限られたある世界と現実

月詠世理

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限られたある世界と現実

時間×願い×記憶

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 わたしにはもう時間がない。……すまない、――。お前を愛している。
 淡い光を放ち、小さな粒となっていく体。わたしはもう戻ってこれない。お前を幸せにできない。だから、願うしかない。どうか、お前に幸せが訪れますように、と。

 最後に思い浮かんだのは、お前の笑顔。ああ、時間とはなんて残酷なものなのだろうか。わたしはお前といられた。そこに後悔はない。わたしはお前ともっと一緒にいたい。それだけが心深くに埋まっている。

 わたしの時間もお前の時間も戻らない。それなのに、なんと哀れで滑稽なことか。だが、願わずにはいられない。どうか、どうか、――と。叶わぬ願いを胸に秘めることしかできない。

 わたしを許してほしい。お前を置いて行ってしまうことを許しておくれ。わたしの生きられる時間はすでに決まっていたことなんだ。だから、消えゆくことも決められていたこと。突きつけられた。ある道を選ばなければならなかった。そうでなければ、わたしは生きられなかった。あの時の選択は間違っていない。なぜなら、お前と会えたから。

 なぁ、時間を巻き戻せたらって考えることあるか。わたしはある。消えゆく途中で何度も思った。幸せな時間を、お前と過ごす時間を、わたしが生きられる時間を取り戻したい。けれど、時間はどんなことをしたって進んでいく。時計の針を操作して時間をずらすことはできるが、時間の本質はずらせない。時を刻んでいく。

 わたしたちは時間の檻に囲まれている。そこから抜け出すことはできない。わたしたちが生きていく上で時間は切っても切れないもの。目に見えなくてもわたしたちの暮らしにあるものだ。
 誰しも時間に逆らうことはできない。そんな方法があったら、過去の失敗を取り消すことなどをやっているだろう。ああ、時間に抗う方法があれば良かった。そうすれば――。

 時間を切り取って、幸せな日々を集めよう。わたしの望んだ世界を作り出す。わたしはそこで長い時を過ごすだろう。これで、わたしはお前と一緒にいることができる。たとえ、偽物の世界でも、作り物の世界でもいい。お前といることができるから。

 この世界はお前がこちらにくるまでの繋ぎとした。独りは寂しいものだ。わたしは、お前がくるまで待ち続ける。本物の世界で、お前が幸せであるように、と祈りながら――。
 お前がわたしを覚えていなくても、わたしがお前を覚えている。

 時間に逆らえないものが、長い夢の中であるものを待つ話。あるものの幸せを願う話。ある選択で生きながらえ、いなくなる時が決められた話。そして、存在が消えたわたしの記憶は、本物の世界の人々から全てなくなっている話。
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