異世界一の牛丼屋

たろたろぬ

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一章

僕を弟子にしてください

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「ふぅ今日は盛況だったね」

まかない牛丼特盛を口にかきこみつつしゃべる遠山。

「まあコンスタントにお客さんも入ってきたし。今日は成功だろうな」

オープン初日。
最初こそ入客数はなかったが、呼びかけを行ってからはそこそこの入客数があった。

だが盛況と呼べるにはほど遠いと長崎は思っていた。入客数は夜帯などのピーク時にも20と決して高い数字ではない。まだまだ課題は山積みである。

でもそんなことよりも長崎には気になることがひとつあった。

「どうしたんだい? 長崎くん。怪訝そうな顔して」
「気になることがあるんですよ。牛丼を不味いって思う人がいると思うか?」
「んー、まあ不味いと思う人はいるかもしれないけど、大抵の人はそう思わないだろうね」
「そうなんだよな。でもあんまりいい顔してなかった人も多そうなんだよな。期待はずれだとかそういう顔してる人が多かったなあ」
「そうかい? 僕は気が付かなかったけど。思いすごしじゃないかい?」

思いすごし……………………なのか?
やはり1度根付いた疑問は消えない。
長崎はもっとよく考えてみることにした。



次の日。

「ああすまない、寝坊ちゃって。お店の方は大丈夫かい?」

 10時半すぎ、慌てて遠山がフロアに姿を表した。
ちなみに現在遠山も長崎もお店に寝泊りしている。寝泊り用の部屋が用意されているのだ。


「全然大丈夫っすよ。まだ暇だからなぁ」
「そう…………みたいだね」 

ガラガラの店内を見回す遠山。
お店にいるのは1人だけ。裕福そうな老人だけである。

「昨日の勢いがあればもっと人が入ると思ったんだけどねえ」
「そうだな。少しは人が入ると俺も思ってたが、まあこんなものなのかな」


 少し腑に落ちない様子の長崎。


「今日も無料のキャンペーンをやるのかい?」
「いやさすがにあんなのは1回きりだよ。仕込みとかを無駄にしたくないっていうのもあったからな」

そんな話をしながら入客数のアイデアをなんとかひねりだそうと脳内に考えを巡らす長崎。

「僕を弟子にしてください!」


カランカランという音の後にまだあどけない雰囲気が残る声が店内に響き渡る。
唐突な出来事で長崎も遠山も目をぱちくりさせている。
そこにいたのはまだ15歳くらいのドワーフの少年だった。

意味が通じなかったのか? と少年は不安におもい、もう1度

「僕を弟子にしてください!」
「ええっと君は?」

長崎は少年に近づき声をかける。

「僕はノス・クラフズ。ドワーフです! ノスと呼んでくださいっす」

そう言うとノスは頭に被った帽子を外し、深々と頭を下げる。

「そうかノス、俺の名前は」
「ながさきさんですよね! 知ってるっす」
「おおっ、よくわかったな。てこの名札か」

 そうっすとうなづくノス。

「弟子入りしたいのか?」
「はい、僕にこのギュードンとやらの作り方を伝授してください」
「牛丼な。それじゃあグラードンみたいになっちゃうからな」

はて? と疑問符を上に浮かべるノス、それに遠山。

「ぎゅうーどんですね。わかりました。なかなか難しいですね」
「おっ、いい感じだなお前飲み込み早いよ」
「本当ですか!? ありがとうございます」
「牛丼の作り方を伝授してほしいって言ってたが、ここで働くってことでいいか? 給料でるし、手っ取り早いだろ」
「えっ!? 働かせてもらえるんですか? それにお金まで……はわわ」

驚きを隠せない様子のノス。

「なあ遠山さん。いいだろ採用しても?」
「僕は全然かまわないよ。ただいいのかい? その子はドワーフだよ」

その言葉に長崎はドワーフについての特徴を思い出す。手先は不器用で、基本的には力仕事に従事する種族。
あまり衛生的な印象はもたれない。なので従業員として雇う時は慎重に考慮すべし。
だったかな?

 少し不安そうな様子でふたりを見守るノス。

「まあとりあえずここに座っていいぞ」

長崎はカウンター席を指さす。
あまり元気のいい声ではなかったが、ありがとうございますと返事をしてノスはイスに座る。

「一つ聞くがどうして牛丼の作り方を教わりたいんだ?」
「僕料理人になるのが夢なんす。昔かーちゃんに作ってもらった不味い料理がわすれられなくて。僕が不味いなんて言うもんだから、かーちゃんは不器用なりに毎日頑張って料理を作ってました。そんなかーちゃんを見て僕も料理を作りたいって思ったんす。それで昨日ここで食べたぎゅうどんが美味しくて感動して、弟子入りにきたんす」
「よし採用」
「本当っすか!?」
「嘘なんてつくかよ」

やったーと飛び跳ねるノス。
そしてやれやれと思いつつも、従業員が増えることに喜ぶ遠山。

「一つ言っておくがここは厳しいぞ」
「大丈夫っす! 覚悟はできてるっす!」

こうしてノスの激動の牛食ライフは幕を開けたのであった。

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