294 / 404
最終章 BLよ、永遠なれ
145 公爵令嬢の兄、式神を受け取る
しおりを挟む
その日の夕刻、ランズダウン邸の正門に一台の馬車が停まった。
「ランズダウン家の使用人、ロナルド・マコーリーだ。主人であるメルヴィン様に、勉強で使う教科書を持ってきた。メルヴィン様にお届けしたい」
例によって門番は二人いたが、先日の若い男たちではない。
胡散臭そうにこちらを見てくるので「中を確かめてくれて、構わない」と伝える。
そこまで言っても、どうすべきか相談を始めるので、ロナルドは背中が気になって仕方がなかった。
そこへちょうど見知った顔の二人が来て、交代の時間を告げる。
ロナルドを見て、小さく会釈した。
その様子に、相談していた門番たちが彼らに問いかける。
「知っているのか?」
「ランズダウン家の使用人だ。前にも来たことがある」
ロナルドがメルヴィンのために教科書を持ち込みたいこと、中を確認しても構わないことを説明すると、後から来た顔見知りのうちの一人が上の人間へ掛け合いに行ってくれた。
「何度もわがままを申して、済みません。主人は勉強熱心なので、きっと必要に感じていると思ったもので……」
アルフレッドを見習い、腰を低くして対応してみる。
すると顔見知りの門番も、今日初めて会った二人も、意外なほどにこちらへの態度を軟化させてきた。
「先にこっちで中身の確認をはじめておこうか」
掛け合いに行ったのと違うもう一人の門番が、そう言ってチェックをし始める。
残りの二人もそれに倣って確認作業に入ってくれた。
(ありがとう。信頼を裏切って悪いけれど、あんたたちの不利にはならないよう努力するよ)
ロナルドは彼らに心の中で頭を下げる。
それでも苦労して作った式神は、どうしてもメルヴィンに届けなければいけない。
* * *
式神を作ることにしたのはいいものの、ロナルドの記憶はすでにおぼろげで、おまけに元となる紙の人形に書き込む術式が意外に複雑なので、何度も間違えてはやり直しをさせられたのだ。
『お前、大司教が来るときに何枚も式神を作っていたよな? あれでなんで覚えていないんだ!』
術式は一か所書き間違えただけで、紙人形が紙人形のまま、どんなに魔力を込めてもらっても式神にはならない。
魔法学の教授とかいう、やたらに体格のいい男に来てもらい、アデレイドが魔力の込め方をレクチャーしてもらって頑張ってくれるが、元の術式が間違えていれば、式神にはならないのだ。
ミスをした紙人形に無駄に魔力を込めて、ヘトヘトになっているアデレイドに謝るが「大丈夫です! 次、がんばりましょう」と逆に励まされる始末である。
あんなに何度もやり直しして魔力を使わせて、怒っても仕方がないのに自分を責めずにがんばるアデレイドには、申し訳ないうえに、むしろ元気をもらうほどで頭が上がらない。
アデレイドはロナルドを責めるよりも、ただただメリーローズを助けたい一心なのだ。
その一途さに、見ていて時々涙が出そうになっている自分に、ロナルドは驚いていた。
何度も失敗する弟を見かねて、最後にシルヴィアが他の人との通信を一旦切って、生徒会室との通信を音声に加え画像を映す設定に変更する。
といってもシルヴィアの方では生徒会室の画像を見ることは出来るが、シルヴィア側の画像を見ることは出来ないので、一旦こちらで書いた術式を見てもらい、口頭でどこが間違っているか指摘してもらう形だ。
『違う、一番上の文字の横の点が抜けている。たかが点だが、これがないと動かない』
『違う、そこは□を四つじゃなくて五つ書くんだ』
そんな感じで絞られるだけ絞られたあと、ようやく紙人形が『式神』として動き出したときは、生徒会室に歓声があがった。
「やりましたー! やりましたー!」
* * *
涙を流して喜ぶアデレイドを抱きしめたい衝動にかられ、どうにか我慢したことを思い出し、ロナルドは門番たちを前にして意味もなく顔が赤らむ。
(俺は誰かのために、あんなに一生懸命になることなんて、なかった。それが眩しかっただけだ)
誰も聞いていない言い訳を、ロナルドは心の中で繰り返すのだった。
「ランズダウン家の使用人、ロナルド・マコーリーだ。主人であるメルヴィン様に、勉強で使う教科書を持ってきた。メルヴィン様にお届けしたい」
例によって門番は二人いたが、先日の若い男たちではない。
胡散臭そうにこちらを見てくるので「中を確かめてくれて、構わない」と伝える。
そこまで言っても、どうすべきか相談を始めるので、ロナルドは背中が気になって仕方がなかった。
そこへちょうど見知った顔の二人が来て、交代の時間を告げる。
ロナルドを見て、小さく会釈した。
その様子に、相談していた門番たちが彼らに問いかける。
「知っているのか?」
「ランズダウン家の使用人だ。前にも来たことがある」
ロナルドがメルヴィンのために教科書を持ち込みたいこと、中を確認しても構わないことを説明すると、後から来た顔見知りのうちの一人が上の人間へ掛け合いに行ってくれた。
「何度もわがままを申して、済みません。主人は勉強熱心なので、きっと必要に感じていると思ったもので……」
アルフレッドを見習い、腰を低くして対応してみる。
すると顔見知りの門番も、今日初めて会った二人も、意外なほどにこちらへの態度を軟化させてきた。
「先にこっちで中身の確認をはじめておこうか」
掛け合いに行ったのと違うもう一人の門番が、そう言ってチェックをし始める。
残りの二人もそれに倣って確認作業に入ってくれた。
(ありがとう。信頼を裏切って悪いけれど、あんたたちの不利にはならないよう努力するよ)
ロナルドは彼らに心の中で頭を下げる。
それでも苦労して作った式神は、どうしてもメルヴィンに届けなければいけない。
* * *
式神を作ることにしたのはいいものの、ロナルドの記憶はすでにおぼろげで、おまけに元となる紙の人形に書き込む術式が意外に複雑なので、何度も間違えてはやり直しをさせられたのだ。
『お前、大司教が来るときに何枚も式神を作っていたよな? あれでなんで覚えていないんだ!』
術式は一か所書き間違えただけで、紙人形が紙人形のまま、どんなに魔力を込めてもらっても式神にはならない。
魔法学の教授とかいう、やたらに体格のいい男に来てもらい、アデレイドが魔力の込め方をレクチャーしてもらって頑張ってくれるが、元の術式が間違えていれば、式神にはならないのだ。
ミスをした紙人形に無駄に魔力を込めて、ヘトヘトになっているアデレイドに謝るが「大丈夫です! 次、がんばりましょう」と逆に励まされる始末である。
あんなに何度もやり直しして魔力を使わせて、怒っても仕方がないのに自分を責めずにがんばるアデレイドには、申し訳ないうえに、むしろ元気をもらうほどで頭が上がらない。
アデレイドはロナルドを責めるよりも、ただただメリーローズを助けたい一心なのだ。
その一途さに、見ていて時々涙が出そうになっている自分に、ロナルドは驚いていた。
何度も失敗する弟を見かねて、最後にシルヴィアが他の人との通信を一旦切って、生徒会室との通信を音声に加え画像を映す設定に変更する。
といってもシルヴィアの方では生徒会室の画像を見ることは出来るが、シルヴィア側の画像を見ることは出来ないので、一旦こちらで書いた術式を見てもらい、口頭でどこが間違っているか指摘してもらう形だ。
『違う、一番上の文字の横の点が抜けている。たかが点だが、これがないと動かない』
『違う、そこは□を四つじゃなくて五つ書くんだ』
そんな感じで絞られるだけ絞られたあと、ようやく紙人形が『式神』として動き出したときは、生徒会室に歓声があがった。
「やりましたー! やりましたー!」
* * *
涙を流して喜ぶアデレイドを抱きしめたい衝動にかられ、どうにか我慢したことを思い出し、ロナルドは門番たちを前にして意味もなく顔が赤らむ。
(俺は誰かのために、あんなに一生懸命になることなんて、なかった。それが眩しかっただけだ)
誰も聞いていない言い訳を、ロナルドは心の中で繰り返すのだった。
0
あなたにおすすめの小説
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい
藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ!
「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」
社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから!
婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。
しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!?
さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。
「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる