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第1章 家族
番外編
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*ふわふわ設定です。
「シルフィ、今いいかい?」
そういって、扉から顔をのぞかせたのはお兄様。
でも、いつもとは違う平民の様なラフな格好をしていた。いくら軽装でもその美貌は全く隠れていなくて、意味の無いような気が……
「どうかされましたか、お兄様」
今はちょうど政学の自主学習中だった。
朝のマナーレッスンやダンスは終えており、珍しく午後は何も入っていなかった。でも、読みたい本もなくなにか時間を潰そうと勉強をしていたのだ。
「…午後から空いてるって聞いたけど、勉強してたのかい?……偉いなぁ」
そういって頭を撫でてくれる。優しくて暖かい手が安心を与えてくれて大好きだ。
「これからね、城下町へお忍びに行こうと思うんだ。せっかくだし、シルフィも行かないかい?
美味しいケーキも食べられるよ?」
「行きたいです!!」
思わず、ガタッと椅子から立ち上がってしまう。
基本、お城から出られないからなんとも魅力的なお誘いだった。
そんな子供っぽい反応にお兄様は微笑ましく頭を撫でてくれる。…流石に恥ずかしかった。
「父上から許可は頂いたよ。かなり渋って居られたけどね。執務があるから行けなくてかなり落ち込んでいたよ」
「では、お父様にお土産を買ってきませんか?」
「うん、それはとてもいいと思うよ。喜ばれるんじゃないかな。じゃ、シルフィもお忍び服に着替えておいで。さっきメイドにも言っておいたから準備はできてると思うよ」
「はい!ありがとうございます!」
ミーナの元へ行けば、シンプルな薄水色のワンピースを用意してくれていた。袖を通して動きやすい靴に履き替える。髪は一つにまとめてくれて、簡単なお化粧も施してくれた。
「シルフィオーネ様はお綺麗なので、化粧はいりませんけどね!いいですか?必ずレオン様から離れては行けませんよ??知らない人にもついて行っては行けません!」
「わかってるわ、大丈夫よ」
クスクスと笑いながら頷けば、笑い事じゃないですー!と怒ってくる。
周りは私に過保護過ぎると感じてしまう。
準備が整い、お兄様と数人の騎士を引き連れ馬車に乗り込んだ。あくまでもお忍びなので、騎士は遠くから警備するらしい。馬車も城下町の手前で降りて歩くそうだ。
実は城下町はいつも馬車から見るだけで、自分で見て歩くのは初めてだった。
なので、かなり浮かれている。
馬車ではお兄様が、「いいかい?必ず僕から離れては行けないよ?心配だから手も繋ごう。見たいお店があったら言ってね、食べたいものも直ぐに言ってね。」と何度も声をかけてくれた。
過保護だなと思いながらも頷く。
お城から城下町の距離は近いのであっという間についた。馬車からおり、数分歩けば国民が行きかい笑顔で話す城下町に着いた。
お兄様と手をしっかり繋ぎ、城下町を歩く。
色んな出店、オシャレなブティック、可愛らしい雑貨屋さん、広場で戯れる小さな子。
どれでもが目新しくて、キラキラして見えた。
こんなに人がいる所も初めてだからドキドキもする。
自然と繋ぐ手に力が入ってしまう。
「シルフィ?緊張してるの?」
「…はい、少し」
ちゃんと服も大人しい格好をしてるはずなのに、
チラとたまに見られる。それはきっと隣を歩くお兄様が素敵なせい。
ドキドキしたままお兄様に連れられ色んなお店を見た。お金は少し貰ってきた、私が使ってなかったお小遣い。雑貨屋さんでは、ミーナにアクセサリーを買った。マーサにもハンドクリーム。ニクロスは面倒だからメガネ拭きでいいかな。
お兄様はニクロスのはなくてもいいよ、って言っていたけれど、無かったら無かったで五月蝿そうなので買っておくことにした。
お父様は……買っても安物だと思われるかも。
どうしよう…
「どうしたの?」
「お父様のお土産を悩んでいて…」
実用品かな、それとも食べもの?
お父様は甘いものはあまり好きじゃないと聞くし、
好きな色とかは分からない。
ただ、黒は似合うと思うけど。
「父上なら、シルフィが考えて買ってくれたものならなんでも喜ぶと思うよ?」
そう言われたけれど、結局わからず雑貨屋を後にした。色々見て疲れてしまったので、休憩ということでお目当てのカフェに向かう。
可愛らしい建物のカフェは内装も可愛くて、迎えてくれたウェイターに連れられ席に着いた。
私はオススメという紅茶とシフォンケーキを頼んだ。お兄様は珈琲とダークチョコレートのケーキ。
お兄様と話をしている間にすぐに注文の物は届いた。
シフォンケーキはふんわりしていて弾力があり、甘さ控えめだけれど、口に入れるとあっという間に溶けてしまう。
「…っ美味しい!」
思わず、と言ってしまうほどに美味しかった。
お兄様はニコニコとそれは良かったと微笑んでくれる。
「お兄様、シフォンケーキひと口食べますか?」
この美味しさを誰かに共感して欲しい!と深く考えなかった私は突飛なことを言っていた。
お兄様は1度目を見開いたけれど、じゃあ貰おうかなと口を開いた。
今度は私が驚く番だった。お兄様は口を開けたまま私がケーキを口元に運ぶのを待っていらっしゃっる。
マナーとしてはきっとダメだろう。でもにこやかにまだ?と待つお兄様を見ると、品なんて諦めてしまい一口サイズに切ったケーキを口元に運んだ。
「…うん、美味しいね」
そういって笑ったお兄様のお顔は何だか大人の男の人みたいでドキッとした。
「僕のもあげる。ちょっと苦いかも?」
と言って、ダークチョコレートのケーキを差し出してくる。
「あ、う、んん」
羞恥心と戦いながらもパクッと食べた。
口にはホロホロと苦いビターチョコレートが溶け、今の甘い状況には寧ろ落ち着きを与えてくれた。
「…美味しいです、」
やっと出た言葉。
それでもお兄様はとても満足そうにそうだろう?と言ってきた。
そういえば、お父様も珈琲をよく飲まれてるのを思い出す。珈琲とチョコレートは相性が合うみたいだし、ダークチョコレートならお父様も食べられるかも。
「お兄様、お兄様のケーキならお父様も食べられるでしょうか?」
「…んー、食べられると思うよ。そこまで甘くないし、後味もスッキリしてるし。お土産で包んで貰おうか」
「はい!」
よかった、これでお父様にもお土産が買えた。
最近は執務で忙しいらしく、ディナーのときくらいしか顔を合わせない。ケーキなら少しでも疲れが癒えるだろうか。
ケーキをお持ち帰り様に包んでいただいた。
ここで食べたケーキは誘ったのは僕だし、僕はシルフィのお兄様だからと奢って下さった。
お土産のケーキは自分で払ったけれど。
初めての買い物が大好きな人達のお土産でとても嬉しかった。
帰りの城下町は夕焼けがさしていて、綺麗だけどなんだか悲しくなった。
馬車へ向けて歩いているとき、お兄様が「また来ようね」と言ってくださって、嬉しかった。
馬車に乗り込んで数分もすればお城に着く。
出迎えてくれた使用人や騎士たちにただいま、と告げる。
ここは私の家なんだな、なんて感じながら。
「今日は急に誘ったのに付き合ってくれてありがとうね。」
「いいえ、私も楽しかったです。また誘ってください」
お兄様だって執務のお手伝いがあるし、忙しい方だ。なのに、今日わざわざ空いてる日にたまたま空いていた私を誘って下さったのはきっと偶然ではないのだろう。
「それと…これ」
お兄様に差し出す小さな袋
「…これは?」
「お兄様は一緒に行ってくださったのですが、お兄様にもお土産です………いつもありがとうの感謝の気持ちです……」
なんだか恥ずかしくて最後は早口になってしまった。袋の中にはお兄様のイニシャルのLの刺繍が施されてるハンカチ。
せっかくならお兄様にも何かプレゼントしたい、と思って他のお土産に隠して購入した。
チラッとお兄様の表情を伺えば、目元から耳まで真っ赤にして口元を押さえている。
「……っ!!」
感極まるといったように。
「あ、ありがとう…嬉しすぎてどうにかなりそうだ……」
震える声で紡がれた言葉がまた私を暖めてくてる。
男の人らしい腕に引き寄せられ抱きしめられた。
「あぁ…僕の妹がこんなに可愛い……なんて可愛いんだろう。天使?天使かな…」
何かブツブツと言ってるみたいだけれど、よく分からなかった。とにかく喜んでもらえたということが分かったので、プレゼントは渡して良かったみたい。
そのあと、数分間抱きつかれていたが中々部屋に戻らない私を心配したマーサによってようやく解放された。
「また、誘うからね。素敵なプレゼントをありがとう」
と言って、私の頬にキスを落とすとお兄様は部屋へ戻って言った。
マーサとミーナに今日あったことを話しながらお土産を渡すと、泣いて喜んでくれた。
ミーナなんか大切に飾ります、と言ってくれたがアクセサリーなのでつけて欲しい。
簡単に着替えてからお父様の執務室に向かう。
コンコン
入室の許可を頂いてから、執務室に入った。
お父様は1度書類を置くと私に目を向ける。
「楽しかったか?」
「はい、楽しかったです。」
「怪我は?してないな?何か嫌なことも無かったか?」
「ふふ、大丈夫です。」
お兄様に続いてお父様も何だか過保護。
でも、今まで外出なんてしなかったから心配かけちゃったのかも。
お父様が手招きをしたので近づく。
私の顔を近くで見ると楽しかったみたいだなと微笑んでくれた。
お土産を渡そうと手に持っていた袋を差し出した時、「はい、失礼しますよ~」と間延びした声に遮られた。声をした方を向けば案の定、空気の読めないで有名なニクロスだ。
「あ!シルフィオーネ様!お帰りなさいませっ、どうでした初の城下町は!楽しかったですか~!
今度は私と行きましょう!私ほど城下町の店を知るものはこの城には居ませんからねぇ!ややや、まさかレオン様に先を越されるとは思っても居ませんでしたが、次こそは私が一緒にぃでででででででででででだだだだだだだ」
最後の方は立ち上がったお父様に顔を掴まれ、言いきれてなかった。
「お前がそんなに死にたかったとは知らなかった。もっと早く言え」
と言いながら掴む力を強める。
「まま待ってくだしゃいへーか。私の顔が潰れてしまいましゅ。」
そのまま横に凪払われ床に倒れる。
お父様はゴミを見るように一瞥した後、私の元へ戻ってきた。
「さっき、何か言いかけたな?」
「あ、はい。…これ」
白い包み紙を差し出した。
「最近お疲れのご様子だったので甘さ控えめのケーキを。お兄様と食べたのですがほろ苦くて珈琲にも合うのでいいかなと思って……お口に合うか分かりませんが。」
「そうか。ありがとう」
ケーキを受け取ったお父様は端的にそう述べられたが、その言葉には嬉しいという感情が込められてたれと思う。
いつも以上に目元が柔らかくて微笑んでくださったから。
そうして大きな手で頭を撫でてくれた。
「あ、あのぉ~シルフィオーネ様?私なんかにお土産があったりしちゃったりしませんですかね??」
思いっきり横から舌打ちが聞こえたが、聞かなかった事にしよう。
小さい袋を取り出してニクロスにも渡した。
「っ!!!なんてお優しい!!私にもお土産を…!!ありがとうございます!シルフィオーネ様ー !!!!」
結局買ってきてもニクロスはうるさくなった。
そのあと、お父様に潰されていたけれど。
お父様は珈琲と一緒にケーキを食べ、気に入られたみたいだった。
「今度は俺と行くぞ」
と、言っていたけれどお父様はお忍びにならないのではないかなと思う。
自分のお父様ではあるが、あまりにもかっこよすぎるし、一般市民でないのが丸わかりだ。
お父様と城下町は無理でも、一緒に過ごすティータイムは楽しそうだな、と1人で思っていた。
そうして、私の1日は今日も楽しく終わったのである。
○お久しぶりです。リハビリで書きました。
やっぱり書いてないと下手になりますね、精進します。時系列的にはシルフィは13、レオンは18で書いたつもりです。でも、学院の話とかは触れていませんが。
この作品をはじめ、他の作品も読んでくださる方がいらっしゃって本当に嬉しいです。
そして、全然更新してないのに感想をくれる神様が沢山いらっしゃって驚いてます。
ありがとうございます。
ててて
「シルフィ、今いいかい?」
そういって、扉から顔をのぞかせたのはお兄様。
でも、いつもとは違う平民の様なラフな格好をしていた。いくら軽装でもその美貌は全く隠れていなくて、意味の無いような気が……
「どうかされましたか、お兄様」
今はちょうど政学の自主学習中だった。
朝のマナーレッスンやダンスは終えており、珍しく午後は何も入っていなかった。でも、読みたい本もなくなにか時間を潰そうと勉強をしていたのだ。
「…午後から空いてるって聞いたけど、勉強してたのかい?……偉いなぁ」
そういって頭を撫でてくれる。優しくて暖かい手が安心を与えてくれて大好きだ。
「これからね、城下町へお忍びに行こうと思うんだ。せっかくだし、シルフィも行かないかい?
美味しいケーキも食べられるよ?」
「行きたいです!!」
思わず、ガタッと椅子から立ち上がってしまう。
基本、お城から出られないからなんとも魅力的なお誘いだった。
そんな子供っぽい反応にお兄様は微笑ましく頭を撫でてくれる。…流石に恥ずかしかった。
「父上から許可は頂いたよ。かなり渋って居られたけどね。執務があるから行けなくてかなり落ち込んでいたよ」
「では、お父様にお土産を買ってきませんか?」
「うん、それはとてもいいと思うよ。喜ばれるんじゃないかな。じゃ、シルフィもお忍び服に着替えておいで。さっきメイドにも言っておいたから準備はできてると思うよ」
「はい!ありがとうございます!」
ミーナの元へ行けば、シンプルな薄水色のワンピースを用意してくれていた。袖を通して動きやすい靴に履き替える。髪は一つにまとめてくれて、簡単なお化粧も施してくれた。
「シルフィオーネ様はお綺麗なので、化粧はいりませんけどね!いいですか?必ずレオン様から離れては行けませんよ??知らない人にもついて行っては行けません!」
「わかってるわ、大丈夫よ」
クスクスと笑いながら頷けば、笑い事じゃないですー!と怒ってくる。
周りは私に過保護過ぎると感じてしまう。
準備が整い、お兄様と数人の騎士を引き連れ馬車に乗り込んだ。あくまでもお忍びなので、騎士は遠くから警備するらしい。馬車も城下町の手前で降りて歩くそうだ。
実は城下町はいつも馬車から見るだけで、自分で見て歩くのは初めてだった。
なので、かなり浮かれている。
馬車ではお兄様が、「いいかい?必ず僕から離れては行けないよ?心配だから手も繋ごう。見たいお店があったら言ってね、食べたいものも直ぐに言ってね。」と何度も声をかけてくれた。
過保護だなと思いながらも頷く。
お城から城下町の距離は近いのであっという間についた。馬車からおり、数分歩けば国民が行きかい笑顔で話す城下町に着いた。
お兄様と手をしっかり繋ぎ、城下町を歩く。
色んな出店、オシャレなブティック、可愛らしい雑貨屋さん、広場で戯れる小さな子。
どれでもが目新しくて、キラキラして見えた。
こんなに人がいる所も初めてだからドキドキもする。
自然と繋ぐ手に力が入ってしまう。
「シルフィ?緊張してるの?」
「…はい、少し」
ちゃんと服も大人しい格好をしてるはずなのに、
チラとたまに見られる。それはきっと隣を歩くお兄様が素敵なせい。
ドキドキしたままお兄様に連れられ色んなお店を見た。お金は少し貰ってきた、私が使ってなかったお小遣い。雑貨屋さんでは、ミーナにアクセサリーを買った。マーサにもハンドクリーム。ニクロスは面倒だからメガネ拭きでいいかな。
お兄様はニクロスのはなくてもいいよ、って言っていたけれど、無かったら無かったで五月蝿そうなので買っておくことにした。
お父様は……買っても安物だと思われるかも。
どうしよう…
「どうしたの?」
「お父様のお土産を悩んでいて…」
実用品かな、それとも食べもの?
お父様は甘いものはあまり好きじゃないと聞くし、
好きな色とかは分からない。
ただ、黒は似合うと思うけど。
「父上なら、シルフィが考えて買ってくれたものならなんでも喜ぶと思うよ?」
そう言われたけれど、結局わからず雑貨屋を後にした。色々見て疲れてしまったので、休憩ということでお目当てのカフェに向かう。
可愛らしい建物のカフェは内装も可愛くて、迎えてくれたウェイターに連れられ席に着いた。
私はオススメという紅茶とシフォンケーキを頼んだ。お兄様は珈琲とダークチョコレートのケーキ。
お兄様と話をしている間にすぐに注文の物は届いた。
シフォンケーキはふんわりしていて弾力があり、甘さ控えめだけれど、口に入れるとあっという間に溶けてしまう。
「…っ美味しい!」
思わず、と言ってしまうほどに美味しかった。
お兄様はニコニコとそれは良かったと微笑んでくれる。
「お兄様、シフォンケーキひと口食べますか?」
この美味しさを誰かに共感して欲しい!と深く考えなかった私は突飛なことを言っていた。
お兄様は1度目を見開いたけれど、じゃあ貰おうかなと口を開いた。
今度は私が驚く番だった。お兄様は口を開けたまま私がケーキを口元に運ぶのを待っていらっしゃっる。
マナーとしてはきっとダメだろう。でもにこやかにまだ?と待つお兄様を見ると、品なんて諦めてしまい一口サイズに切ったケーキを口元に運んだ。
「…うん、美味しいね」
そういって笑ったお兄様のお顔は何だか大人の男の人みたいでドキッとした。
「僕のもあげる。ちょっと苦いかも?」
と言って、ダークチョコレートのケーキを差し出してくる。
「あ、う、んん」
羞恥心と戦いながらもパクッと食べた。
口にはホロホロと苦いビターチョコレートが溶け、今の甘い状況には寧ろ落ち着きを与えてくれた。
「…美味しいです、」
やっと出た言葉。
それでもお兄様はとても満足そうにそうだろう?と言ってきた。
そういえば、お父様も珈琲をよく飲まれてるのを思い出す。珈琲とチョコレートは相性が合うみたいだし、ダークチョコレートならお父様も食べられるかも。
「お兄様、お兄様のケーキならお父様も食べられるでしょうか?」
「…んー、食べられると思うよ。そこまで甘くないし、後味もスッキリしてるし。お土産で包んで貰おうか」
「はい!」
よかった、これでお父様にもお土産が買えた。
最近は執務で忙しいらしく、ディナーのときくらいしか顔を合わせない。ケーキなら少しでも疲れが癒えるだろうか。
ケーキをお持ち帰り様に包んでいただいた。
ここで食べたケーキは誘ったのは僕だし、僕はシルフィのお兄様だからと奢って下さった。
お土産のケーキは自分で払ったけれど。
初めての買い物が大好きな人達のお土産でとても嬉しかった。
帰りの城下町は夕焼けがさしていて、綺麗だけどなんだか悲しくなった。
馬車へ向けて歩いているとき、お兄様が「また来ようね」と言ってくださって、嬉しかった。
馬車に乗り込んで数分もすればお城に着く。
出迎えてくれた使用人や騎士たちにただいま、と告げる。
ここは私の家なんだな、なんて感じながら。
「今日は急に誘ったのに付き合ってくれてありがとうね。」
「いいえ、私も楽しかったです。また誘ってください」
お兄様だって執務のお手伝いがあるし、忙しい方だ。なのに、今日わざわざ空いてる日にたまたま空いていた私を誘って下さったのはきっと偶然ではないのだろう。
「それと…これ」
お兄様に差し出す小さな袋
「…これは?」
「お兄様は一緒に行ってくださったのですが、お兄様にもお土産です………いつもありがとうの感謝の気持ちです……」
なんだか恥ずかしくて最後は早口になってしまった。袋の中にはお兄様のイニシャルのLの刺繍が施されてるハンカチ。
せっかくならお兄様にも何かプレゼントしたい、と思って他のお土産に隠して購入した。
チラッとお兄様の表情を伺えば、目元から耳まで真っ赤にして口元を押さえている。
「……っ!!」
感極まるといったように。
「あ、ありがとう…嬉しすぎてどうにかなりそうだ……」
震える声で紡がれた言葉がまた私を暖めてくてる。
男の人らしい腕に引き寄せられ抱きしめられた。
「あぁ…僕の妹がこんなに可愛い……なんて可愛いんだろう。天使?天使かな…」
何かブツブツと言ってるみたいだけれど、よく分からなかった。とにかく喜んでもらえたということが分かったので、プレゼントは渡して良かったみたい。
そのあと、数分間抱きつかれていたが中々部屋に戻らない私を心配したマーサによってようやく解放された。
「また、誘うからね。素敵なプレゼントをありがとう」
と言って、私の頬にキスを落とすとお兄様は部屋へ戻って言った。
マーサとミーナに今日あったことを話しながらお土産を渡すと、泣いて喜んでくれた。
ミーナなんか大切に飾ります、と言ってくれたがアクセサリーなのでつけて欲しい。
簡単に着替えてからお父様の執務室に向かう。
コンコン
入室の許可を頂いてから、執務室に入った。
お父様は1度書類を置くと私に目を向ける。
「楽しかったか?」
「はい、楽しかったです。」
「怪我は?してないな?何か嫌なことも無かったか?」
「ふふ、大丈夫です。」
お兄様に続いてお父様も何だか過保護。
でも、今まで外出なんてしなかったから心配かけちゃったのかも。
お父様が手招きをしたので近づく。
私の顔を近くで見ると楽しかったみたいだなと微笑んでくれた。
お土産を渡そうと手に持っていた袋を差し出した時、「はい、失礼しますよ~」と間延びした声に遮られた。声をした方を向けば案の定、空気の読めないで有名なニクロスだ。
「あ!シルフィオーネ様!お帰りなさいませっ、どうでした初の城下町は!楽しかったですか~!
今度は私と行きましょう!私ほど城下町の店を知るものはこの城には居ませんからねぇ!ややや、まさかレオン様に先を越されるとは思っても居ませんでしたが、次こそは私が一緒にぃでででででででででででだだだだだだだ」
最後の方は立ち上がったお父様に顔を掴まれ、言いきれてなかった。
「お前がそんなに死にたかったとは知らなかった。もっと早く言え」
と言いながら掴む力を強める。
「まま待ってくだしゃいへーか。私の顔が潰れてしまいましゅ。」
そのまま横に凪払われ床に倒れる。
お父様はゴミを見るように一瞥した後、私の元へ戻ってきた。
「さっき、何か言いかけたな?」
「あ、はい。…これ」
白い包み紙を差し出した。
「最近お疲れのご様子だったので甘さ控えめのケーキを。お兄様と食べたのですがほろ苦くて珈琲にも合うのでいいかなと思って……お口に合うか分かりませんが。」
「そうか。ありがとう」
ケーキを受け取ったお父様は端的にそう述べられたが、その言葉には嬉しいという感情が込められてたれと思う。
いつも以上に目元が柔らかくて微笑んでくださったから。
そうして大きな手で頭を撫でてくれた。
「あ、あのぉ~シルフィオーネ様?私なんかにお土産があったりしちゃったりしませんですかね??」
思いっきり横から舌打ちが聞こえたが、聞かなかった事にしよう。
小さい袋を取り出してニクロスにも渡した。
「っ!!!なんてお優しい!!私にもお土産を…!!ありがとうございます!シルフィオーネ様ー !!!!」
結局買ってきてもニクロスはうるさくなった。
そのあと、お父様に潰されていたけれど。
お父様は珈琲と一緒にケーキを食べ、気に入られたみたいだった。
「今度は俺と行くぞ」
と、言っていたけれどお父様はお忍びにならないのではないかなと思う。
自分のお父様ではあるが、あまりにもかっこよすぎるし、一般市民でないのが丸わかりだ。
お父様と城下町は無理でも、一緒に過ごすティータイムは楽しそうだな、と1人で思っていた。
そうして、私の1日は今日も楽しく終わったのである。
○お久しぶりです。リハビリで書きました。
やっぱり書いてないと下手になりますね、精進します。時系列的にはシルフィは13、レオンは18で書いたつもりです。でも、学院の話とかは触れていませんが。
この作品をはじめ、他の作品も読んでくださる方がいらっしゃって本当に嬉しいです。
そして、全然更新してないのに感想をくれる神様が沢山いらっしゃって驚いてます。
ありがとうございます。
ててて
155
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