悪役令嬢はBL作家「処刑覚悟で萌えますわ!」~婚約者の王子様ごめんなさい、あなたをネタに小説書いてます~

すえつむ はな

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第三章 BL小説の存在、世に知られる

083 公爵令嬢と禁忌の魔術

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「え? ジャクリーンに名前を書き忘れさせることができる?」

「……ええ、まだ実際に試したことはないのですが……」

 寮の部屋に戻ったとき、シルヴィアがこっそりとメリーローズに打ち明けた。

 式神を使って、ジャクリーンの注意をテストの問題に集中させて、名前を書くのを忘れさせることができる。
 意識操作の呪文を使えば可能だということを思い出したのだ。

「本来邪道というか、やはり誰かの心を操る……というのは例えできたとしても、実行してはいけないと禁止されていたものなので、そういうものがあったことさえ忘れかけておりました」

「それは……確かにそうね。いくら友達のためとはいえ、誰かの意識を操って、しかもその人の努力を無にするなんていう卑怯な手は使いたくないわ」

「……そうですよね」

 シルヴィアはホッとした。
 もし、その手を使ってみよう、などとメリーローズが言い出したらどうしようかと思っていたのだ。

(まあ、今まで見てきたお嬢様は、そんなことをする方ではないとは思っていたが)

 それでも、はっきり口に出して「できない」と言ってもらえたことで、心から安堵できた。

 …………とシルヴィアが安心したその時である。
「待って。そんなことが出来るんだったら、学長の意識から『BL本』の記憶を抜き去ることはできないかしら! それなら私もまた小説を書けるし、キンバリーたちも本を出版出来るし、読者の皆にもまた読んでもらえるし、万々歳じゃない?」

 興奮した面持ちでそうシルヴィアに持ちかけるメリーローズを見て、がっくりと肩を落とした。

「…………あの、そういう意識操作の呪法が及ぶのはほんの一時だけで、長時間持続して記憶を消すとか、そういうことはできません」

 説明しながら、泣きたい気分になるシルヴィアである。

(ご自分のBL欲の為なら、人心を操る危険な魔法にも、一切躊躇ためらいがないのですね……)

「なーんだ、そうかあ」

 明らかにガッカリした顔を見せたメリーローズだが、その直後ニマァー……と笑う。

(う……イヤな予感)

 構えるシルヴィアの苦い表情も気にせず、朗らかに提案してきた。

「アルたんとお兄様の意識を操って、二人を恋人同士にできないかしら! 一時的でいいのよ。ただ、一度でいいから二人の生キスシーンを……」

「だ・め・で・す!」

 大きく拒絶しながら、シルヴィアはもう怒っていいのか泣いていいのか、わからなくなっていた。

(どうして、ことBLに関しては自制が効かなくなってしまうのですか……!)

 深呼吸しながら、爆発しそうな感情を押さえていたシルヴィアに、メリーローズが小声で言う。

「ねえ、何だか怖いことを思いついちゃった……」

「今度は何ですか?」

「その、人の意識を操る呪法って、シルヴィアの家だけに伝わるものなのかしら」

「…………え?」

 ふいを突かれて、シルヴィアは息を飲んだ。

「例えば……あくまで例えばよ? わたくしがアルたんとお兄様のキスシーンを見たいというのは、ただおのれの欲望を満たす為だけど……」

(……はっきり言いましたね。自分の欲望の為だと)

 一瞬呆れたシルヴィアだったが、続く言葉にはゾッとするものを感じた。

「誰かが王家や我が家を陥れようとして、アルたんやお兄様の意識を操り、……人の目がたくさんあるところ……休日のガーデニア広場辺りで、二人にキスをさせたら、どうなると思う?」

「…………そ…………」

 それは、とんだスキャンダルになる。

 確かに、今までそういった呪文が他でも伝わっているかどうかなど、考えたこともなかったが、絶対にないとは言い切れない。

「わたくしのように式神を操る方法は、他の家でも伝わっている可能性がありますね。今までそれを悪用しようと考えた人間がいなかっただけで」
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