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第1章

9 思い出の部屋②

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よいしょ。ピアノの椅子に座って足を伸ばす。
さすがは4歳、ペダルぎりぎりだ。

(ショパンなら簡単にぺらーっと弾けるし、間違えてもわかんないからいっか。)

ショパン ノクターン 13番遺作

前世の記憶を頼りにして指を動かす。

コレットの息を飲む声が聞こえた。

高級なピアノなんだろう。調律もされていて象牙の鍵盤の冷たさが指に伝わる。まるで流れるように弾ける。演奏者にもわかる。空気が変わるということが。

(あぁ、素敵なピアノだ。)

ピアノの音に耳を潤しているとき

バンッ!!! 

不適切な不協和音が響く。
勢いよくドアが開いた。


そこには、私と同じ色の髪の毛をボサボサに伸ばし、目は深緑。不健康な白い肌で、息も切らして肩で呼吸をするお兄様。アルベルト・ヴェルナーが立っていた。
今は6歳くらいだっただろうか。


「今のは…君が弾いたのか?」

とても久しぶりにお兄様の声を聞いた。思わず緊張と勝手に弾いてしまって怒られるかもと思い手が震える。

「は、はい…」

お兄様は私の返事を聞くと、そうか…と踵を返そうとする。 
その後ろ姿を見て呼び止めてしまった。

「お、お兄様!!!まって!!!」

急いでピアノの椅子から降りようとする。焦ってドレスが引っかかる。

(このタイミングでか!!)

イライラしながら半ば強引にドレスを引っ張ってお兄様にてを伸ばす。ぎりぎりというところで届かず、転ぶ。

「お嬢様!!」

コレットが心配そうに駆け寄ってくる。

(あぁ、私は何をしているんだ。)

お兄様はこのゲームでは攻略対象。近づかない方がいいに決まっている。でも、あの後ろ姿…寂しそうで泣きそうな姿のお兄様を放っておけるほど私の性格も悪くない。

まぁ、その手は届かなかったわけだが。


「君は何をしてるんだ…。」

ひょいっと私を持ち上げる。その視線の先にはちょうどお兄様の目があった。あぁ、お母様と同じ色の目だ。
そこで、つい私のコバルトブルーの目から涙が出た。
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