異世界一の牛丼屋

たろたろぬ

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一章

やっぱりうまくいかなかった

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「へえこれがユニフォームですか!」


 牛食の茶色いユニフォームを身にまとい興奮するノス。
 ちなみにノスが来てから一週間ほどが経っていた。こんなに時間がかかったのはノスの身長が130センチほどで、ちょうどいいサイズのユニフォームが用意できなかったからだ。


「そ、そうだね。ようやく準備が整ったね」


 少々声に元気がない遠山。
 それにはきちんとした理由があった。まず一つ目はここ一週間ほどで休みは一日。まあお客さんが少ないから裏で休んでいることが多いが、さすがに12時間勤務に40代の体はついてこないのだ。
 もう一つは目の前で進行中の問題。ノスがユニフォームを着るのにかかった時間は30分。何かあるたびにどうするのか聞かれ、最終的にはつきっきりでユニフォームの着方をレクチャーしたのだ。さすがに疲れる。


「さあ牛丼を作るっす!!」
「あ、ああ。そうだね」
「待て待て待て、まだ牛丼を作らせることはできない。まずは打刻して、それから前の仕事を完璧にしてからだな」

 厨房から長崎が顔をのぞかせる。

「打刻でしか?」
「ああ、ノスが何時から働いて何時に上がるかを記録することだよ」
「そんなことをするんすね。すごいっす」
「とりあえず、俺についてきな」

 威勢のいい返事をし、ノスは長崎についていく。
 まずは事務所のノートパソコンで打刻をする。
 そしてまずは厨房へと向かうのだが、

「そうだ、言い忘れてた。厨房はすべるから気をつけろよ…………………………遅かったか」

 ズデーンと、振り返ろうとする長崎の耳にものすごい音が入ってくる。
 振り返るとそこにはきれいに転んだあとのノスの姿があった。

「もうちょっと早く言ってほしかったっす」
「まじですまん。本格的にやるならコックシューズが必要だな」
「覚えておくっす」

 そう言い立ち上がろうとするノス。
 するともう一度ズデーンと大きな音がフロア内に響き渡る。

「まじで滑りやすいから気をつけてな」
「申し訳ないっす」

 長崎の手を借り立ち上がるノス。
 そして再び転ばないように慎重に慎重に長崎についていく。

「次はこれをつけてもらう」
「これはなんっすか?」
「これはテイカーっつう機械で、お客さんの注文をとる機械だよ」


 む? と頭に疑問符を浮かべるノス。
 
「まあ実際に見てもらう方が早いな。例えばお客さんから牛丼並盛を頼まれたとしよう。まずはどこの場所のお客さんかを選択する。そして次にメニューが出てくるから、牛丼の並盛を押す。すると注文が確定して、厨房にもこの内容が送られ…………て大丈夫か?」
「ちょっとわからないかもっす」
「まあ実際に使ってもらうのが一番早いかもな」


 長崎は厨房からフロアを見渡す。
 よしお客さんはゼロと。

「遠山さん! ちとノスにテイカーの使い方を教えてやってくれないか? 俺はお客さん役やるから。


 わかったよ、とぼけーとしていた遠山が答える。

「じゃあまずは僕がお手本みせるから見ててね」

 まだまだおぼつかないながらも、きっかりと注文をとる遠山。
 手慣れた動きとは言わないまでも、十分な動きだ。

「どうだい。なんとなくわかったかい?」
「む、むむむ」

 やっぱり疑問符が浮かび続けるノス。

「まあとりあえずやってごらん」
「やってみるっす」
「じゃあ牛丼のミニで」
「ええっとまずは場所を………………」

 んん? と苦戦している様子のノス。
 おかしいよな。これは簡単なはずだが。と目を合わせる長崎と遠山。

「そのパネルを押すんだよ、ノス」
「ああ、なるほどっす。………………その次は?」
「牛丼っていうカテゴリーから牛丼ミニがあるからそれを押して、送信を押すだけだ」
「できましたっす」

 ぴーぴーと伝票が発行される。
 さてさてどんなものかと伝票をのぞきにいった遠山がひきつった笑みを浮かべながら帰ってくる。

「これみそ汁だね。見事にみそ汁しかオーダーが入ってないよ」
「そうっす。みそ汁を頼まれたからおしたっす」
 

 自信満々なノスの表情。
 そしてマジか、とため息をこぼす長崎。

「俺が注文したのは牛丼のミニだな。つかどうしたらみそ汁と間違えるんだ!? メインメニューとサイドメニューだぞ」
「ううっすいません」


 申し訳なさそうに頭を下げるノス。
 さすがに言い過ぎたと思ったのか長崎も軽く謝罪を入れる。

「ちょっと待ってな。トイレ行ってくるから」

 長崎がエプロンをはずし早歩きでトイレに向かう。
 すると来客を告げるカランカランという音が店内に鳴り響く。

「お客さんだね。こっちにきてごらん。お客さんがきたらここでお冷をコップに入れて持っていくんだ。やってごらん」
「はいっす! 名誉挽回するっす!」

 コップにお冷を入れお客さんの元へ行こうとするノス。
 もちろんすんなりと運べるわけがなく。
 
 ズデーンと再び転ぶノス。カラカラカラとコップに入ったお冷が地面に散乱する。

「あちゃちゃ、とりあえず待ってて」

 遠山がすっと新しいお冷を入れ、届けに行く。

「やっぱりドワーフなんかがこういう店で働いちゃいけないんすかね」
「そんなことはねえよ」

 本人も気づかないうちにこぼしていた独り言を長崎が拾う。
 そして拾われたことに対してノスも驚いた表情をしている。

「誰だって最初はそんなもんさ。あそこにいる遠山さんだって最初は食器割ったり、機材壊したりの常習犯だったからな。あきらめるのはもっと頑張ってからでも遅くねえよ」
「でも僕なんかじゃやっぱり無理なんすよ」
「無理ってあきらめるから無理なんだよ。俺はお前があきらめかけても何回でも教えてやる。同じことだって一万回でも教えてやるよ。だからノス、あきらめるな」
「な、長崎さん」
 
 目がうるむノス。 
 そんなノスの肩をポンポンとたたく長崎。

「感動のところ申し訳ないけど、オーダーいいかい? 僕まだ作れないから」
「わり、さあ今日も忙しいぞノス!」
「はいっす!」
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