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エリザ

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 追いやられた小さな部屋は、埃かぶっていた。私に与えられたのは、使用人の部屋でさえなかった。私がいるのは、小さな倉庫部屋。こんな暮らしになったのは、あの女が来てからだ。つまり、すべてはあの女のせいである。

 私に食事を作るように命令した女は、あの日から私を召使いのように扱っている。あの女は、料理、掃除、洗濯、片付けなどを私に押し付けていた。執事やメイドの仕事は、機能していない。使用人たちは、あの女の味方だ。きっとあの女の甘い蜜が欲しくて、群がってご機嫌を取っているのだろう。

 ――私の父は、女を見る目がないのよ。絶対。あんな女を連れてくるのだから。

 エリザ。この女は、私の母ではない。父が連れてきたために、新しく母親となったのだ。父は私たちに「仲良くしなさい」と言い、仕事へ行った。そのまま、しばらく帰ってきていない。もう、半年くらいは経っているだろう。今はその話は置いておく。
 とりあえず、エリザのことだ。あの女、父が仕事でいなくなると……、私をいじめてきた。父に見せていた優しげな表情をコロッと変えたのだ。

「愛する人の憎い娘はいらないのよ。わたくしたちの幸せのために、消えてくださるかしら?」

 母となるべくしてきた女は、私を憎悪のこもった目で睨みつけてきた。この女は相当私が嫌いであるようだった。

「あははははっ!! でも、消えるだけじゃだめよね? あなたはこれからわたくしたちの世話をするの。存分に苦しみなさい。そして、おめでとう。わたくしが直々にあなたを躾けてあげるわ!!」

 狂っていた。不気味な笑い声は、恐怖しか感じなかった。

 あの女は、徹底的に私を潰そうとしてきた。私を精神的に追い詰めるためなのだろう。屋敷の者たちを自分の手のかかる者に総入れ替えした。きっとその方があの女が動きやすいからという理由もあるだろう。
 また、私に家事や雑務をさせるようになった。それであの女の機嫌を損ねたら、頰をぶたれた。ほんの些細な失敗でも指摘してきた。それで、「言い訳はいらないのよ」と言われ、蹴飛ばされたこともある。
 あの女は私をいじめるために、小さなことでも見逃さない。私が苦しむ姿を見たいから。酷い女だよ、あの女は……。

 あの女は、ほんとうに最低な人だよ。毎日毎日、新しいドレスや新しい宝石を買って、散財してばかり。豪華な服を着て、私の薄汚れた薄いワンピースを見て、蔑んでくるんだ。

 父はなぜエリザを迎えたのだろうか。こんなとんでもない女は連れてきて欲しくなかった。
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