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スピンオフ
ロナルドとアデレイド 1
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俺はロナルド・マコーリーという。
ローデイル王国の王都から、馬車で1日半の距離にあるマコーリー領。
その地を治める男爵家の次男坊だ。
男爵家の生まれだからといって、いいことなんかなにもなかった。
せいぜい領民より多少いいものを食って、多少いいものを着られるくらいだ。
……あの当時の俺は、それを当たり前だと思い、自分よりも贅沢をしている兄貴と比べては、不満を募らせる毎日だった。
人生に腐っていた俺に転機が訪れたのは、実家を飛び出してからのことである。
家でいいように使われるのが嫌になった俺は、「このままじゃ兄貴の使用人として、人生が終わってしまう」と焦り、家を出ていくことにした。
とはいえ、闇雲に外に出たって先は見えている。
なにか生きていくための担保となるようなモノが欲しい。
そこで思い出したのが、家を出ていった姉貴がひい祖母さんから受け継いでいた「魔法」だった。
この国では「魔法」は卑しいものとされている。
だがお偉い方々が忌避すればするほど、むしろその力は希少なものとなるわけだ。
多少汚い手を使ってでも、上にのしあがりたいとか、財を手に入れたいと考える俗物は大勢いる。
誰だって自分が一番、可愛いのだから。
そこに俺がつけ込む隙があるというなら、俗物様々だ。
というわけで、俺は姉貴の部屋を物色し、クローゼットに隠してあった魔法の指南書を見つけ出した。
正直、本の内容は難しかった。
姉貴がひい祖母さんから魔力を教わったのは随分前で、当時はまだほんの子供だったはずなのに、これを理解してたっていうのか!
今更ながらに、姉貴との頭の違いを思い知らされて、面白くない。
とはいえ、そんなことも言っていられず、とにかく売り込むのに役立ちそうな魔術の方法を、片っ端から書き写した。
本をそのまま持って逃げることも考えたが、姉貴が帰ってきて俺が本を盗んだことがバレたら、後々やっかいなことになる。
公爵家にメイドとして雇われた姉貴は、何年も家に帰らなかったが、去年ひょっこりと顔を出しやがった。
その頃、本を盗むことを考えるようになっていた俺は、肝が冷えた。
もし盗んだ後だったら、詮索され所業がばれ、親父から大目玉を喰らわされていたに違いない。
俺は姉貴の本から様々な魔術を写し取った後、両親と兄貴の目を盗んで家を出た。
家を出たらどこに行くか?
勿論、王都に決まっている!
乗り合い馬車を乗り継ぎ、俺は女王陛下のおわす都へ颯爽と乗り込んだ! ……はずだった。
しかし「花の都」と称される王都は、花なんかでは言い表せないくらい賑やかで美しく、行き交う人々もまた金持ちなり。
いくら王都だからといって、貴族ばかりが住んでいるわけではない。
そのほとんどが平民のはずだ。
……なのに、その平民たちが貴族である俺より、よほどいいものを着ているではないか。
道行く人々、特に若い女性が俺を見てクスクスと笑いやがる。
多分俺の着ている服が、流行遅れでみすぼらしいからだ。
俺は王都に馴染むべく、早速テーラーへと足を運ぶ。
そこは本来一人一人の顧客のサイズを測って仕立てるタイプの店だったが、見本として吊るしてあった服の中から、自分に合うサイズのものを選び、無理を言って売ってもらった。
でき上るまで一週間もかかるなんて、冗談じゃない。
それに、できあいの方が安く済むのは常識だ。
とりあえず安宿で部屋をとり、その服に着替える。
おかげで俺も、この都に溶け込むことができた。
再び通りを歩くと、俺に微笑みかける女性が何人かいたが、きっと俺に見惚れているのだと思う。
母親似の俺は、顔だけはいい方だ。
俺の見栄えがよくなった途端、笑いかけるだけでなく、大胆にも話しかけてくるご婦人方がいた。
「都は初めてなの?」
「流行りのレストランを案内するわ」
「ここのお芝居が人気よ」
親切に色々教えてもらえたが、彼女たちの言う通りにあっちの店、こっちの劇場と遊び回って奢っていたら、あっという間に持ってきていた貯金が底をついた。
安宿を追い出され行き場をなくした俺は、とりあえず大聖堂の扉を叩く。
ここなら、どんな貧民でも宿泊くらいはさせてくれる。
しかもそこで俺は、運命的な出会いをした。
「やあ、君だね。魔術の方法を知っているというのは」
運命的といっても、恋に落ちたわけではない。
相手は男、しかも大司教。
この国の宗教は『大精霊教』というが、それをまとめるトップ、この宗教における一番高い地位の人間だ。
おれはご婦人方と遊ぶだけでなく、「魔術」を使いたいという俗物、おっと顧客を探してもいたのだが、魔法を使うと聞くと敬遠する人間が多く、思ったほど魔術の営業は上手くいかなかった。
王都には案外、俗物が少ないらしい。
……と思っていたところに食いついてきたのが、なんと大司教!
いいのか?
大司教なのに!
なーんて俺は思わない。
お客様として金を落としてくれるなら、俗物大司教だって大歓迎だ!
こうして俺は、大聖堂で寝泊まりできることになり、司教じゃないけど聖職の人間のような顔をして、大司教の、言わばブレインになった。
(しめしめ、やっと俺にも運が開けてきたぞ!)
そう喜んだのも束の間、大司教のお供をして王立高等学院に乗り込んで、そこの学長や大司教の悪だくみのために奔走した挙げ句、姉貴とその仲間たちにとっ捕まったのは、ご存じだろう。
しかしそこで、俺は今度こそ本当の、運命の出会いをしたんだ。
俺の天使――アディ。
アデレイド・ロングハースト侯爵令嬢に。
ローデイル王国の王都から、馬車で1日半の距離にあるマコーリー領。
その地を治める男爵家の次男坊だ。
男爵家の生まれだからといって、いいことなんかなにもなかった。
せいぜい領民より多少いいものを食って、多少いいものを着られるくらいだ。
……あの当時の俺は、それを当たり前だと思い、自分よりも贅沢をしている兄貴と比べては、不満を募らせる毎日だった。
人生に腐っていた俺に転機が訪れたのは、実家を飛び出してからのことである。
家でいいように使われるのが嫌になった俺は、「このままじゃ兄貴の使用人として、人生が終わってしまう」と焦り、家を出ていくことにした。
とはいえ、闇雲に外に出たって先は見えている。
なにか生きていくための担保となるようなモノが欲しい。
そこで思い出したのが、家を出ていった姉貴がひい祖母さんから受け継いでいた「魔法」だった。
この国では「魔法」は卑しいものとされている。
だがお偉い方々が忌避すればするほど、むしろその力は希少なものとなるわけだ。
多少汚い手を使ってでも、上にのしあがりたいとか、財を手に入れたいと考える俗物は大勢いる。
誰だって自分が一番、可愛いのだから。
そこに俺がつけ込む隙があるというなら、俗物様々だ。
というわけで、俺は姉貴の部屋を物色し、クローゼットに隠してあった魔法の指南書を見つけ出した。
正直、本の内容は難しかった。
姉貴がひい祖母さんから魔力を教わったのは随分前で、当時はまだほんの子供だったはずなのに、これを理解してたっていうのか!
今更ながらに、姉貴との頭の違いを思い知らされて、面白くない。
とはいえ、そんなことも言っていられず、とにかく売り込むのに役立ちそうな魔術の方法を、片っ端から書き写した。
本をそのまま持って逃げることも考えたが、姉貴が帰ってきて俺が本を盗んだことがバレたら、後々やっかいなことになる。
公爵家にメイドとして雇われた姉貴は、何年も家に帰らなかったが、去年ひょっこりと顔を出しやがった。
その頃、本を盗むことを考えるようになっていた俺は、肝が冷えた。
もし盗んだ後だったら、詮索され所業がばれ、親父から大目玉を喰らわされていたに違いない。
俺は姉貴の本から様々な魔術を写し取った後、両親と兄貴の目を盗んで家を出た。
家を出たらどこに行くか?
勿論、王都に決まっている!
乗り合い馬車を乗り継ぎ、俺は女王陛下のおわす都へ颯爽と乗り込んだ! ……はずだった。
しかし「花の都」と称される王都は、花なんかでは言い表せないくらい賑やかで美しく、行き交う人々もまた金持ちなり。
いくら王都だからといって、貴族ばかりが住んでいるわけではない。
そのほとんどが平民のはずだ。
……なのに、その平民たちが貴族である俺より、よほどいいものを着ているではないか。
道行く人々、特に若い女性が俺を見てクスクスと笑いやがる。
多分俺の着ている服が、流行遅れでみすぼらしいからだ。
俺は王都に馴染むべく、早速テーラーへと足を運ぶ。
そこは本来一人一人の顧客のサイズを測って仕立てるタイプの店だったが、見本として吊るしてあった服の中から、自分に合うサイズのものを選び、無理を言って売ってもらった。
でき上るまで一週間もかかるなんて、冗談じゃない。
それに、できあいの方が安く済むのは常識だ。
とりあえず安宿で部屋をとり、その服に着替える。
おかげで俺も、この都に溶け込むことができた。
再び通りを歩くと、俺に微笑みかける女性が何人かいたが、きっと俺に見惚れているのだと思う。
母親似の俺は、顔だけはいい方だ。
俺の見栄えがよくなった途端、笑いかけるだけでなく、大胆にも話しかけてくるご婦人方がいた。
「都は初めてなの?」
「流行りのレストランを案内するわ」
「ここのお芝居が人気よ」
親切に色々教えてもらえたが、彼女たちの言う通りにあっちの店、こっちの劇場と遊び回って奢っていたら、あっという間に持ってきていた貯金が底をついた。
安宿を追い出され行き場をなくした俺は、とりあえず大聖堂の扉を叩く。
ここなら、どんな貧民でも宿泊くらいはさせてくれる。
しかもそこで俺は、運命的な出会いをした。
「やあ、君だね。魔術の方法を知っているというのは」
運命的といっても、恋に落ちたわけではない。
相手は男、しかも大司教。
この国の宗教は『大精霊教』というが、それをまとめるトップ、この宗教における一番高い地位の人間だ。
おれはご婦人方と遊ぶだけでなく、「魔術」を使いたいという俗物、おっと顧客を探してもいたのだが、魔法を使うと聞くと敬遠する人間が多く、思ったほど魔術の営業は上手くいかなかった。
王都には案外、俗物が少ないらしい。
……と思っていたところに食いついてきたのが、なんと大司教!
いいのか?
大司教なのに!
なーんて俺は思わない。
お客様として金を落としてくれるなら、俗物大司教だって大歓迎だ!
こうして俺は、大聖堂で寝泊まりできることになり、司教じゃないけど聖職の人間のような顔をして、大司教の、言わばブレインになった。
(しめしめ、やっと俺にも運が開けてきたぞ!)
そう喜んだのも束の間、大司教のお供をして王立高等学院に乗り込んで、そこの学長や大司教の悪だくみのために奔走した挙げ句、姉貴とその仲間たちにとっ捕まったのは、ご存じだろう。
しかしそこで、俺は今度こそ本当の、運命の出会いをしたんだ。
俺の天使――アディ。
アデレイド・ロングハースト侯爵令嬢に。
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