限られたある世界と現実

月詠世理

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限られたある世界と現実

あめ×豆粒×五感

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 空から降ってくるあめ。ぼたぼたぼたぼた降ってくる。小さくて丸いもの。だが、当たると痛い。コツンッ、コツンッ、とぶつかっている。傘が欲しいところだ。

「こんなにあめが降ってくるなんて、誰の願望が実現したものだよ!」

 あめは好きだ。口の中で溶けていき、味が広がる。小さなものを転がすだけで、一つの味が楽しめる。甘いのも酸っぱいのも、あなたが選んだ通りだ。――ただ、今は味を選んだり、楽しんだりする余裕などない。

 僕の前にある子が現れた。その子のサイズは、人差し指の第一関節くらい。つまり、とても小さい。豆粒に見えてくる。
 僕は、縦横無尽に動く子を目で追う。そのため、僕の瞳はせわしなく動いている。「何をしたいんだろう。この豆粒……」と思いながらも、視線は逸らさない。

「あなたの願いをわたくしは叶えました。ですから、味覚をわたくしにください!」

 僕の鼻先にいる子は、極小で、羽をつけていた。そして、人の形をしている。キラキラと羽を輝かせていて、金色の粉のようなものがサラサラと落ちていく。僕はその綺麗な光に目を奪われていた。が、言っていることがおかしい。

 僕の動きは一瞬にして止まった。頭の中で浮かべていた性格のいい可愛らしい妖精とは別であった。言っていることも物騒である。イメージと現実の差が大きい。思考が止まる。頭の中が真っ白だ。

 呆然と立っていた僕。ハッとして、急いで恐ろしい豆粒から離れた。「味覚、ちょうだい」とか怖すぎだから。それに、存在自体が謎すぎる。現実離れしてて、信じられない。僕は夢でも見ているんだ。

「あっ! 待ってくださいよ~、人間様~。味覚がだめなら聴覚でもいいですよ? それがだめなら、触覚でも、視覚でもいいですから!!」
「何言ってるんだ! 全部あげられないからな!! 君、ちっこいくせに怖いこと言うね。……近寄ってこないでくれる?」
「そんな……人間様……。ケチッ!! 願いを叶えてあげたんだから、視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚くらいもらってもいいくらいよ!!」

 この豆粒、恐ろしい子。人間、五感もっていかれたら、生きていけないからな。だいたい、願いを叶えてくれと頼んだことはない。

「あなたが大好きな飴を降らせてあげたじゃない。大変だったのよ。毎日、千個ずつ集めたんだから! ちゃんと報酬は支払うべきよ!!」
「いや、君が勝手にやったことだし、僕は君に『飴を降らせて』なんて頼んでないよ」

 降ってきた飴、豆粒が汗水流して集めたものだったんだ。千個ずつ集めてたことに驚いた。僕は、豆粒が不思議な力で用意していたものと思っていたよ。小さい身体で頑張ってたんだね。僕は哀れみを込めた瞳で豆粒を見る。君は小さい身体で頑張ってたんだな。怖いやつだけど……。

「な、なによ、その! 気持ち悪いわよ!! い、いいから、全部寄越しなさい! わたくしはあなたの願いを叶えてあげたんだから!!」
「落ちこぼれ見習いフェアリー、あなたは何をしているんですか!」

 あれ、豆粒がもう一匹増えた。小さな手が持っているものはムチ。ピシッピシッと音を鳴らしている。豆粒は、みんな怖いやつだね。ああ、恐ろしい。

「落ちこぼれのあなたの指導はまだ終わっていません。私の許可なく、人間様の願いを叶えようとするとはどういうことですか! 国に帰ったら、反省文を千枚書いてもらいますからね!」

 落ちこぼれと言われた豆粒は、ムチでぐるぐる巻きにされた。豆粒は泣いている。反省文千枚を書き終わるのに何日かかるのだろうか。そんなしょうもないことを考えていると、ムチを持っている豆粒が僕を振り返った。

「人間様、申し訳ございません。この落ちこぼれクソ見習いフェアリーがご迷惑をおかけしたようで……。人間様、本日の記憶は消させていただきますね。私達は人間にバレずに活動しているので、人間に私達の存在を知られるわけにはいかないのです。申し訳ございませんが……」

 フラッシュ音のようなバチっとした音が響いた。その後の記憶はない。

 ――僕はいつのまにか寝ていたようだ。なぜか僕は、「豆粒は恐ろしい」と思っていた。しばらく、その言葉が頭の中でぐるぐるとしていた。


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