スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪

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第34話「勝利への道程と障壁」

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 俺は心の中で念じる。

(大丈夫か、ラルエシミラ)

体の動きを封じられ、口を動かすこともできない。
具体的ではなく、抽象的な能力に支配されているようだ。
また、支配されているのは、精神的ではなく、肉体的である。

(大丈夫です。けれど、私もトガさんと五感を共有しているので、この状況に歯がゆさを感じていますよ。正直、ムカつきます)

ムカつく。
ラルエシミラに似つかわしくない言葉が、俺の中から飛び出し、頭蓋骨の内側を乱反射した後、茹でたワカメのようにくたばった。
普段とは違う、少し尖った声色からして、随分と怒っていることがわかる。

俺も同じ気持ちだった。
支配されることは大嫌いだ。しかし、それよりも、なによりも、パンパカーナに対し、能力をかけられていることに、眥裂髪指の思いだった。
あのメイド服をしたピンク髪の女をなんとかしなければ——

この時、俺はハッとする。
雷撃が脳天を貫き、乳頭体と扁桃体の二人に求婚を迫られている海馬から、アロウザールの言葉が蘇った。

<<たとえ相手の能力を知ったとして、それを知った気になるな。可能性を考え、頭を働かせろ>>

そうだ、考えろ。
相手の能力はなんだ。あの舌にある目で見た者の動きを封じる、メデューサのような力か?
ただ動きを封じるだけか? 発動条件は? 他に、なにか隠していることはないか?
俺は思考する。状況から解答を導き出そうと、思考する——
パンパカーナだ。

おそらく、パンパカーナは能力を知っている。だから、俺と同じく固められているのだ。
では、何を言いかけたのだろうか。
奴が即死系の能力者ならば、経験したパンパカーナは既に殺されているはずである。
確信が欲しい。
いっそ、出方を伺うか......。いや、ナンセンスだ。悠長に待っていれば、レベッカ女王と兵士の凶刃によって殺されることは必至。
どうする。どうする——!

「なんと情けないのでしょう。勇ましく助けに来て、女王陛下に啖呵を切っておいてこのザマですか」

口の中の舌にある口がいう。
不気味な混声。
俺は言葉をいえないので、何もしゃべらない。

「見たところ、あなたは『現界型』のようですね。地面を切りつけ、鋭利な岩を発生させる力といったところでしょうか」

違う。
惜しいが、解釈を誤っている。
地面を穿つまではいい。しかし、俺の力の本質はそこではない。
早計且つ致命的な判断だ。

「では、その神器、捨てて頂きましょう。無力なあなたは赤子の首をひねるように殺されるのです。女王陛下の手ではなく、私によって」

舌がいうと、俺の指が一本ずつ、ゆっくりと柄から剥がされていく。
親指、人差し指、中指、薬指、小指。
俺はイメージする。この空間全体の一部分、舌の主の足元をピンポイントで、円形に切り取るイメージを。
手放した剣の切っ先は大理石の地面に刺さり、直立した。
朝日に照らされて、刀身が発光している。

「さあ、口だけは動かして差し上げましょうか。断末魔を隣で這い蹲っているお仲間にきかせておやりなさい」

動く。
上顎と下顎の感覚を確かめる。
まるで、歯に麻酔をかけられた直後のような感じだ。
俺はまず、口角を上にやった。
そしていう。

「これは、師匠の受け売りなんだけどな......」

舌の主は眉をひそめる。
生きるか死ぬかの状況で、開口一番に飛び出した言葉はそんなものかと、ウンザリしているように、
期待していた台詞と違って落胆したように、と。

「はあ」

心ない相槌。
濁った目がこちらを見ている。
俺は台詞の続きをいった。

「一を知って十を知った気になるなよ......俺とラルエシミラを、なめるな!」

長剣が斜めに傾きはじめる。
奥へと、刃はあちらを向いたままに。
やがて鋼が石床を叩く音が響くと、舌の主の足場は轟音をたててせり上がり、急上昇し、豪奢な天井を突き破る。
そのまま、輝く白い結晶の柱は伸び続け、止まる頃には一分が経過していた。

隅に避難していたメイド服たちや、衛兵たち、レベッカ女王が舌の主の行く末を目で追っていた。
皆、放心状態のようだ。
外界の喧騒が遠くに聞こえ、天井の風穴を柱で閉じた部分から、バラバラと欠片が降ってきては砕け散っていく。
体は自由を取り戻し、俺は綽々と剣の柄を握り、拾いあげた。
パンパカーナは胸を抑えて咳き込んでいる。

レベッカ女王がこちらに向き直り、

「貴様......。よくも我の娘を殺してくれたな。無論、覚悟はしているのだろう?」

と、静かにいった。
静か故に、怒りの色は濃くなり、ドス黒くなる。
その顔は、鉄仮面のようだった。

「愚かだったんだ」

「なんだと?」

レベッカ女王の左眉が微かに動く。

「あんたも気をつけたほうがいい。くれぐれも、俺たちの力量を計り違えるなよ」

「——おい」

レベッカ女王の声に、「ハッ!」とひとりの兵士が反応し、片膝をつき、頭を垂れる。

「すべての兵に招集命令をかけろ、総力戦だ」

衛兵は素早く立ち上がり、敬礼をした。
すると、息を吸い込むような仕草をし、帛を裂くごとき獣のような咆哮を放った。
皆耳を押さえて、その声に耐える。
やがて、その衛兵は甲冑の隙間から血を流して倒れた。
死んだのだろうか。ピクリとも動かない。

それをみたレベッカ女王は、ペン先を倒れた衛兵に走らせる。
と、瞬く間に衛兵は立ち上がった。
あれは、どこかで見たことがあるような——
俺は記憶をたどるが、思い出すことができない。
気がつくと、集まった衛兵たちがこちらに武器を構えていた。

「かつて魔人共に蹂躙された魔王討伐軍のように、貴様を葬ってくれよう!」

何発かの銃声が、玉座の間に鳴り渡った。


$$$


銃声が響く。
反動で体が揺れている。
一発ごとに、腕に衝撃が走った。

目の前にある木の板でこしらえた、手作り感満載な二本のツノを生やした魔人の的にめがけて銃弾を打ち込んでいる。
訓練用の弾ではあったが、人の体を貫通し、死に至らしめることは容易くできてしまうくらいの威力はあった。なお、魔人を効果的に殺すためには『魔弾』と呼ばれる特殊な銃弾が必要であり、薬莢の中に魔法石から採取した魔力を用いるため、魔法石の希少さと莫大な制作コストから大量生産はできず、魔王討伐軍の中でも上部の人間にしか配給されない。

よって、軍の人間は生存率を上げ、成果を出して名誉と昇進を勝ち得るために日々、必死で訓練に勤しんでいる。
アロウザールは横目で左右をちらと見やった。
皆、一列に並んで銃を撃っている。
真剣な眼は的の真ん中を狙い定め、狙いどおり、弾丸は赤い丸印を撃ち抜いた。

いかん、感心している場合ではない。
アロウザールは戦闘帽をかぶり直し、再び銃を構えた。




「おい、それ一個くれよ」

隣に座っている男が、アロウザールの皿にある揚げ物を指で差していう。
アロウザールは眉をひそめて男を見ると、

「嫌だよ。お前の分もちゃんとあるだろう」

といった。
男は鼻の下をこすりながら、

「いや、そんなものはない」

「まさか。もう食べたのかい?」

「いや、並んで席に着いた頃にはすでになくなっていた」

いたって真面目な顔で男はいう。
アロウザールはため息をひとつ吐くと、皿を男の方へ寄せた。

「おっ、くれるのか。すまねえな——」

男が揚げ物をつかもうとした瞬間、アロウザールはカットされたリンゴのような果物を、男の皿から取りあげ、一口で食べた。

「ああっ!」

「ぬははははは。油断しゅたな、ゔぁるす」

アロウザールは咀嚼しながら、勝ち誇った顔をしていう。

「ちくしょう......あ、お前、糞爺! ポロ揚げまで食っちまったのかよ!」

ポロ揚げとは、鶏のような食用生物『ポロ』の肉を油で揚げたものである。

「五分後、入浴!」

突如、号令がかかる。
「やべえ、急げ!」と、アロウザールたちは残りを平らげた——



アロウザールは基礎訓練では目立った成績はなかったものの、他より秀でた魔法を取り扱う能力を有していたため、魔力を用いる武器を効果的に使用し、多くの魔人を討伐して成果を得ることで、驚異的なスピードで昇進していった。
ちなみに糞爺となじられていたのは、アロウザールが自身の本来の姿と生い立ちについて、仲間たちに暴露したからである。
仲間たちは驚いたが、苦楽を共にするうちに、すぐに慣れてしまった。

中にはアロウザールのことを不気味に思い、邪険に扱う者もいたが、階級の差がひらくに従い、気にとめることもなくなった。
優秀な成績を修め続けたアロウザールは元帥になる。
このとき、ラルエシミラと別れて五年が経過していた。
そして、魔王の幹部が大軍を率いてシーボ国に進行しているという状況に対し、アロウザール元帥直々に戦地へと赴くことになる。
アロウザール・ルーザーロア、17歳の出来事であった——




ノックの音が鳴る。

「入れ」

アロウザールがいう。
すると、顔面蒼白な兵士が飛び込んできた。

「どうした、顔色が優れないようだが......」

「——元帥、シーボ国橋梁にて防衛戦線を張っていた、我が魔王討伐軍第一部隊が、全滅しました」

アロウザールの瞳孔が開き、冷や汗が頬を伝った。

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