悪役令嬢はBL作家「処刑覚悟で萌えますわ!」~婚約者の王子様ごめんなさい、あなたをネタに小説書いてます~

すえつむ はな

文字の大きさ
52 / 206
第二章 ゲーム開始

023 公爵令嬢、落ち着く

しおりを挟む
 授業そのものは、つつがなく終了した。

 ミュリエルの周囲に漂う邪気の源を探るため、授業が終わる五分前にはアデレイドを起こす。

「んがっ!」

 鼻提灯ちょうちんを出さんばかりにコックリコックリしていたアデレイドであったが、そっと肩を叩くと案外寝覚めがよく、授業終了時にはずっと傾聴していたかのような顔で教師に礼をしていた。

 鐘が鳴ると、学生たちはガタガタと席を立ち、寮や家に帰ろうと出口に殺到する。
 シルヴィアは素早く立ち(アデレイドを立たせ)、ミュリエルたちのすぐ後ろにつけた。

 ミュリエルと隣の赤毛の少女がどんな会話をしているか、邪気を発しているのはどちらなのか、見極めようとしているのに、アデレイドが話しかけてくるので、なかなか集中できない。

「それでー、メリーローズ様にお伝えしていただきたいのですけど……」

「あ、はい。何を伝えればいいのですか?」

 今ちょうどミュリエルが、この学院に入学することになったきっかけについて、お喋りしていたところだった。

 ミュリエルが持つ力の、何を期待されてこの学院に来たのか。
 その辺りの設定をメリーローズが忘れてしまっていたので、これは大事な情報だと耳を一段と澄ませたときにアデレイドから話しかけられてしまい、シルヴィアは内心舌打ちしたい気分である。

 と、そのときミュリエルがこちらを振り向いた。

「メリーローズ様……?」

 不意打ちだったため、シルヴィアはミュリエルとしっかり目が合ってしまう。

「あ、な、何か?」

 平静を装うが、噛んでしまった。
 不自然ではなかったかと、不安になる。
 が、そんなシルヴィアの様子を気にも留めていない様子で、ミュリエルが笑顔になった。

「あなたは昨日、ランズダウン公爵令嬢様とご一緒にいらした方ですね?」

(もう、わたくしのことも認識されている……!)

「はい。わたくしはランズダウン公爵令嬢付きのメイドを務めておりますマコーリーと申します。以後、お見知りおきを」

 焦りを隠しながら、四角四面に頭を下げる。
 ここは慇懃な態度で挨拶だけをして、そのまま距離をとろうと考えていたのだ。そこへ――

「えーっ! シルヴィアさんの苗字ってマコーリーさんていうんですね。知らなかったですー」

 横で聞いていたアデレイドが、シルヴィアの個人名ファーストネームを言ってしまった。

 個人の名前は「しゅ」にも使うことがある。家族姓ラストネームだけなら、一族全部を含むので、「呪」をかけるときも対象が曖昧になり精度が落ちるのだが、個人名がわかるとそれだけ対象がはっきりし、「呪」の成功率が高くなる。

 ミュリエルがそういった魔力の知識を持っているかはわからないが、念には念を入れ、自分の名前を教えないように警戒したのに、アデレイドのせいで台無しだ。

 そんなシルヴィアの心を知ってか知らずか、ミュリエルが丁寧に頭を下げる。

「シルヴィア・マコーリー様と仰るのですね。私はミュリエル・ルーカンと申します。……あ、もうご存じかも知れませんが」

「ええ。存じておりますわ。主人のであるアルフレッド様や兄上のメルヴィン様も、あなた様を気にかけていらっしゃいましたから」

 言葉の中で、敢えてアルフレッドがメリーローズの婚約者であることを強調して、牽制した。

 例えゲームの世界の設定がどうであろうと、平民のこの女が公爵令嬢であるメリーローズを差し置いて王族のアルフレッドと結ばれるなど、断じて認められない。

「なんてもったいない……。本来私のような平民が、こんな高貴な方々のまなに来ることなど、ありえなかったのですが、そんな私を皆様で気遣っていただいて、本当にありがたいことです」

 ミュリエルの態度も言葉も、あくまで謙虚である。

 先ほど感じた邪気は、今もミュリエルの方向から感じられるが、シルヴィアの位置からだと、ちょうどミュリエルの真後ろに赤毛の少女が立っていて、どちらから邪気が発せられているのか判別しにくい。

 とりあえず、今日のところはここまでにして、引き下がることにした。

「では、主人の世話がございますので、ごきげんよう」

「はい、ではまた」

 ここまで、ミュリエルの言葉や態度に不審な点はなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!

アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。 「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」 王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。 背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。 受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ! そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた! すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!? ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。 ※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。 ※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

処理中です...