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隣国バルティーヌへ
しおりを挟む「留学…ですか?」
「あぁ。……別に行きたくないなら行かないくていいんだ。気が乗らないなら辞めていいんだぞ?」
「ちょっと旦那様。なんてこと言うのですか!」
深刻そうに話すお父様の肩を思い切りお母様が叩いた。
「セレシア、実はね隣国バルティーヌへの留学に行かないかとお誘いを受けたのよ。エルーム公爵閣下から」
「え!?」
エルーム公爵閣下様といえば、この国の宰相様だ。
それに、エルーム公爵の長男、ニック・エルーム様にはエミリーが入学式の次の日に廊下でまとわりついたお方である。
なんで、そんな方のお父様から…
「エルーム様のご子息が、貴方が懸命にエミリーを説得していたのを見ていたようなの。今、学園を休学している理由もご存知のようよ。」
「…セレシアの成績が、本当はSクラス相当なのは家庭教師の話からも分かっているし、学園の先生方も疑問を感じていたそうだよ。入試で表面を全て解いたのに、裏面が空白なんて可笑しいと。」
あ、やっぱり適度に間違えて適度に手を抜くべきでしたよね。
手加減をするのが難しくて…
「セレシアさえ良ければ、留学前に試験を受けて合格したらバルティーヌへ留学してもいいそうだ。……後は本人の希望次第だが」
「…私の希望…」
あまりに突拍子のない話で、戸惑ってしまう。
お母様は私の両手を掴んだ。
「…私が言うのも可笑しいけれど…貴方の人生だもの。エミリーを気にせず、貴方は貴方らしく人生を謳歌してほしい。留学も見解を広げるいい機会だわ。」
「………いや、行きたくないのであれば、行かなくてもいいと思うぞ。…寂しいだろう。な?」
「全く!旦那様!可愛い子には旅をさせろと言うではありませんか!!」
ぷりぷりと怒ったお母様に、お父様が狼狽えている。いつもの光景だ。
…いつまでも、家に居られるわけではないもの。
留学なんて考えもしなかった。
でも、あの学園には戻りづらい。いくら、エミリー以外の私を虐めてきた人達がいなくなったって、居づらいものは居づらい。
だったら、留学して他国の文化や伝統を感じながら、伸び伸びと勉強することの方がいいわ。
「お父様、お母様。私、試験を受けます。そしてバルティーヌへ留学しますわ。」
「ふふ、よく言いました。流石、私の娘ですわ!」
「……そうか。頑張りなさい…辛かったいつでも戻っておいで。」
その後、私はエルーム公爵様とそのご子息ニック・エルーム様にお礼のお手紙を書いた。あと、領地の特産の果物も送った。
お兄様にも留学の話をした。
お兄様は「そっか…寂しくなるね」と言って抱きしめてくれた。
「向こうで何か辛いことがあれば、すぐに言ってね。どんな些細なことでもいいから無理しないように。」
そう笑顔で告げられたけど、何故か冷や汗をかいた。心配して言ってくれてるのに、なんで少し怖いと感じたのか…
休学中の勉強の甲斐があってか、試験は易々と合格した。答案用紙を見たお父様は、「…え」と言ったまま固まってしまったのは驚いた。
お母様曰く、勉強が出来るのは知っていたけどまさかここまで出来るとは思っていなかったらしい。
そこまで大層なものではないと思うけどら
その、答案用紙も宰相様へ見せ、留学の許可が降りたため国王陛下の許可証を頂き無事、バルティーヌへの留学が決まったのだった。
そこからは、あっという間だった。
バルティーヌの学園は寮もあるということで、向こうに親戚もいないため、寮に住むことになった。
ご飯は食堂があるらしい。
身の回りのことは一通りできるけれど、心配だし役立つからとメイドをひとり連れていくことにした。
メイドは、私と歳が5つ上のユナで最近家にいることが多くなってから1番一緒にいた子だった。
ユナ曰く、「私がついて行きます!絶対に私です!!」と強く希望し、あまりの剣幕に他のメイド達から少し引かれたらしい。
そんなこんなであっという間に旅立つ日を迎えた。
「セレシア、気をつけてね。落ち着いたらお手紙頂戴ね」
「はい、お母様。ありがとうございます」
馬車の窓から手を出して、お母様と握手する。
「…こんなに早く娘が旅立つなんて…」
「はぁ…お嫁に行くのではないんですよ。留学だって卒業までの2年と少しでしょう。」
「嫁っ…!!いいか、セレシア。あっちで変な男に捕まるんじゃないぞ!!」
お父様は泣きそうなんお顔から一変して、怖い顔になった。その後ろでは、お母様が大きなため息をついている。
「…セレシア、僕にも手紙を書いてね。…寂しくなったらいつでも言ってね。すぐに会いにいくから。変なやつが居たら手紙に書くといいよ」
お兄様はお父様なんてお構い無しで、頭を撫でてくれる。しばらくこの優しい手ともお別れかと思うと寂しく感じてしまうが、必死に笑顔を作って家族とお別れをした。
バルティーヌに向かう間、ユナと色んなお話をした。好きな食べ物や、好きな趣味について話すうちに、前よりも仲良くなれたと思う。
「バルティーヌは隣国ながら、海に面していて海からの風によってすごく涼しいと聞きますし、漁業も盛んでご飯も美味しいそうです!とても、楽しみですね、セレシアお嬢様!」
「そうね…読んだことがない本も沢山あるでしょうし、すごく楽しみだわ」
「もう!セレシア様は本ばっかり!…それにバルティーヌは絹の貿易も盛んでオシャレだって最先端なんですよ!私は、バルティーヌでどれだけセレシアお嬢様が可愛くて綺麗かということを知らしめる目標があるのですから、協力してくださいね!」
……それはどうなんだろう。
オシャレが最先端というか、流行があるのは知っているが、私にとってオシャレは難しいものなので、その辺はユナに丸投げしようと思った。
そうして、馬車に揺られ続けた3日程でバルティーヌ国へ入国した。
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