公爵家令息と幼馴染の王子の秘め事 ~禁じられても溺愛は止められない~

すえつむ はな

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偶然の事故

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(なんだか、今日のアルバート、やけに可愛いんだが……)

 エドウィンは眩暈めまいを覚えて、頭を振る。

 デート指南なんて言ったからなのか、アルバートは初心うぶなところを隠そうともせず、うるんだ瞳で見つめてくる。
 かと思えば、大胆な提案もしてくるので、冷静な演技フリをしながらも、心は振り回されっぱなしのエドウィンである。

(『スキンシップの見本を、実地で教えろ』……って、どういうことだよ? 言っている意味わかっているのか? とんだ小悪魔じゃないか)

 そこまで考えて、イヤイヤと自分に突っ込みを入れた。

(小悪魔? 俺は何を言っている。アルバートは男! 男友達! 幼馴染の、お・と・こ! 瞳をウルウルさせているのは、単にメアリーとのデートが不安だからだ。実地で教えろと言ったのは、具体的にどう振るまえばいいか、知りたかっただけだ。落ち着け、俺!)

 心の声が、一人ボケ突っ込みのていになってきていたが、自分では気付いていない。

 わざと「自分は落ち着いている」と思い込みたくて、アルバートの肩など抱いてみたが、こちらが引き寄せるままにもたれかかってくるので、ますます胸が高まる始末である。

(まずい。汗をかいてきた。こんなに密着していて、匂わないだろうか)

 心臓がドキドキと高鳴り、鼓動が伝わってしまいそうだ。
 せめて鼻息が荒くならないようにと、剣技の際に教えてもらった呼吸法を試してみた。

 そして、ふと思う。

(これまで何人かの女と付き合ってきたが、こんな風に慌てたりときめいたりすることはなかった……)

 アルバートだけだ、こんなに自分を翻弄するのは。


(――惚れているんだ)


 これまで認めたくなくて、逃げ回っていた本当の気持ちに、ついに向き合ってしまった。

(わかっていたんだ。初めて会った時から)

 王宮の庭での出会い。
 あの七歳の日から、本当はずっと彼に恋してきた。
 幼な過ぎて気付かなかった感情も、今ならわかる。


 ――誰よりも守りたい、愛しい君。


 そんなアルバートが、今自分の腕の中にいる。

 そう思うと天にも昇りそうなエドウィンだったが、同時に自分たちが置かれている立場のことも、冷静に見つめていた。

(アルバートは、この国の王太子だ。将来は国王陛下として、国を治める立場にある)

 その時、彼の隣にいるのは妻となる立場のメアリーだ。
 ……自分ではない。
 エドウィンに出来るのは、せいぜい彼を補佐することくらい。


 そして、絶対にしてはいけないこと。

(自分の気持ちを押し付けて、巻き込んではいけない)

 王太子の同性愛スキャンダル、これだけは絶対に避けなければならない。
 アルバートを守る――それは、他人からでもあり、エドウィン自身から、という意味もあるのだ。


(俺の為に、アルバートを傷つけてなるものか)


 そう決心したばかりだというのに、とんでもないことが起きた。


 そろそろアルバートの肩から手を退かす為に、彼の体を起き上がらせると、その体が普段より火照っているのがわかる。

「おい、熱があるんじゃないか?」

「え? な、ないよ。熱なんて、ないから!」

 そう主張するアルバートだが、顔も先ほど以上に赤いし、目も充血している。

「いや、絶対に熱があるね」

「ないったら!」

 これ以上押し問答をしていても無駄だと、エドウィンはアルバートの両肩を掴み、自分の真正面に向かせた。

「なっ何を……」

 慌ててエドウィンの手を引き剥がそうともがくアルバートを、叱りつける。

「静かにして」

 ビクリと体を震わせたアルバートが、大人しくなった。

 その隙にアルバートの額に、自分の額をくっつける。
 顔が近付く瞬間、アルバートが目をギュッと閉じるのが見えて鼓動が早まったが、知らん顔でそのまま数秒おでこをくっつけた。

「ほら見ろ。やっぱり熱があるぞ。今日はもう帰ろう!」

「え、大丈夫だよ。このくらい、平気だから」

「そんなわけにいくか。ちょっと御者に声を掛けてくる」

 その瞬間――
 馬車が一瞬、傾いたかと思うと、ドゥンと跳ねた。
 中の二人の体もバランスを崩して倒れ込む。

 馬車のソファに、エドウィンを下にしてアルバートの体が上に重なった。

 「!」

 慌てて起き上がるアルバートの体がグラリと傾く。

「ほら、やっぱり熱があるんだ」

 エドウィンが倒れかけたアルバートの体を支えると、御者の方から声を掛けてきた。

「申し訳ございません。石畳の石が外れて道に穴があいていたようで、かなり大きく馬車が跳ねてしまいました。お怪我はございませんか?」

「ああ、怪我はないが、アルバートの体調が悪いようだ。すぐに城にもどってくれ」

「かしこまりました」

 大丈夫だと意地を張っていたアルバートが、今は黙り込んでいた。

(やはり具合が悪かったんだ。だから大人しくなったんだ)

 エドウィンは自分に言い聞かせる。
 アルバートが静かになってしまったのは、倒れ込んだとき、二人の唇が触れあってしまったからではない……
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