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限られたある世界と現実
耳×求婚×逃避
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姿は人間だった。目を引いたのは、その人の耳。頭のてっぺんに近いところに、尖った耳をつけていた。ピクピクと動くそれ。本物だろうか? 気になって、気になってしょうがない。ジロジロと獣の耳をつけた人を見ていた。
「あの? 私に何か御用ですか?」
熱い視線を向けていたのに気づいたのだろうか? 耳をつけた人は僕に話しかけてきた。ピクピクと動く耳。触ってみたい。どうしても視線は頭に向いてしまう。
「えーっと……、あの……??」
首を傾げ、せわしなく視線を動かしながら、僕の様子を伺っていた。戸惑っているらしい。オロオロと宙を彷徨う手。チラチラと潤んだ瞳で僕を見てくる。その姿に僕は思わずに言ってしまった。
「ねえ、君。その耳、本物?」
緊張感のない彼女に、ポロっと言葉が零れてしまった。もう少し慎重に聞くべきことだったのに……。僕の言葉に慌てた様子を見せた彼女。目を見開き、頭に手を持っていった。
「こ、こ、こ、コレ、コレがほ、ほ、ほ……本物な、わけが……ない……じゃないですか!?」
誤魔化すのにも無理があるよ。いつまでも耳を隠してたら、疑ってくださいって言ってるようなものだ。本物じゃないなら、堂々としてればいい。それに、どもりすぎてて、本物ですって言っているようにしか聞こえない。
「……あれ、おかしいなあ~。人間に見えるわけがないんだけど……。人間に見えるように、ちゃんと人間に化けているはず。この耳だってちゃんと隠してた。なんで、人間に私の耳が見えてるの?」
物事を整理するのはいいが、もう少し声の音量に気をつけた方がいい。僕に聞こえてるから。それに、隠したいことなら尚更、心の中で整理をつけるべきだ。
「へぇ~、その獣耳、本物なんだ~。ねぇ、触っていい?」
「はへ? だ、ダメに決まってるでしょ!? 人間と結婚するなんて無理だからね!?」
「耳を触るだけで結婚って……。話飛びすぎ。ちょっと引くよ?」
耳を触っただけで結婚だよ。結婚。無理だから。しかも、僕たち出会ったばかり。恋人関係でもないのに、すっ飛ばして結婚まで行くなんて、無理だよ。初対面相手なら、さらにハードルが高い。出会って秒で結婚する人間がいたら見てみたいよ。
「あ・な・たねぇ~、私の耳触りたいって言ったでしょう? 私があなたに耳を触らせたら求婚を受けたことになるのよ!! これだから人間はっ!!」
「いや、これだからって言われても困るよ。僕は君が人間じゃないことを知っている。他に知ってるのは、獣の耳を持ってることくらい。求婚がどうとかは言われないとわからないことだったよ」
僕が彼女の耳を触ったら、彼女は僕の求婚を受けたことになるらしい。僕はピョコピョコ動く耳が本物か知りたいだけなのにな。引っ張ってみたら、相手の反応で本物か偽物かわかるだろう。だけど、触るだけで求婚したことになるのは抵抗がある。――ああ、触ってみたいのにな。
僕のことを人間って言っている彼女は、やっぱり人間じゃないようだ。じゃあ、何者なんだろう? 耳の形が猫っぽいから猫だろうか?
僕は己の欲求に素直になることにした。静かに彼女に近づき、獣の耳に手を伸ばした。人差し指が触れる。そのままキュッと耳を引っ張ってみると、「いたいっ!」と悲鳴が聞こえた。
――本物の耳だ! 何度かキュッと耳を引っ張ってたが、彼女は痛そうに顔を歪めていた。あははははははは、ちょっと楽しくなってきたけど、これくらいにしておこう。少し肌触りのいいこの耳を触っていたい気持ちはある。だが、怒られるのは面倒だ。
僕は遊んでいた彼女の耳から手を離した。潤んだ瞳が僕を見つめている。無視しよう。さて、獣の耳が本物だとわかったし、早く家に帰るか。
「ちょ、ちょっと! ど、どこにいくのよ!?」
「えー、家に帰るんだよ」
「『えー』、じゃないわよっ! 私の耳を触ったんだから、責任とりなさい!! 私はあなたに嫁ぐんだから。不本意でも求婚を受けてしまったんだもの。取り消しはできないの!!」
えっ、そこは臨機応変にいこうよ。人間じゃない彼女と結婚できるわけがないだろう。もう、本物の耳か確かめたかっただけなのに、変なことになったなぁ~。よし、ここは逃げよう。
――ああ、変なことに巻き込まれてしまった。
「あの? 私に何か御用ですか?」
熱い視線を向けていたのに気づいたのだろうか? 耳をつけた人は僕に話しかけてきた。ピクピクと動く耳。触ってみたい。どうしても視線は頭に向いてしまう。
「えーっと……、あの……??」
首を傾げ、せわしなく視線を動かしながら、僕の様子を伺っていた。戸惑っているらしい。オロオロと宙を彷徨う手。チラチラと潤んだ瞳で僕を見てくる。その姿に僕は思わずに言ってしまった。
「ねえ、君。その耳、本物?」
緊張感のない彼女に、ポロっと言葉が零れてしまった。もう少し慎重に聞くべきことだったのに……。僕の言葉に慌てた様子を見せた彼女。目を見開き、頭に手を持っていった。
「こ、こ、こ、コレ、コレがほ、ほ、ほ……本物な、わけが……ない……じゃないですか!?」
誤魔化すのにも無理があるよ。いつまでも耳を隠してたら、疑ってくださいって言ってるようなものだ。本物じゃないなら、堂々としてればいい。それに、どもりすぎてて、本物ですって言っているようにしか聞こえない。
「……あれ、おかしいなあ~。人間に見えるわけがないんだけど……。人間に見えるように、ちゃんと人間に化けているはず。この耳だってちゃんと隠してた。なんで、人間に私の耳が見えてるの?」
物事を整理するのはいいが、もう少し声の音量に気をつけた方がいい。僕に聞こえてるから。それに、隠したいことなら尚更、心の中で整理をつけるべきだ。
「へぇ~、その獣耳、本物なんだ~。ねぇ、触っていい?」
「はへ? だ、ダメに決まってるでしょ!? 人間と結婚するなんて無理だからね!?」
「耳を触るだけで結婚って……。話飛びすぎ。ちょっと引くよ?」
耳を触っただけで結婚だよ。結婚。無理だから。しかも、僕たち出会ったばかり。恋人関係でもないのに、すっ飛ばして結婚まで行くなんて、無理だよ。初対面相手なら、さらにハードルが高い。出会って秒で結婚する人間がいたら見てみたいよ。
「あ・な・たねぇ~、私の耳触りたいって言ったでしょう? 私があなたに耳を触らせたら求婚を受けたことになるのよ!! これだから人間はっ!!」
「いや、これだからって言われても困るよ。僕は君が人間じゃないことを知っている。他に知ってるのは、獣の耳を持ってることくらい。求婚がどうとかは言われないとわからないことだったよ」
僕が彼女の耳を触ったら、彼女は僕の求婚を受けたことになるらしい。僕はピョコピョコ動く耳が本物か知りたいだけなのにな。引っ張ってみたら、相手の反応で本物か偽物かわかるだろう。だけど、触るだけで求婚したことになるのは抵抗がある。――ああ、触ってみたいのにな。
僕のことを人間って言っている彼女は、やっぱり人間じゃないようだ。じゃあ、何者なんだろう? 耳の形が猫っぽいから猫だろうか?
僕は己の欲求に素直になることにした。静かに彼女に近づき、獣の耳に手を伸ばした。人差し指が触れる。そのままキュッと耳を引っ張ってみると、「いたいっ!」と悲鳴が聞こえた。
――本物の耳だ! 何度かキュッと耳を引っ張ってたが、彼女は痛そうに顔を歪めていた。あははははははは、ちょっと楽しくなってきたけど、これくらいにしておこう。少し肌触りのいいこの耳を触っていたい気持ちはある。だが、怒られるのは面倒だ。
僕は遊んでいた彼女の耳から手を離した。潤んだ瞳が僕を見つめている。無視しよう。さて、獣の耳が本物だとわかったし、早く家に帰るか。
「ちょ、ちょっと! ど、どこにいくのよ!?」
「えー、家に帰るんだよ」
「『えー』、じゃないわよっ! 私の耳を触ったんだから、責任とりなさい!! 私はあなたに嫁ぐんだから。不本意でも求婚を受けてしまったんだもの。取り消しはできないの!!」
えっ、そこは臨機応変にいこうよ。人間じゃない彼女と結婚できるわけがないだろう。もう、本物の耳か確かめたかっただけなのに、変なことになったなぁ~。よし、ここは逃げよう。
――ああ、変なことに巻き込まれてしまった。
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