」
「まあおいおいといった感じかな」
ハハと愛想笑いをして誤魔化すが、そこまでは絶対無理だよと思う遠山だった。
「それよりもここの勉強は進んでいるかい?」
「まあぼちぼちかな。とりあえず遠山さんから受け取った資料にはすべて目を通したぜ」
「ぜ、全部かい!? だってあれ二千ページほどあったでしょ!?」
「んー昨日寝ずに読んでたからな」
はぁ、すごいなと思わず遠山は感心する。
遠山はあの資料に目を通すだけで丸三日ほどかかっていたのだ。
「それよりそっちはどうだい? 仕事は覚えられそうかい?」
「四十過ぎのおじちゃんにはちょいと厳しいかな。覚えること多すぎるよ。こことかどうやるんだい?」
どれどれ、と遠山に近づく長崎。
そして遠山の持つマニュアルをのぞき込む。
「これは実践で覚えたほうが早いな。今は飛ばした方がいいかもな」
「なるほどなるほど」
遠山はマニュアルシートという紙に後で、と記入する。とりあえず今の遠山の目標はこのマニュアルシートに書かれている項目を埋めることだ。
「それにしても牛丼屋の店員ってだいぶ覚えること多いんだね」
「そうだな。割と覚えること多くてやめちまうやつとか多いからな」
「僕ももうやめたいよ。厨房の仕事は覚えなくてもいいかい?」
「いや、ダメだ。こっちのやつらに仕事を教える人数は多い方がいい。遠山さんも覚えるんだ」
「やっぱりか。はぁ」
小さく吐息をもらす遠山。
それもそのはず。前の仕事だけならまだしも、バックの作業。つまりは調理までも覚えるとなるとかなり覚える量がますのだ。
「ところでここの従業員の応募はきたのかい?」
「それがさっぱりでねえ。やっぱりこんなよくわからないところで働きたいなんて思う人はいないよねえ」
「じゃあやっぱり一度オープンしてみないとだな」
「えっ!? オープンしてみないとって。人手はどうするの? 働けるのは僕と長崎君の二人だけ。材料は注文した日の次の日に届けてくれるからいいけど、人手だけはきついでしょ。どうやって二人でお店回すの?」
「ああ。もちろん。とりあえず10時~22時までの営業時間だからなんとかなるだろ」
「なんとかならないよ。せめてもう一人くらい従業員が増えてからの方が…………」
かなりおどついた様子の遠山。
相当二人で店を回すのが怖いようだ。
「大丈夫大丈夫。俺なんてあの激混み店で初日二人っきりだったからハハハ」
陽気に笑う長崎。
そしてだめだこりゃと、あきらめる遠山。
「わかったよ。じゃあオープンは何日後にするんだい?」
「明日」
「あ、明日ぁ!?」
「さあ宣伝にいくぞ! あとは発注だな」
「す、少しは休ませてくれよおぉぉぉーー」
遠山さんの叫び声と共に食器がおぼんから地面へと急降下する。当然のごとく食器は鋭い音をたてながら粉々に割れる。
「大丈夫っすか?」
長崎が厨房から顔をのぞかせる。
「ああ、すまないすまない。頼りない姿をみせてしまったね」
「これ、ほうきとちりとりね。はい」
「ありがとう。助かるよ」
長崎から道具を受け取り遠山は食器の破片を集める。
「二個持ちというのはなかなかに難しいものだね」
少し申し訳無さそうに遠山が告げる。
「慣れないと二個持ちはきびしいからしかたないっすよ」
二個持ちとはおぼんを二つ持つことである。基本的に牛丼屋のクルーは、二つ以上の注文が入った時は二個持ちで商品を運ぶものである。
どうして遠山が二個持ちの練習なんてやっているのか、それは遠山自身もこの店で働くことになるからである。
今はその猛特訓中ということである。
「慣れないうちは両手持ちで確実に持っていった方がいいかもな。最悪なのは商品ぶちまけることだから」
「でもねぇ、牛丼屋の店員が両手持ちしてるのもなんか格好悪いでしょ? かっこよく二個持ちしたいよ」
「たぶん遠山さんは持ち方がなってないからダメなんだよな。テコの原理ってわかるだろ? 基本的にごはんとか重いものを手前にのっけて持ち上げる。奥にあるとそのまま真っ逆さまに落ちるなんてこともあるからな」
「ああ、なるほどね。だからさっきはダメだったのか」
ポケットからメモ帳を取り出しボールペンを動かす遠山。
几帳面な遠山らしく字はとても綺麗だ。
「後はスピードだな。いいかよく見てろ」
長崎は棚から牛丼を入れるどんぶりを6個取り出しおぼんにのせる。
そしてためらうことなくスムーズな動きでおぼんを持ち上げ、早歩きでフロアー内を回る。
「す、すごいなぁ。流石だ」
みとれるほど軽やかな動き。まるでおぼんが長崎の身体の一部かのようだ。
「忙しい時はこれくらいで店内を移動しないとだから、覚悟しないとだぜ」
「まあおいおいといった感じかな」
ハハと愛想笑いをして誤魔化すが、そこまでは絶対無理だよと思う遠山だった。
「それよりもここの勉強は進んでいるかい?」
「まあぼちぼちかな。とりあえず遠山さんから受け取った資料にはすべて目を通したぜ」
「ぜ、全部かい!? だってあれ二千ページほどあったでしょ!?」
「んー昨日寝ずに読んでたからな」
はぁ、すごいなと思わず遠山は感心する。
遠山はあの資料に目を通すだけで丸三日ほどかかっていたのだ。
「それよりそっちはどうだい? 仕事は覚えられそうかい?」
「四十過ぎのおじちゃんにはちょいと厳しいかな。覚えること多すぎるよ。こことかどうやるんだい?」
どれどれ、と遠山に近づく長崎。
そして遠山の持つマニュアルをのぞき込む。
「これは実践で覚えたほうが早いな。今は飛ばした方がいいかもな」
「なるほどなるほど」
遠山はマニュアルシートという紙に後で、と記入する。とりあえず今の遠山の目標はこのマニュアルシートに書かれている項目を埋めることだ。
「それにしても牛丼屋の店員ってだいぶ覚えること多いんだね」
「そうだな。割と覚えること多くてやめちまうやつとか多いからな」
「僕ももうやめたいよ。厨房の仕事は覚えなくてもいいかい?」
「いや、ダメだ。こっちのやつらに仕事を教える人数は多い方がいい。遠山さんも覚えるんだ」
「やっぱりか。はぁ」
小さく吐息をもらす遠山。
それもそのはず。前の仕事だけならまだしも、バックの作業。つまりは調理までも覚えるとなるとかなり覚える量がますのだ。
「ところでここの従業員の応募はきたのかい?」
「それがさっぱりでねえ。やっぱりこんなよくわからないところで働きたいなんて思う人はいないよねえ」
「じゃあやっぱり一度オープンしてみないとだな」
「えっ!? オープンしてみないとって。人手はどうするの? 働けるのは僕と長崎君の二人だけ。材料は注文した日の次の日に届けてくれるからいいけど、人手だけはきついでしょ。どうやって二人でお店回すの?」
「ああ。もちろん。とりあえず10時~22時までの営業時間だからなんとかなるだろ」
「なんとかならないよ。せめてもう一人くらい従業員が増えてからの方が…………」
かなりおどついた様子の遠山。
相当二人で店を回すのが怖いようだ。
「大丈夫大丈夫。俺なんてあの激混み店で初日二人っきりだったからハハハ」
陽気に笑う長崎。
そしてだめだこりゃと、あきらめる遠山。
「わかったよ。じゃあオープンは何日後にするんだい?」
「明日」
「あ、明日ぁ!?」
「さあ宣伝にいくぞ! あとは発注だな」
「す、少しは休ませてくれよおぉぉぉーー」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる