水神の棲む村

月詠世理

文字の大きさ
25 / 46

25話

しおりを挟む
 恵みの雨など知ったことか。今までも雨を降らせたことなどない。そして、これからもそれをすることはない。人間どもが投げたものは、穢れの塊だ。誰があのようなものを作り出したのかは知らない。あれは、怨念の塊という恐ろしきものなのだ。

 長年蓄積されてきたものより恐ろしく暗いもの。湖の水が簡単に黒ずんでいった。済んでいる場所は穢れやすいといわれるが、徐々に侵略されていくものだ。私の領域が真っ黒に染められていく。穢すのは一瞬であり、綺麗に戻すのは長年の時間が必要だ。私の願い、一人の女に願ったことは人間どもに守られることはなかった。

「この湖を綺麗に保って欲しい。それが、そなたのために、私のためにつながるのだから」

 せっかく神具で浄化された場も水も怨念の塊により、逆戻りだ。水は私の源であり、神域は私の大切な棲家。自分の力を最大限に発揮できるところ。神域が穢されていくことで、私の力も衰えていく。
 衰弱した私は徐々に力を失い、死んでいくだろう。

「私は、死ぬのか」

 誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。一度は助かった命もここで終わりだと思うと、虚しくなる。
 諦めるのか。そんなことができるのか。いや、できない。諦められない。自分の命を人間の悪意のために、捨ててたまるか。こんなことでくたばってたまるか。

「おい、小僧」

 私が指差した奴はあの人間。パッツンで水色髪をした少年だ。私は苦しみに胸を抑えていた。人間たちが入ってくるのがわかり、湖の様子を見て、侵入した人間たちを止めようとした。私はククリや小僧に気付かれないように力を使ったが、まだ本調子ではなかったようだ。上手く力が働かなかった。簡単に穢れをばら撒かれることを許してしまった。私自信が力を回復しないといけない。きっと小僧は私の力の使用に気づいているだろう。にやにやとした笑みを向けてくるのだ。腹立たしきことよ。

「水神様って面白いよね。神様なのに、人間にな~んにもできない。普通人間が神を前にして非力な存在であるって言われてるのに、神である水神様が人間を前にして何もできなかったなんてさ。滑稽だね!!」
小僧貴様、殺すぞ!!」
「無理無理、今の水神様じゃ無理だって。無理だよ、無理!!」

 何度も言われずともわかっている。首から上を切り離してやりたいくらいイラッとしたが、私には小僧が必要だ。最悪なことにな。

「おい、小僧。名前は?」
「え、さっき言ったよね!? シズクだよ! シズク。忘れないでよね~~!!」
「では、シズク。私にその力を渡してもらおう」
「……さっき話した時は僕なんていらないって言ったのに。水神様は僕の心を弄んでいるんだ。ひどいひど~い!!」

 こいつ殺すか? いや、ダメだ。抑えるんだ。怒鳴ってやりたいが我慢だ我慢。おい、小娘、引いてないで小僧をなんとかしろ。何も知らない小娘でも小僧の口を押さえることはできるはずだ。

「まあまあ、そんなに座った目で僕を見ないでよ~。揶揄っただけじゃん! 怖いからね?」
「……」
「わかったよ。いいよ。状況が状況だし、いざというときに使えない水神様は困るもん」
「小僧、いい加減その口を閉じろ!」
「はいはい、そんな怒んないでよ。あっ! 水神様、これからは僕の霊力で生活だ。僕がいないと生きていられない神様になっちゃったね!」

 ニコニコと笑っていう小僧にイラッとくる。また、小僧の言葉に鳥肌が立った。誰がお前がいないと生きていけないだ。今はその通りだから言われても仕方ないとはいえ、虫唾が走る。

「はぁ、小僧。神域の穢れを祓うまでは、私の神子でいてもらおう。そうでないと私が死ぬ。正式な契約はできんが簡易契約で名乗りでもしておくか? まあ、正式な契約の準備もしておいてもらうがな」
「あーあ、もう少し怒ってた水神様見てたかったのにな~。素っ気ない、ノリ悪~い! それにさ、神子はいらないって言ってたのに、その言葉を反故することになったからかな?」

 目を細めた小僧は「機嫌悪いね」と言い放った。一言も二言も余計だ。小僧が私を揶揄うことが不愉快だ。私は不機嫌な表情を前面に出していただろう。今までの苛立ちをぶつけるように小僧へ鋭い視線を送る。小僧は私のその様子に「なんでもないです」と言って、私から目を逸らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。 ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。 同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。 ※♡話はHシーンです ※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。 ※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。 ※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...