異世界一の牛丼屋

たろたろぬ

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一章

王前

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 がたがた、ごっとん。
 石にぶつかったのか、馬車が大きく揺れる。
 馬車の中には騎士が三人に長崎が乗っていた。


「もうちょっと安全に運転できないものかねえ」

 
 一緒に同伴している騎士たちが一斉に長崎をにらむ。



「おーおー、怖い怖い」

  

 何事もなかったかのように外を見つめる長崎。
 店大丈夫かなと、自分の心配をしているよりも店の心配をする長崎であった。





 それから数分ほど経ったころだろうか。
 一行は目的地の王城に到着する。


「ほら歩け!!」

 
 別の馬車から降りたリーダー格の騎士が、乱暴に長崎を扱う。
 両手をふさがれている長崎は少々身動きがとりづらいながらもなんとか馬車を降りる。


「ほう、これが王城かい。なかなかに立派な建物じゃないの」

 
 長崎は目の前の王城を見上げる。
 単純に立派という言葉では片づけられない。
 中世ヨーロッパに存在してそうなお城。皇帝とか、あとは世界遺産にでも登録されていそうな壮大な建造物。
 さすが異世界。と感心を示す長崎。



「こら私語は慎め!!」
「へーい」


 一行はお城の中へと入っていく。

「ここで待っているがよい」


 大きな扉の前で静止する。
 そしてリーダー格の騎士が一人扉の中へと入っていく。


 はわぁとあくびをしつつ待つ長崎。
 そして数十分ほどしてリーダー格の騎士が戻ってくる。


「さあ入るがよい」


 開かれた大きな扉。
 そして見える長い通路。
 長崎は騎士たちの先導に従い後ろをついていく。


「ほう、これは、これは」


 周りを見渡すとみるだけで数えるのを断念したくなるほどの騎士たちが槍をかかげている。
 ここで粗相でも起こしようものならば一瞬であの世いきだろうな。と長崎は確信する。


「罪びとよ、王前にふせよ」

 
 ちょうど王座の前に立ち、リーダー格の騎士が告げる
 だがもちろんそんなことを言われても、長崎に通じるわけがなく。


「おい、貴様! 王前で失礼であろう」
「ふせよってどうすればいいんだ? こうか」


 長崎は腰を曲げる。おじぎをしたのだ。


「貴様。王前でなんと無礼な! ここでたたき切ってくれるっ!!」

 
 さすがにやばいっと思う長崎。
 騎士の槍が長崎を貫こうかというその時―――


「おやめなさい。私の前で下賤のものの血など見せぬでない」



 ははっ、と槍を収める棋士。
 ふひぃと思わず長崎は息をつく。


「男、わらわの前へ」
「はいよ」


 素直に前へ歩みだす長崎。
 そして小さな階段の上にある華美な王座を眺める。
 そこにいたのはまだ中学生くらいにも見えなくもない幼い少女。
 美しい金色の髪。その上には宝石やらがじゃらじゃらついている王冠。服装は少々露出が多いと感じられなくもないが、とても美しい色そして遠くからでもわかるようななめらかな生地質。本当に王様を前にしているのだと確信させるのに時間はかからなかった。


「罪状は」
「はっ! この男長崎武は王前営業報告違反、並びに納税違反であります。つまるところこの男の罰則は投獄10年がよろしいかと」


 下がってよいぞと合図を送る王女。
 そして報告を行った騎士ははっ! と言葉を発し下がる。 


「男、長崎よ。何か弁明はあるか?」
「いやー、悪いと思ってる。俺も最近忙しくてな。今回は許してくれると助かる。クーポン券やるから許してくれ」


 ざわざわと騒ぎ出す王前。

「おい、ユステル。この者にわらわのことを教えてやれ。この者はわらわのことを知らぬらしい」


 はっ! と発言し、王女の前にやってきたのはさきほどのリーダー格の騎士だ。


「ここにおはする御方は、ティルニッチ王国第56代王女、ユイカ・ハステル様であります」
「下がってよいぞ」
「はっ!」


 右ひざをつき深々とお辞儀をしたのち、下がるユステル。



「もう一度弁明を聞いてやろう。男、長崎よ」
「ほう、王女様だったか。だったら俺の特製唐揚げを食わせてやるぜ。それで見逃してくれや」
「貴様ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー」

  
 ユステルの天をも切り裂かんばかりの奇声。
 先ほどとは違う様子でずかずかと長崎に近づき、


「王女様、この者に弁明の余地など必要ありません。即刻死刑にすべきです」
「まあ落ち着けユステルよ。おい、長崎。お前は言ったな、トクセイカラアゲとやらを食わせてやると」
「あ、ああ。超うまいぜ。ほほも落ちる味だ」
「わらわはいつも超一流のコックに腕を振るわしておる。おぬしにわらわをうならせる一品が作れるのか?」
「俺を誰だと思っていやがる。上等だ! お前をうならせてやるよっ!」 
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