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第一章 異世界でBL作家誕生
009-3
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幼い頃より、親の期待に応えられない娘であるという自覚はあった。
年の近い従姉妹たちのように、人形遊びに興じたり、ドレスやアクセサリーなどのおしゃれに興味を持てれば、親は満足したのだろう。
しかし、私はそれより「知りたい」という意欲が旺盛であった。
「知る」ために文字を教わりたがり、文字を覚えれば本を読みたいと思い、一つの本を読み終えれば次の本を読みたがる。
……私が男に生まれてさえいれば、それらのことは、むしろ親に歓迎されていたのだろう。
しかし女だというだけで、それは否定されてしまった。
私が一冊本を読み終える度に、父の眉間のしわが深くなり、兄や弟からの当たりがきつくなる。
両親は、いや家族や使用人に至るまで家中の者が私から知識欲を取り上げようとした。
母は涙を流しながら「あなたが将来、幸せな結婚をするためなのよ」と言ったが、では今、母は幸せなのだろうか?
とにかく、私は私であることを、周り中から否定されたのだ。
悲しかった。
そうして絶望の中で生きていたとき、ランズダウン公爵家のメイドになることが決まる。
大勢の応募者から、難関を突破して採用が決まったのだと、父が喜んで報告したが、私はそれをこう翻訳した。
『いい厄介払いの口実ができた』と。
こうして世界――子供にとって親や家族は、得てして世界そのものになってしまうことがある――から否定された私を救ったのは、雇い主であるランズダウン家と、主人であるメリーローズ様であった。
特にメリーローズ様は、実家では禁じられた『読書』を許してくれるのみならず、むしろ推奨してくださったのだ。
メリーローズ様の部屋の隣には、大きな書庫がある。メリーローズ様専用のものだ。
ランズダウン家としての書庫も勿論あったのだが、さすがにメイドである私がそこに立ち入ることは許されない。しかしメリーローズ様の書庫の中だけでもかなりの蔵書があり、「自分が読んでいる最中でないものについては、好きに読んでもいい」と直々に許可をいただいたのだ。
「わたくしなどが読んでも、よろしいので?」
実家の価値観とはあまりに大きい隔たりがあったため、私は困惑したが、メリーローズ様はツンと澄まして仰った。
「わたくし、頭の悪いメイドにかしずかれたくありませんの」
プライドの高い方だ。気持ちのいいほどに。
最初のうち、メリーローズ様は私に対してさほど懐いてはくださらなかった。
とはいえ、私もこういう性格なので、もし懐かれたところでどう対処したらいいのか、わからない。
そんなある日、私がメリーローズ様へゆるぎない忠誠心を捧げるきっかけとなった出来事が起きる。
きっかけは、メリーローズ様が当時通っていた中等学院で出された課題を、解いていたときのこと。
王都に住む高位貴族には、女性であっても王立の学院に通っている者がそれなりにいる。
第二王子の婚約者であるメリーローズ様も、王子妃として求められる知性や教養を身につけるため、学院に通われていた。
メリーローズ様付きのメイドとして迎え入れられてから、既に二年が経っている。
書庫の本を読んでいいと許可をいただいていた私は、メイドとしての仕事の合間を縫って日々読書に励み、蔵書のほとんどを読みつくしていた。
書庫にはメリーローズ様が過去に学院で学ばれていた際の教科書も保管されていたため、昨年までのカリキュラムなら全部理解し記憶している。
最初のうちは、堂々と学院に通い勉学に励むことができる高位貴族の少女たちを羨ましいと思ったが、しかし彼らが学んでいる内容をこうして知ることができるので、満足していた。
自室で課題に取り組んでいるメリーローズ様にお茶をお出ししたとき、その内容が目に留まった。
メリーローズ様は珍しく、課題が難航しておられるようである。
教科書こそメリーローズ様が去年使っていたものまでしか読んでいなかったものの、書庫の本を読み漁り知識があったせいか、私にはその答えが解った。
「あ」
つい声を漏らしてしまったのは、私のメイドとしての修行不足である。
メリーローズ様が私の顔を見上げた。
「あなた、これが解るの?」
どう答えようか悩んだ末に、正直に「はい」と言う。
主人に解けない問題がわかるなどと、バカにされていると嫌われても仕方がないことだ。メイドとしては知らぬ振り、見ない振りをするべきだっただろう。
しかしメリーローズ様は瞳をキラリと光らせた後、仰った。
「待って、まだ答えは言わないでね」
「……あ、はい」
「自分で解かなければ意味がないから。……でも、少しだけヒントをもらえないかしら?」
メリーローズ様のご要望に沿うよう、問題の解き方の方向性だけがわかるように伝えると、表情がパッと明るくなる。
「わかったわ!……なるほど、そういう風に考えたらいいのね!」
メリーローズ様は自分に解けない問題をメイドが解いてしまったからといって、怒るような狭量な方ではなかった。
むしろ私の能力を評価してくださったのだ。
「シルヴィア、あなた優秀な頭脳を持っているのね。頼もしいわ」
年の近い従姉妹たちのように、人形遊びに興じたり、ドレスやアクセサリーなどのおしゃれに興味を持てれば、親は満足したのだろう。
しかし、私はそれより「知りたい」という意欲が旺盛であった。
「知る」ために文字を教わりたがり、文字を覚えれば本を読みたいと思い、一つの本を読み終えれば次の本を読みたがる。
……私が男に生まれてさえいれば、それらのことは、むしろ親に歓迎されていたのだろう。
しかし女だというだけで、それは否定されてしまった。
私が一冊本を読み終える度に、父の眉間のしわが深くなり、兄や弟からの当たりがきつくなる。
両親は、いや家族や使用人に至るまで家中の者が私から知識欲を取り上げようとした。
母は涙を流しながら「あなたが将来、幸せな結婚をするためなのよ」と言ったが、では今、母は幸せなのだろうか?
とにかく、私は私であることを、周り中から否定されたのだ。
悲しかった。
そうして絶望の中で生きていたとき、ランズダウン公爵家のメイドになることが決まる。
大勢の応募者から、難関を突破して採用が決まったのだと、父が喜んで報告したが、私はそれをこう翻訳した。
『いい厄介払いの口実ができた』と。
こうして世界――子供にとって親や家族は、得てして世界そのものになってしまうことがある――から否定された私を救ったのは、雇い主であるランズダウン家と、主人であるメリーローズ様であった。
特にメリーローズ様は、実家では禁じられた『読書』を許してくれるのみならず、むしろ推奨してくださったのだ。
メリーローズ様の部屋の隣には、大きな書庫がある。メリーローズ様専用のものだ。
ランズダウン家としての書庫も勿論あったのだが、さすがにメイドである私がそこに立ち入ることは許されない。しかしメリーローズ様の書庫の中だけでもかなりの蔵書があり、「自分が読んでいる最中でないものについては、好きに読んでもいい」と直々に許可をいただいたのだ。
「わたくしなどが読んでも、よろしいので?」
実家の価値観とはあまりに大きい隔たりがあったため、私は困惑したが、メリーローズ様はツンと澄まして仰った。
「わたくし、頭の悪いメイドにかしずかれたくありませんの」
プライドの高い方だ。気持ちのいいほどに。
最初のうち、メリーローズ様は私に対してさほど懐いてはくださらなかった。
とはいえ、私もこういう性格なので、もし懐かれたところでどう対処したらいいのか、わからない。
そんなある日、私がメリーローズ様へゆるぎない忠誠心を捧げるきっかけとなった出来事が起きる。
きっかけは、メリーローズ様が当時通っていた中等学院で出された課題を、解いていたときのこと。
王都に住む高位貴族には、女性であっても王立の学院に通っている者がそれなりにいる。
第二王子の婚約者であるメリーローズ様も、王子妃として求められる知性や教養を身につけるため、学院に通われていた。
メリーローズ様付きのメイドとして迎え入れられてから、既に二年が経っている。
書庫の本を読んでいいと許可をいただいていた私は、メイドとしての仕事の合間を縫って日々読書に励み、蔵書のほとんどを読みつくしていた。
書庫にはメリーローズ様が過去に学院で学ばれていた際の教科書も保管されていたため、昨年までのカリキュラムなら全部理解し記憶している。
最初のうちは、堂々と学院に通い勉学に励むことができる高位貴族の少女たちを羨ましいと思ったが、しかし彼らが学んでいる内容をこうして知ることができるので、満足していた。
自室で課題に取り組んでいるメリーローズ様にお茶をお出ししたとき、その内容が目に留まった。
メリーローズ様は珍しく、課題が難航しておられるようである。
教科書こそメリーローズ様が去年使っていたものまでしか読んでいなかったものの、書庫の本を読み漁り知識があったせいか、私にはその答えが解った。
「あ」
つい声を漏らしてしまったのは、私のメイドとしての修行不足である。
メリーローズ様が私の顔を見上げた。
「あなた、これが解るの?」
どう答えようか悩んだ末に、正直に「はい」と言う。
主人に解けない問題がわかるなどと、バカにされていると嫌われても仕方がないことだ。メイドとしては知らぬ振り、見ない振りをするべきだっただろう。
しかしメリーローズ様は瞳をキラリと光らせた後、仰った。
「待って、まだ答えは言わないでね」
「……あ、はい」
「自分で解かなければ意味がないから。……でも、少しだけヒントをもらえないかしら?」
メリーローズ様のご要望に沿うよう、問題の解き方の方向性だけがわかるように伝えると、表情がパッと明るくなる。
「わかったわ!……なるほど、そういう風に考えたらいいのね!」
メリーローズ様は自分に解けない問題をメイドが解いてしまったからといって、怒るような狭量な方ではなかった。
むしろ私の能力を評価してくださったのだ。
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