ドラッグストア「スミヨシ」

竜骨

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28.母親達のいま

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「え?なにその顔色」
 子ども達から「カズさん達の顔色がヤバい」と聞いて、退院した日に顔を出してみたら、ほんとにヤバい色をしていた。
 塗ってるのかと思うくらい、みんな黒い顔をしている。
 まだ梨奈が倒れて1週間も経っていない。
「梨奈ちゃんの見廻りがなくなって、みんな上手く動けなくて……」
 事務の高橋真由美が、真っ青な顔で話した。
 真由美は今まででも、1人で事務をやっていたので、まだなんとかやれているようだ。
 梨奈は毎日、問題が起きないよう、お店を回り、必要があれば対処していたのだが、それが無くなった途端、みんなの業務が倍になったらしい。
 1個1個が上手く行かないらしいのだ。

 梨奈としては見廻りなんて全部合わせても1日1時間くらいなので、なぜそんな事になるのかよく分からない。
 が、しかし、とにかく職員達の疲労が酷かった。
 なんとかしなければならない。
 
 困っていると、子ども達がびっくりする提案をしてきた。
「私たちの親が手伝っちゃ迷惑?払うお金が増えるから、困る?」
「え?でも、みんな働いてるでしょ?」
 梨奈が聞くと、安斎りあはなんてことないように言った。
「お母さんたちが、やりたいって。」
 現在、子ども達の親は夜の仕事をしていない。
 事の発端は、本間航一郎の1日を撮るために、くららが重度訪問介護を勉強した事にある。
 重度訪問介護は本間航一郎のように、重度の障害者が一人暮らしをするための制度である。
 くらら達はこの制度を見て、聞いて思った。
「夜の仕事より、こっちのが楽じゃないか?」
 と。
 重度訪問介護は1対1の仕事の為、セルフコーディネートと言って、介護する側と介護される側のマッチングが出来る。
 つまり介護する側が「あの子なら、介護したい。」と選ぶこともできるのである。
 この制度を使って、くらら達の母親は女性障害者2人を選び、5人でその子達専属のヘルパーになった。
 今まで、客に選んで貰わなければならず、毎日の営業メールや飲酒の過剰摂取、給料が高いと見せかけて消える衣装代(自費)などから解放された母親達は、すっかり元気を取り戻していた。
 そのため、元気が余ってる。
 今回の件を聞いて、梨奈が倒れている間だけでいいので手伝いたいと。
「16時間勤務すると2日休みだから、休み2日目の昼に手伝うようにローテーションすれば、全然問題ないって母さん達が言ってる。」
 りあがすらすらと言う。
 りあは気づいていないが、この発言をするのには四則演算が必要だ。
 子ども達は着実に力をつけていた。
 正直、いきなり母親達を投入して、さらに混乱するかもしれない。
 しかし、この気持ちが嬉しい。スタッフ達を見ると、顔が少し明るくなっていた。きっと、この気持ちでスタッフ達もなんとか持ちこたえられるだろう。
「よろしくお願いします。」
 梨奈は子ども達に深々と頭を下げた。
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