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しおりを挟む「おい! この婚約は破棄だ!」
そう、私を突き付けたのはこの国の第二王子であるルーシュである。
しかし、私の婚約者であるルーシュは私の返事など聞かずにただ一方的に婚約を破棄してきたのである。
「おい! 返事をしろ! 聞こえないのか?」
聞こえないわけがない。けれども私は彼に返事をするつもりはなかった。私は何も言わない。否、何も言えないのだ。だって私は彼のことを何も知らないからだ。だから、返事ができないのである。
そんな私が反応を示さなかったのが面白くなかったのかルーシュは私を睨みつけて、さらに罵声を浴びせてきた。
「返事をしろと言っている! 聞こえているんだろ! おい!」
そんな暴言を吐いてくるルーシュに私は何も言えずにいた。けれども彼が次に発した言葉により私は反射的に彼に言い返してしまうのである。
「聞こえているわ! 」
その反応を見てルーシュは驚いたのかキョトンとした顔をしていた。しかしすぐにまた私に暴言を吐いてきた。
「聞こえているじゃないか! ならなぜ、返事をしなかった?」
「返事をしたかったわ! けれど、貴方の勢いに圧倒されてできなかっただけよ!」
そんな私の言葉にルーシュは益々驚いてしまったようだった。そのルーシュの顔を見て私は少し笑ってしまった。
「何笑っているんだ? 俺を馬鹿にしたつもりか!?」
そんなつもりは無いと私は彼に否定するが彼は聞く耳を持たないといった様子だった。そんな彼に対して私はある質問をした。それは今私が最も知りたい質問である。
「それより、この婚約破棄の理由は何かしら? 私は貴方に何かした覚えはないのだけれども」
そんな私の疑問にルーシュはさも当然といった様子で答えたのである。
「そんな理由など決まっているだろ! お前が俺よりも優秀な人材を捕まえたからに決まっている!」
そう言って彼は指をさした。その指が指し示している先には私がいた。一瞬なんのことか分からなかったが、少ししてからそのことに気づいた私はまさかと思った。
「そんな理由で!?だってその優秀な人材と言うのはまさか、彼なの!?」
そう言って私が指を指した方向にはあの眼鏡を掛けた彼がいた。すると彼は頭を下げてこう言ったのだ。
「はい、お嬢様に拾っていただきたくこちらに来ました」
彼の名前はリビン・ボタスキー。ボタスキー伯爵家の次男である。そして何を隠そう、私が暇つぶしでやっていたゲームの攻略対象であった人物だ。
「あら? そんな理由で私を追い出したと言うの? 随分と小さい器をお持ちなのね」
「なんだと!? お前は自分の立場が分かっていないのか?」
彼は私が何を言っているのか理解出来ていない様子だった。まぁ、それも仕方がないだろう。彼の基準では私に婚約破棄を突きつけたらそれで済むと考えていたのだろう。だから私が追い出したと言った理由に気づかなかったのだ。
「それは貴方にも言えることなのよ? ルーシュ第二王子殿下」
そう、彼の基準では私を追い出せばそれで済むと考えているのであろうが、それではだめなのだ。なぜなら彼にはそれに見合うだけの責任を取ってもらわなければいけないのだ。
「第一王子であるレオーネ殿下は貴方とは違って立派で優秀な方よ? そして、私の婚約者であるルーシュ第二王子殿下も貴方のお兄様なのよ?」
そんな私の言葉に彼は何を言われているのか理解していない様子だった。しかし、次第に意味を理解してきたのか顔がだんだんと赤くなっていった。
「お前!俺を愚弄するのか! 俺が愚弄されることなどあってはならないんだぞ!」
そんな彼の怒りに私は気にせず続けた。
「あら?だって本当のことですもの」
「なっ!」
そんな私の態度に彼は言葉を詰まらせていた。そして、そんな彼に私はさらに続けた。
「ルーシュ殿下は貴方とは違って優秀よ? だってそうでしょ? 貴方には貴方のやるべきことがあるのに貴方はそれをしていないもの」
彼の本質は能無しなのだ。それはゲームをプレイしているときに分かっていたことだ。だから私はそんな彼に現実を突きつけたのだ。彼が今やらなければいけないことを彼に分からせるために。
すると彼はそんな私に言い返してきたのだ。
「俺のやるべきことだと? それはこの国の未来のためになることだ!」
そんな彼の言葉を聞いた私はもう呆れ果てて言葉も出なかった。この国はこれから大きな戦争に巻き込まれる。そしてその戦争に勝利するには彼のような優秀な人材が必要になってくるのだ。しかし、彼はそんなことをする気は全くないのだろう。
「はぁ、もういいわ」
もうこれ以上話すだけ無駄であろうと考えた私は彼に対してこう言ったのだ。
「ルーシュ殿下はお兄様から王の座を奪って見せなさい! 貴方にはその能力があるのだから!」
私のそんな言葉を聞いたルーシュは最初何を言われているのか理解出来ていない様子だった。しかし、段々とその言葉を咀嚼していく内に理解したようで、怒りをあらわにしていった。
「貴様! この俺に言っていいことと悪いことがあるぞ!」
そんな彼に私はこう告げたのだ。
「それは貴方も同じよ」
私がそう告げると彼は言葉が詰まるようであった。だって彼も同じことをしているのだから。
「まぁいいわ。私はもう貴方の婚約者ではないからね」
そんな私に彼は悔しそうな表情を浮かべたが何も言わなかった。そんなルーシュに私はこう告げた。
「私を追い出したこと、後悔させてあげるわ」
私はそう彼に宣言してその場を後にしたのであった。
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