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エリザとキース

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 エリザにはキースという息子がいる。こいつはわがままで手をつけられない。そうなった理由の一つとして挙げられるのは、エリザがキースにはとことん甘いことだろう。

 キースは食べ物の好き嫌いは激しい。嫌いなものを出すと私に向かって投げつけてくる。それを知ったエリザにもネチネチ嫌味を言われるのだ。また、キースあれに嫌がらせという名の遊びに付き合えと言われることがある。私はわざわざ付き合ってやるのが嫌なので、無視する。だが、あれは癇癪を起こすのだ。それを聞きつけたエリザがやってきて、私を叩く。その様子を見たあれは、陰でニヤリと嫌味な笑みを浮かべている。その笑みを見るたびにムカつくが、私は反抗することはできない。反抗すると、さらに人を痛めつけるような罰が待っているからだ。

 呆れるほど、人の精神力をジリジリ削る見事な連携プレー。紹介した他にも多々ある。だから、私はさっさとこの家から出て行きたかった。
――オルニスさえいれば、こんなことにはならなかったのかな?

「おい、僕の嫌いなキャロットが入っているじゃないかっ! この能無し! 何度言えば、わかるんだ!」

 器に入っているスープ。私は、それをかけられた。ビチョビチョになる髪や服。最悪だ。だいたい、キャロットが嫌いなんて、初めて聞いた。このクソガキがっ!

「あらあら、わたくしのキースに意地悪するなんて、どういう神経をしているのかしら? 何度言ってもわからないなんて、お仕置きが必要よね?? ふふふふ……、こちらに来なさい」

 あの女に呼ばれ、側へ行った。あの女は笑顔で、常に持ち歩いている扇を振りかぶる。私が粗相をすると、ぶってくるのだ。
 ガッ!
 嫌な音が響いた。固いもので打たれて痛い。鏡は見ていないが、きっと赤くなっているだろう。しかも、顔を狙ってきた。頰がジンジン痛む。最悪だ。

 エリザは、嫌いな者には容赦のない女。キースは、人の不幸を見て優越感に浸るクソガキだ。

 なぜ父は、あの女とあの子供を連れてきたのか。後継のためだろうか。私が女だったから、あの性悪女と結婚し直したのだろうか。全て、父がいない中で聞けることではない。いっそのこと告げ口したいと思うが、肝心の父がいないのだ。あの女が来てから、仕事を理由に一度も家に帰ってきていないのだ。私のことが嫌いならそれでもいいが、この仕打ちは酷すぎる。

 つり目で、相手にきつめな印象を与えていそうなエリザ。灰色の縦ロールの髪。いかにも、高級そうな真っ赤なドレスを身につけていた。黙っていれば美人だが、性格が悪い。声もうるさい。

 そのエリザの怒鳴り声は、いまだに部屋中に響いている。私は、キーキー鳴いているエリザの話を聞いているフリをしていた。キースは、私のことを鼻で笑い、食べるのを再開していた。

 顔はいいけど、母親と同じで性格は悪いキース。くすんだ髪で、きのこ頭のくせに……。母親がいないと何もできないクソガキのくせに……生意気だ。
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