公爵家令息と幼馴染の王子の秘め事 ~禁じられても溺愛は止められない~

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エドウィンの後悔

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 あのミリアムからの「お話」の翌日、エドウィンは二人きりになったときを見計らって、改めて彼女に礼を言った。

「いえ、別にたいしたことではありませんから……」

 そう言いかけたミリアムが、ふと上目遣いで見上げてくる。

「じゃあ、お礼の代わりに一つお願いをしてもいいですか?」

 そのお願いというのが「勉強会」の提案だったのだ。

「一年生で、まだ学院の右も左もわかりきっていないのに、期末試験と学生祭の準備が重なって、正直どう対応したらいいのかわからなくて、困っていたんです」

 ミリアムは平民ながら学院の受験の際、トップの成績を取った優秀な学生である。
 一位という成績は、貴族ばかりの学院に平民として入学を許された理由として、彼女をよく思わない学生も納得せざるを得ない順位だ。
 そのおかげで、生徒会メンバーにも選ばれている。

 もし学期末の試験で生徒会に入る条件である五位より下の成績に落ちれば、それ見たことかと非難を受けることは目に見えていた。

「まあ、施設使用の割り振りが終われば、多少時間が取れるようになるし、いいんじゃないかな」

 快くお願いを受け入れ、今日他の生徒会メンバーにもその話をしたわけだった。

(しかし、さっきのアルバート、様子がおかしかったな)

 エドウィンの説明もあまり耳に入っていないように見えたので、最後に確認を取ったら一応賛成してくれてはいたのだが……。

(もしかしたら、迷惑だっただろうか)

 アルバートは王太子という立場上、たとえ迷惑に思っていたとしても、それをはっきり口にはしない。
 だからこちらが彼の内心をおもんぱかって、先回りしなければいけないと思っていたはずなのに、それが出来ていなかったということか。

(ここ最近の、俺の余裕のなさが招いてしまったのか)

 そこまで考えて、ミリアムの言葉を思い出す。


 ――アルバート先輩が先輩を避けているのは、先輩がアルバート先輩を避けているのと、同じ理由なんじゃないか、って……


(いや、いやまさか……)

 しかし学年一の才女ミリアムの言葉である。

(もし、そんな可能性が、万が一、いや億が一にもあるのなら……)

 甘い想像に、心がとろけそうになる。
 ニヤつく顔を表情筋で抑え込み、学生祭の準備の仕事に意識を集中させた。


 ★★★


 そんな中、ある日下校時刻が迫る時間に、アーノルドたちが「困った」「どうしよう」と言い合っているのが聞こえてきた。

「どうした、何か問題が起きたか?」

「いや、問題と言うようなことではないんだが」

 そう言って指さす方を見ると、アルバートが副会長用の執務机に突っ伏して眠っている。

「声を掛けても、全然目を覚まさないんだ。よほど疲れが溜まっていたんだろうとは思うんだが」

「アルバート先輩、勉強会用の参考資料まで、作ってくれてたんすよね。この忙しいときに……」

 ロバートも同意した。

(俺が安易に勉強会を提案してしまったせいか……)

 眠っているアルバートは顔色も青白く、心なしか目の下にもクマが出来ている。
 元が色白のせいか、クマはくっきりと見えて痛々しかった。

 後悔するエドウィンは、二人を説得する。

「このまま、もう少し寝かせておこう」

「でも、もう下校時刻になっちゃいますよ」

「仕方がないさ。見回りが鍵をかけに来るまでには、もう数時間ある。俺が見ているから、他の皆は先に帰れ」

「しかし、君だって疲れているだろうに」

 アーノルドが心配したが、エドウィンは首を振った。

「大丈夫。待つ間に俺も自分の勉強をしておくさ」

 その言葉にアーノルドたちも頷き、各々の家や寮に帰っていった。



 二人だけになった生徒会室の中、机で寝ているアルバートは、静かに寝息をたてている。

「ごめんよ、アルバート」

 背中に自分の上着をかけ、そっと頭をなでた。

 いつもはロバートが占拠している、生徒会室奥のカウチに座り、教科書を開く。
 ここからなら、机で寝ているアルバートもよく見えるので丁度いい。

 静かな時間が流れていった……


 ★★★


「エドウィン、エドウィン、起きて!」

 誰かが肩を揺する。
 ハッと起き上がると、アルバートが目の前に立っていた。

 既視感を覚え、一瞬、今がいつなのかわからなくなる。

(……ああ、そうか。学生祭の準備期間で、疲れて眠ってしまったアルバートが起きるのを待っていたんだった)

 そのはずだったのに、一緒になって居眠りしていたとは。
 エドウィンは情けなさに頭を掻く。

「あー、俺も寝ちまったのか。 …………今、何時だ」

「わからない。時計がないし」

 アルバートの方はしばらく前に目を覚ましていたようだ。

「とりあえず、帰らなきゃ」

「うん、起き上がれる?」

「大丈夫……」

 言いかけたとき、アルバートが手を差し出してきた。
 一瞬迷ったのち、その手を取る。
 久しぶりに触れるアルバートの手は、温かかった。

 アルバートは嬉しそうに微笑み、エドウィンをカウチから引っ張り上げてくれる。

「これ、返すよ。君のだろう?」

 アルバートの肩に掛けた上着だ。

「ああ、暑くなかったか?」

「大丈夫。夕方過ぎると気温が下がるから、風邪をひかずにすんだよ。ありがとう」

 何気なく交わした会話が、エドウィンの心に染みとおっていった。


 しかし、そんなほのぼのとした気持ちと裏腹に、困った事態に陥っていることに気が付いた。

「玄関の鍵が、掛けられている?」

 下校時刻は六時。
 その後、二、三時間したら見回りが中に学生が残っていないか確認して、各建物の出入口の鍵を閉めてまわる。

 時計がなくて時間がわからなかったのだが、どうやら二人に気付かずに、鍵をかけていってしまったらしい。

「裏口があったよな。念の為、見に行ってみよう」

 エドウィンはそう提案しながら、心が不思議に浮き立つのを感じていた。
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