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スピンオフ
ロナルドとアデレイド 4
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しかし粘り強く辛抱強く、アディをデートに誘い、会話を交わし、お互いのことを知りあううちに、俺たちはやっと「恋人同士」のような雰囲気になってきた。
時を重ね、あと数か月でアディたちも高等学院を卒業するという頃、次の段階へと進むべく俺は心を決める。
すなわち、プロポーズである。
休日、バードウォッチングを口実に(相変わらずなにか用事がないと誘えないヘタレである)公園へと誘い、いい感じのベンチに座って切り出す。
「いい天気だね、アディ」
「はい」
「あー、ところでアディは……」
「見てください! ツバメさんです! 南に帰るんですね」
「アディは南に帰るのか?」
「え?」
しまった、間違えた。
「……そうなんです。卒業したら南にある実家の領地に戻らないといけないんです……」
アディの方で軌道修正してくれた。
「アディ、故郷には、その……婚約者とかいるのか?」
「ええっ! いませんよう!」
やった! よかったー!
内心でガッツポーズする俺とは正反対に、アディの顔が曇る。
「わたくしバカだから、結婚しようって思ってくれる殿方がいないんです……」
「そんな!」
いるいる! 目の前にいるぞ!
口元まで出かかった言葉を飲み込んで話を聞いた。
「お父様やお義母様の方でも、わたくしと婚約したいという殿方を探していたみたいなんですけど、あるとき『自分で相手を探しなさい』って言われて……」
「そんな!」
それじゃあ、アディの結婚相手を探すのを諦めたってことじゃないか!
再び俺の中に、アディの両親に対する怒りが込み上げる。
こんなの、アディが可哀想すぎるだろう!
どうやってプロポーズの言葉にもっていくか、頭を悩ませていた俺だったが、勢いにまかせてぶちまけてしまった。
「俺が結婚する!」
「え? ロナルドさんは婚約者さんがいたんですか?」
「違う! 俺が、アディの婚約者になる! そしてアディと結婚する!」
「…………ええーーーーっ?」
目を真ん丸に見開いて驚くアディの表情はとても愛らしかったが、俺はそこで自分の失敗に気が付いた。
「あ……い、嫌だよな。俺なんかと結婚なんて……」
「いいえ……すごく、うれしいです」
俯きつつあった俺は、驚いて顔を上げた。
「え、ほ、本当?」
「はい」
「俺の、花嫁になってくれるのか?」
すると、アディは今まで見たこともないような、恥ずかしそうな、でもうれしそうな顔をして、俺を上目遣いで見つめてくる。
「…………はい」
そのあまりの可愛さに頭がくらくらしながらも、大事な話をしなければいけないことを思い出した。
「俺には継げる爵位がない。財もないし、頭も悪い。それでも……本当にいいのか?」
「これからもわたくしと一緒に、小鳥さんを見てくれますか?」
「ああ、君が望むならいくらでも」
「じゃあ、……はい!」
ガラス細工の花びらに触れるように、そっとアディのおでこにキスをする。
最高に幸せな瞬間だった。
* * *
しかし早くも俺たちの婚約は座礁に乗り上げる。
いや、問題だらけなのを承知で婚約したわけなのだが、姉貴がかまびすしい。
「貴族同士の婚約は、当事者の気持ちのみで成立するわけではないのだぞ!」
わかってるよ、そんなこと。
「でも。それを知ったうえで、プロポーズされたんですよね?」
「それくらい、アデレイド様のことが好きっていうことなのですよね?」
「ロマンティックですわ!」
ミュリエル嬢、エルシー嬢、ヘザー嬢が目をキラキラさせながら、俺に迫る。
その通りなのだが、落ち着いてほしい。
「結婚してもうちで働くの? うちの屋敷の中にも、アデレイドとゆっくり暮らせる部屋くらいは用意できると思うけど」
メリーローズ嬢はそう言ってくれたが、俺には考えがあった。
「いえ、俺はマコーリー領に帰ろうと思っています」
「ロナルド!」
姉貴が慌てる。
「お前が言ったのではないか。故郷に帰っても親や兄上から使用人のようにこき使われるだけだって。私も多分そうなると思ったから……」
「でも結婚したら妻ができて、そのうち子供も生まれるだろう。ちゃんと自分がいるべき場所で、妻子を養わなきゃいけないと思ったんだ」
「ロナルド……」
姉貴が感極まった表情で、俺の頭をなでた。
「やっと、大人になって……」
はあ?
もう何年も前から大人だが?
「では、結婚の挨拶のときは、私もついていこう」
はあ?
大人になったと言ったその口で、保護者面か?
とはいえ、姉貴がついてきてくれるなら心強い。
実家への挨拶と、家を勝手に出た詫びと、またマコーリー領で働きたいとお願いするための帰郷に同行してもらうことにした。
結果から言えば、姉貴についてきてもらったのは、大正解だった。
両親はともかく、兄貴からは散々に罵られ、あげつらわれ、アディの目がなければ蹴りとばされていたかもしれない。
さすがに侯爵令嬢の目の前で、弟とはいえ半死半生の目に遭わせるわけにはいかないと思ったのか、ビンタだけで思いとどまってくれた。
そして姉貴と両親からの口添えで、マコーリー領の隅に俺たちの家を構えることを承諾した。
あてがわれたその古い家に行ってみると、屋根が崩れかけ、庭は荒れ、その家に備わっている畑も雑草が伸び放題という有様である。
……とてもじゃないが、侯爵家のご令嬢を迎える家ではない。
さすがのアディも声がない。
……と思ったが、しばらく沈黙したあと一言呟いた。
「小鳥さんが、来放題ですね……」
とはいえ、その声も少し震えている。
俺は慌ててアディの肩を掴まえて言った。
「すぐ、この家を直すから! もっとえーっと、とりあえず人間が住めるような家にしてから君を迎えるから!」
「ロナルド、止めろ。言えば言うだけドツボだ」
姉貴にそう言われて、俺はうなだれた。
「今からでも、考え直さないか?」
王都に帰る道々、姉貴にそう言われた。
姉貴がそう言うってことは、やはりそれだけあの環境はひどいということだ。
馬車の中で、アデレイドは無言だった。
……とはいえ、そのほとんどを居眠りして過ごしたからかも知れない。
アディの寝顔は可愛かった。
「この無邪気さを、守りたいと思わないか?」
「……思う」
結局のところ、一番のネックは兄貴だ。
両親は兄貴と俺の間に大きな差をつけはしたが、かといって邪険にしたわけではない。
むしろ今回婚約者としてロングハースト侯爵令嬢を連れて帰ったことで、俺のことを見直しているような様子だった。
しかし兄貴はそれが気に食わなかったようだ。
自分が好きで選んだ婚約者(あれから何年も経っているのに、なぜか未だに結婚していない)とアディを見比べて、自分の未来の妻が自領の領民であることに不満を持ったらしい。
王都に帰るまでの間に、婚約者を邪険に扱っているところを何度か見かけた。
「お義兄様! そんなことをしては、いけません!」
怖いもの知らずのアディがそのたびに兄貴を止め、俺は肝を冷やしたものだ。
「アデレイド様、ありがとうございます」
兄貴のいないところで、アディに礼を言いながら涙を流していた彼女が不憫に思える。
時を重ね、あと数か月でアディたちも高等学院を卒業するという頃、次の段階へと進むべく俺は心を決める。
すなわち、プロポーズである。
休日、バードウォッチングを口実に(相変わらずなにか用事がないと誘えないヘタレである)公園へと誘い、いい感じのベンチに座って切り出す。
「いい天気だね、アディ」
「はい」
「あー、ところでアディは……」
「見てください! ツバメさんです! 南に帰るんですね」
「アディは南に帰るのか?」
「え?」
しまった、間違えた。
「……そうなんです。卒業したら南にある実家の領地に戻らないといけないんです……」
アディの方で軌道修正してくれた。
「アディ、故郷には、その……婚約者とかいるのか?」
「ええっ! いませんよう!」
やった! よかったー!
内心でガッツポーズする俺とは正反対に、アディの顔が曇る。
「わたくしバカだから、結婚しようって思ってくれる殿方がいないんです……」
「そんな!」
いるいる! 目の前にいるぞ!
口元まで出かかった言葉を飲み込んで話を聞いた。
「お父様やお義母様の方でも、わたくしと婚約したいという殿方を探していたみたいなんですけど、あるとき『自分で相手を探しなさい』って言われて……」
「そんな!」
それじゃあ、アディの結婚相手を探すのを諦めたってことじゃないか!
再び俺の中に、アディの両親に対する怒りが込み上げる。
こんなの、アディが可哀想すぎるだろう!
どうやってプロポーズの言葉にもっていくか、頭を悩ませていた俺だったが、勢いにまかせてぶちまけてしまった。
「俺が結婚する!」
「え? ロナルドさんは婚約者さんがいたんですか?」
「違う! 俺が、アディの婚約者になる! そしてアディと結婚する!」
「…………ええーーーーっ?」
目を真ん丸に見開いて驚くアディの表情はとても愛らしかったが、俺はそこで自分の失敗に気が付いた。
「あ……い、嫌だよな。俺なんかと結婚なんて……」
「いいえ……すごく、うれしいです」
俯きつつあった俺は、驚いて顔を上げた。
「え、ほ、本当?」
「はい」
「俺の、花嫁になってくれるのか?」
すると、アディは今まで見たこともないような、恥ずかしそうな、でもうれしそうな顔をして、俺を上目遣いで見つめてくる。
「…………はい」
そのあまりの可愛さに頭がくらくらしながらも、大事な話をしなければいけないことを思い出した。
「俺には継げる爵位がない。財もないし、頭も悪い。それでも……本当にいいのか?」
「これからもわたくしと一緒に、小鳥さんを見てくれますか?」
「ああ、君が望むならいくらでも」
「じゃあ、……はい!」
ガラス細工の花びらに触れるように、そっとアディのおでこにキスをする。
最高に幸せな瞬間だった。
* * *
しかし早くも俺たちの婚約は座礁に乗り上げる。
いや、問題だらけなのを承知で婚約したわけなのだが、姉貴がかまびすしい。
「貴族同士の婚約は、当事者の気持ちのみで成立するわけではないのだぞ!」
わかってるよ、そんなこと。
「でも。それを知ったうえで、プロポーズされたんですよね?」
「それくらい、アデレイド様のことが好きっていうことなのですよね?」
「ロマンティックですわ!」
ミュリエル嬢、エルシー嬢、ヘザー嬢が目をキラキラさせながら、俺に迫る。
その通りなのだが、落ち着いてほしい。
「結婚してもうちで働くの? うちの屋敷の中にも、アデレイドとゆっくり暮らせる部屋くらいは用意できると思うけど」
メリーローズ嬢はそう言ってくれたが、俺には考えがあった。
「いえ、俺はマコーリー領に帰ろうと思っています」
「ロナルド!」
姉貴が慌てる。
「お前が言ったのではないか。故郷に帰っても親や兄上から使用人のようにこき使われるだけだって。私も多分そうなると思ったから……」
「でも結婚したら妻ができて、そのうち子供も生まれるだろう。ちゃんと自分がいるべき場所で、妻子を養わなきゃいけないと思ったんだ」
「ロナルド……」
姉貴が感極まった表情で、俺の頭をなでた。
「やっと、大人になって……」
はあ?
もう何年も前から大人だが?
「では、結婚の挨拶のときは、私もついていこう」
はあ?
大人になったと言ったその口で、保護者面か?
とはいえ、姉貴がついてきてくれるなら心強い。
実家への挨拶と、家を勝手に出た詫びと、またマコーリー領で働きたいとお願いするための帰郷に同行してもらうことにした。
結果から言えば、姉貴についてきてもらったのは、大正解だった。
両親はともかく、兄貴からは散々に罵られ、あげつらわれ、アディの目がなければ蹴りとばされていたかもしれない。
さすがに侯爵令嬢の目の前で、弟とはいえ半死半生の目に遭わせるわけにはいかないと思ったのか、ビンタだけで思いとどまってくれた。
そして姉貴と両親からの口添えで、マコーリー領の隅に俺たちの家を構えることを承諾した。
あてがわれたその古い家に行ってみると、屋根が崩れかけ、庭は荒れ、その家に備わっている畑も雑草が伸び放題という有様である。
……とてもじゃないが、侯爵家のご令嬢を迎える家ではない。
さすがのアディも声がない。
……と思ったが、しばらく沈黙したあと一言呟いた。
「小鳥さんが、来放題ですね……」
とはいえ、その声も少し震えている。
俺は慌ててアディの肩を掴まえて言った。
「すぐ、この家を直すから! もっとえーっと、とりあえず人間が住めるような家にしてから君を迎えるから!」
「ロナルド、止めろ。言えば言うだけドツボだ」
姉貴にそう言われて、俺はうなだれた。
「今からでも、考え直さないか?」
王都に帰る道々、姉貴にそう言われた。
姉貴がそう言うってことは、やはりそれだけあの環境はひどいということだ。
馬車の中で、アデレイドは無言だった。
……とはいえ、そのほとんどを居眠りして過ごしたからかも知れない。
アディの寝顔は可愛かった。
「この無邪気さを、守りたいと思わないか?」
「……思う」
結局のところ、一番のネックは兄貴だ。
両親は兄貴と俺の間に大きな差をつけはしたが、かといって邪険にしたわけではない。
むしろ今回婚約者としてロングハースト侯爵令嬢を連れて帰ったことで、俺のことを見直しているような様子だった。
しかし兄貴はそれが気に食わなかったようだ。
自分が好きで選んだ婚約者(あれから何年も経っているのに、なぜか未だに結婚していない)とアディを見比べて、自分の未来の妻が自領の領民であることに不満を持ったらしい。
王都に帰るまでの間に、婚約者を邪険に扱っているところを何度か見かけた。
「お義兄様! そんなことをしては、いけません!」
怖いもの知らずのアディがそのたびに兄貴を止め、俺は肝を冷やしたものだ。
「アデレイド様、ありがとうございます」
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