限られたある世界と現実

月詠世理

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限られたある世界と現実

イカれた人間×イカれた神様

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 突き立てられた剣。それにつたわり、とろりと流れていく赤。ぽたぽたと地に落ちていく。口から漏れている赤は拭えそうにない。左胸に刺さる剣が視界に映った。ああ、ここで終わるのか。命が消えゆく音が聞こえた。

 これであの子は救われるのだろう。あの子を助ける術があるのなら、どんなことでもしたはずだ。この道を進んだことに後悔はない。どうかこれから先も生きて。僕のことは忘れて。

――全てあいつが楽しむために踊らされたとは知らずに。そのことを知ったのは命の灯火が消えかけた時。嘘だ、信じたくない、僕はあの子を助けられると思って……。一粒の滴が零れた。


 誰もいない静寂な空間。祈りの場所。神様がいると言われているところ。そこで僕は出会った。神様に。

「ねぇ、人間ってうざいよね。神様を頼りにするなよ。……おーい、聞いてる?」

 思考は停止。誰もいなかったところに、突然現れた人物。驚きを隠せなかった。僕の前にいる人のは、背が高く、短髪で顔の整っている美形。肌は雪のような白で、瞳は深紅だった。

「ちっ! おい、毎日毎日願いがある人間どもがここに心底うざってーの。だから、お前さ、妹を救いたいなら、世界をぶっ壊してよ」

 世界の破壊。それは一体どんなものなんだろうか。ろくでもないことなのは確かだ。

「いいだろう? お前が俺を楽しませることができたら妹を救ってあげるよ。でも、もしお前が期待外れだったら、……妹はさてどうしてやろうか?」

 意地悪そうに歪んだ唇。恐ろしげな笑みを張り付けている人であった。僕は顔を顰める。まるで即効性の毒が体内で回ったみたいだ。大切な人を助けたかったら世界を壊せ、だなんてさ。神様でなく、悪魔らしいよ。

「いいよ。本当に妹を救えるなら、ね?」
「ふっ、せいぜい俺を楽しませろよ? 少しでも面白くなーって思ったら、どうなるかわかってるよな?」

 脅しだ。こいつを楽しませないと、僕も妹も最悪死ぬかもしれない。ああ、なんて残酷なんだろうか。でも、僕は何をしてでも妹を救いたい。原因不明の不治の病に罹った苦しむ妹のために。僕は世界を壊すことに決めた。すでに決まった運命を知らずに。僕はただ駒として利用されただけだと気づくのはある真実を教えられてからだ。その時きっとわかるのだろう。あいつは悪魔のようなやつだって。

「誰かを救おうと人を傷つけながらも前に進む。でも、妹は助からない運命にある。ふははははっ!! あの人間の絶望する姿を早く見たいな。他の人間どもが奪われたものを失うのはどんな気分なんだろうな? 奪ったら奪われるのは当たり前だろう?」

 可能性のあるいくつかの未来は閉ざされた。あの人間の道はすでに俺の手のひらの上。ああ、面白いっ!!
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