10 / 36
第1章 家族
嘘
しおりを挟む亡くなった…?
つまり、私は今の今まで死んだものだと思われていたと…?
あまりの衝撃的な言葉に思考が停止してしまう。
「…くそ」
レオン様は両手で顔を覆い、イラつきを隠せないようだが、それは今は目に入らない。
ということは…?私は今まで存在が知られていなかったと?
だから、私用のドレスが1着もなかったの?
だから、私のご飯がなかったの?
だから、私には家庭教師がいなかったの?
だから、私はあの人たちにあれだけ虐められ続けてきたの?
だから…1度も会いに来てくれなかったの?
辛いと思っても、自分の気持ちを正直に受け止めずやり過ごしてきた。
もしかしたら、王宮に住んでるお父様とお義兄様が助けてくれるかもしれないと。そんな淡い期待を心にとどめ、私は我慢してきた。
どんな罵倒をされようと。どんな痛みを与えられようと。どんなことをさせられても。
だが、来てくれなかった。1度も。
私はお父様たちにも嫌われているんだと、そんな期待をするのをやめようと思ったのはもはや数年前。
来てくれるわけがないじゃない。
だって、私があそこに、後宮に住んでいたことも知らないのだから。
12年だ。私は12年もあそこにいたのに。
敷地内からは出たことも無い。新しい使用人以外にはあったことも無い。
まったく、馬鹿じゃないか。
湧き出る怒りとどこかで感じる心労感が涙として目から溢れ出た。それは止まることを知らず、今までの嘘泣きなど非にもならない程こぼれ落ちてくる。
声を押し殺し、ぐちゃぐちゃになる脳内を全て投げ出すように泣いた。
レオン様はそれを酷く申し訳なさそうに見て、私を抱き寄せた。
ぎゅっと抱きしめる体の体温が冷たく感じて、そのしっかりした男性らしい体の感触は今までに感じたことがなかった。
それを気に私の涙はより一層流れ出る。
レオン様は時折、「ごめん…ごめんね」と頭を撫でながらもずっと慰め続けてくれた。
レオン様の体の感触になれた頃には、両目は赤く腫れて閉じてしまい、安らかな寝息だけがその部屋に残った。
*レオン視点
先程まで泣いていた彼女は、静かに眠ってしまった。体の傷に触れないように、ソファに横たわせ、マーサに指示をした。
マーサを待っている間にお父様が戻ってくる。
「父上……」
お父様はそっとシルフィオーネの顔を見るとご自分の机に戻った。
「確かに、所々ソフィアに似ているな。」
「父上にも似ていますよ。目の色なんてそのままではないですか。」
そうして、沈黙が流れる。
考えているのだ。あの後宮にいる毒婦とその娘をどうするのか。
「父上…そろそろ頃合ではないのですか?
……私は、もう我慢の限界なのですが。
国王陛下を欺くなんて不敬罪では済まされません。それに…シルフィオーネが……」
「…あぁ。そろそろ潮時だな。」
そうして、私は固く頷く。
お父様は私の瞳を見つめたあと、無意識のようにシルフィオーネを見つめていた。
それは焦燥と反省が滲んでいて、私自身にもひどい罪悪感がのしかかった。
「失礼します。」
ノックとともにマーサとこの王宮の王宮医師が入ってくる。
「失礼を承知で、先に診させて頂きます。」
口早にそういうと王宮医師はシルフィオーネを抱き、奥の部屋へと駆けて行った。
「…やはり、体調を崩していたのか」
「はい。先程気づいたのですが、彼女は異様に体温が高いのです。体の傷も心配ですし、勝手に指示しました。」
「あぁ。」
そうして、父上は執政に戻った。
ついでに説明をしておくと、何故父上は部屋を出ていったのか。
それは、ご自分の名前を知らないシルフィオーネに怒った訳では決してない。
あの時、シルフィオーネは酷く父上を怖がっていた。
後宮には男なんて居ないし、慣れていなかったんだろう。
それを感じた父上は部屋を出た。シルフィオーネを怖がらせないために。
しかも、部屋を出た後部下達に後宮の事を調べてくるように指示を出した。メイド達に新しい部屋を作るようにいい、料理長に美味しい料理を作るように伝えたらしい。
そして、今、この王宮の誰もが父上を見て思うことがある。
これほどまでに怒りを露わにする国王陛下、アルベルト・クラン・カスティリアを見たことがあるかと。
88
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
【短編】お姉さまは愚弟を赦さない
宇水涼麻
恋愛
この国の第1王子であるザリアートが学園のダンスパーティーの席で、婚約者であるエレノアを声高に呼びつけた。
そして、テンプレのように婚約破棄を言い渡した。
すぐに了承し会場を出ようとするエレノアをザリアートが引き止める。
そこへ颯爽と3人の淑女が現れた。美しく気高く凛々しい彼女たちは何者なのか?
短編にしては長めになってしまいました。
西洋ヨーロッパ風学園ラブストーリーです。
大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる