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物語の終わりと始まり
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【作品詳細】
※ 一部残酷な描写が含まれています※
「終わったはずなのに戻っていた」
短編。フィクション。あくまでも物語。
エブリスタ様で公開していたのかもしれないが、現在は非公開となっている(2022/11/27が更新日。公開していたのかわからないため、一応記載することにした)。
【以下、本文】
二人は手を繋いで歩いていた。一人が手を離せば、もう一人の手は行き場を失う。繋ぐ先はなくなる。立ち止まる足。進んでいく足。道はすでに分たれていた。なぁ、置いていかないでくれ。そして、――はいなくなった。この世から。
ぎゅっと握った手は温かい。この人と一緒にいると安心する。心地よさを感じる。この人と共にいることができて良かった。これからもこの人の隣にいたい。そう思っていたのに、終わりは呆気なかった。
「ふふふふふ、あなたが彼の隣にいられるわけないでしょう? 人のものを取ったらダメって教わらなかったの?」
笑う女。目は冷たい。柔らかな声であるが、攻撃的な態度。その全てに恐ろしさがあった。掴みかかってきそうな勢いなのに、手を出してきそうな感じなのに、口で精神を揺さぶってくる。
「ねぇねぇ、返事がないけど聞いてるの? 私のものを取らないでよ。あの人は私のなの。あの優しい笑顔も柔らかな眼差しも大切な物を扱うように触るところもぜーんぶ私の、私だけの特別なのよ!! 勘違いしないでね。あなたは遊びなのよ」
突然、言われたことに驚きを隠せなかった。それよりも苦しさや悲しさがあった。私のことは遊びだったのか、と。きっと普段の私なら信じてなかった。他人の言葉よりも彼の言葉に耳を傾けていたと思う。でも、現実はそううまくいかない。もう苦しかった。辛かった。泣きたいのを我慢して、溢れてきそうな行き場のない感情に蓋をして、耐えていた。今、かろうじて繋がっていた糸がプツンっと切れた気がする。
「ああ、そうだったんだ。だから、あの手紙や写真の数々、その他諸々があったのね」
何ヶ月も前から送られていた手紙。私が何番目なのかを尋ねるもの。私が利用されているだけというもの。私が遊びで付き合ってもらっているというもの。恋人は他にいるんだから別れろというもの。私への悪口。私への嫌がらせ。呼び出しをされて、身体的なものになったこともある。彼の隣に映る綺麗な女の人。それも、たくさん写真があって次々に見ると違う人だった。他にもあることにはあったが、今回は彼の本気のお付き合いをしている人との会話である。自信満々に歪んだ笑みを浮かべて、人に現実を見せる女。もう何もかもが無理だった。疲弊していた。精神状態が不安定だった。繋ぎ止めている理性は崩壊していた。だから、――。
「お前は捨てられたのよ。だから、あなたはあの人には会えない。会ってもらえない。興味なんてこれっぽっちもないから見向きもされない。ほんと残念だったわね。でも、幸せな夢を見れたんだから満足しなさいよ?」
ドンっと押した女。押された私は地面に尻餅をついた。涙は流れなかった。ここ一ヶ月会えなかったのはそういうことか。全てを察した。私ではなく、他の人が本命だったんだとわかった。ああ、なんて残酷なんだろう。私はこれからどうすればいいの? そんなことを思って呆然としていた。だから、……だから、女がしようとしていたことに気づくことはなかったんだ。
「はい、これ」
「……うぐっ」
口の中に何か小さな粒を入れられた。口は抑えられていたが、何とか飲み込まないようにした。けれど、抵抗は虚しく、鼻まで塞がれたことで私はそれを飲んでしまった。
「……うっ、ゲホッゲホッ!! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「きったない咳してんじゃないわよ。じゃ、行くわよ。あんたはこれから高い所に行って、足元を滑らせて落ちる。心身喪失だったあんたは追い詰められた末に死ぬことを選んだって流れよ。……じゃ、そういうことだからあとはよろしくね!」
「おー、怖っ!」
突然豹変した女。誰かに頼みをすると、さっさと歩いていった。彼女と入れ替わるように現れた男。
「あー、かわいそっ! でも、可哀想な子っていいよね。泣く姿を見てみたい。もっとボロボロにしてあげたかった。あーあ、残念だな~。だって君、あの女を敵に回したんだ。あいつ敵に容赦しねぇんだよ。徹底的に潰す。欲しいものがあったのなら尚更な。まっ! 残念だったってことで」
私はまだ現実を受け入れられず、頭が回っていない状態だ。この男が何を言っているのかもいまいちわかっていない。わかっているのは、逃げなかったら私が死ぬということだけ。でも、――。
「もういいや。どうせ逃げられないんだろうし、彼も私の隣にはいてくれない。だったらもうどうなってもいっか!」
から笑いをした。
「はっ? あんたまだ何にもわかってないの?」
「べつにわかる必要なんてないでしょ。わたしはどうせ殺されるんだから」
「そうかよ」
ぐらんっと視界が揺れた。
「あ、れ?」
自分の体に力を入れることができず、思わず手をついてしまった。気持ち悪い。何が起こっているの?
「じゃあ、おやすみ」
何かに鼻と口を覆われ、私の意識は落ちた。
「さてさて、めんどくさい仕事の時間だー! あの女が全て仕組んだこととは知らずに偽物の写真を信じてるんだから、ほんと可哀想なやつ。まっ、優しいから最期に教えてやるか」
眠っている女は運ばれていく。人気がなく、見つかりにくい場所へ。人が落ちてもおかしくないところへ。運ばれる。
「おいっ! 起きろっ!!」
体に衝撃を感じ、パッと瞼を開いた。忙しなく視線を動かす。私はいかにも古そうな建物で、今にも壊れてしまいそうな柵の前にいた。
「靴は脱がせて揃えてある。あとはあんたが柵の前に立つだけだ」
「……」
「と言っても体に力入んないだろうから、最後まで俺がやるんだけどな! あ、そうそう。いいこと教えてやるよ」
男によって、私の手は柵を握っていた。下を見ると遠くに地面が見える。あ、私はここで……。
「お前さ、あの女にいいように踊らされていたんだよ!」
「えっ……?」
背に走る衝撃。浮かび上がる体。いや、落ちていく体。地面がどんどん近づいてきて、わたしは――。もう、何がなんだかわからないよ。あの女が全て仕組んだことだったの? こんやくしゃって話は嘘……? 全身に走った痛みは一瞬だった。
「あーあ、さようなら。でも、面白そうだから、もう一回試してみようかな? あの女とあの男は付き合うことなんてできないだろうし。しかも、全部あいつがやったことだって知って、憎むようになるし。あっ、あの女とあの男がどうなるかを見て、落ちちゃった子を戻してみよう。あー、楽しみ!」
愛し愛していた男女が一人の女の手によって引き裂かれた。男は女の死を知り、隠されていた手紙や写真の数々を見る。「こんな物が……」と驚きを、「誰がこんな物を……」と怒りに震えた。男は愛した人を傷つけ、奪ったことを許せなかった。だから、探した。探して探して、やっとたどり着いた。自分に付き纏う女が全てを仕組んだことだと。女は愛した男に拒絶された。男は自ら命を絶った。残された女は狂った。狂って狂って狂って、一人の男に頼んだ。
「やり直させて。私にできることならなんでもするから! あの人と絶対に結ばれたいの!!」
「ふーん、いいけどさ。戻っても結ばれないかもしれないよ?」
「それでもいい! 何度だってやり直せばいいんだから!!」
「うわー、欲深いね。怖っ!!」
「早くして!」
「はいはい、じゃあうまくいくといいね!」
女は消えた。残った男は――。
「何度やり直したところで、結ばれないんだっていい加減気づけばいいのに。あー、馬鹿な子。そうだっ! 今度は彼らに記憶を与えておこうかな。そうすれば、違う結果が見られるかもしれないし。うん、そうしようそうしよう」
女の言い様に転がる姿を見るのはもう飽きた。だから、別の未来を見てみてもいいかもしれない。それに、あの女は気づかずに破滅を歩いている。何度も何度も代償もなしにやり直せるわけがないだろう。もし愛した男と結ばれたとしても、それは一時のもの。次の日には誰もいない世界で一人。進みもしない、戻りもしない切り取られた時間の中で、永遠に過ごすのさ。寿命がくるまで、ね。
「俺、ちゃんと説明したから。悪くないからな!!」
誰もいないところで一人呟く男が一瞬にして姿を消した。
――あれ? 私は死んだはず。突き落とされて、地面に叩きつけられて。なのに、なんで、目を開いているの? もしかして、死後の世界? でも、隣に彼はいる。好きな人がいる。手を繋いでいる。
「ぼーっとしてどうしたの? 具合悪い?」
「う、ううん。悪くないよ。ちょっと寝ぼけてるのかもしれない」
「寝ぼけてるってもう夕方なのに」
くすくすと可笑しそうに笑う彼。そんな彼の姿を横目に、私はあれは夢だったのだろうかと思った。あの辛い日々も痛みも何もかもが夢だったのだろうか、と。
「ねぇ! 本当に大丈夫?」
「え?」
「泣いてる」
顔に触れてみた。ほんとだ。涙が流れている。次々と頬をつたってくるそれはなぜ流れているのか自分でもよくわからなかった。
「ちょっとどこかに入って落ち着こうか。大丈夫だよ。僕が君を守るから。……君を失わないためならなんだって……」
守るって言葉の後に何かを言っていた。けれど、私は聞き取れなかった。
「なんて言ったの?」
「なんでもないさ。ほら、このハンカチ使って。早く行こう」
渡されたハンカチで涙を拭う。優しい彼に誤魔化されたような気がした。その後、私は思い出す。地獄のような日々があったことを。
「もし今回も同じことが起こったら、彼に話してみよう。私たちの仲を切り裂くために、彼女が起こしたことだったのかもしれないから」
全ての真相に近づく日は訪れそうだ。
「さてさて、どうなるかな~。あの男とあの女が付き合うことになっても、あの男とあの子が罠に騙されずに結ばれても、どっちにしても面白い! さぁ、最後はどうやって終わるのかな? あははははっ! 物語はまだ始まったばかりさ」
一人の男は、幸せそうに手を繋いでいる二人もそれを遠くからじっと憎悪に濡れた瞳で眺めている女も、見えていた。
※ 一部残酷な描写が含まれています※
「終わったはずなのに戻っていた」
短編。フィクション。あくまでも物語。
エブリスタ様で公開していたのかもしれないが、現在は非公開となっている(2022/11/27が更新日。公開していたのかわからないため、一応記載することにした)。
【以下、本文】
二人は手を繋いで歩いていた。一人が手を離せば、もう一人の手は行き場を失う。繋ぐ先はなくなる。立ち止まる足。進んでいく足。道はすでに分たれていた。なぁ、置いていかないでくれ。そして、――はいなくなった。この世から。
ぎゅっと握った手は温かい。この人と一緒にいると安心する。心地よさを感じる。この人と共にいることができて良かった。これからもこの人の隣にいたい。そう思っていたのに、終わりは呆気なかった。
「ふふふふふ、あなたが彼の隣にいられるわけないでしょう? 人のものを取ったらダメって教わらなかったの?」
笑う女。目は冷たい。柔らかな声であるが、攻撃的な態度。その全てに恐ろしさがあった。掴みかかってきそうな勢いなのに、手を出してきそうな感じなのに、口で精神を揺さぶってくる。
「ねぇねぇ、返事がないけど聞いてるの? 私のものを取らないでよ。あの人は私のなの。あの優しい笑顔も柔らかな眼差しも大切な物を扱うように触るところもぜーんぶ私の、私だけの特別なのよ!! 勘違いしないでね。あなたは遊びなのよ」
突然、言われたことに驚きを隠せなかった。それよりも苦しさや悲しさがあった。私のことは遊びだったのか、と。きっと普段の私なら信じてなかった。他人の言葉よりも彼の言葉に耳を傾けていたと思う。でも、現実はそううまくいかない。もう苦しかった。辛かった。泣きたいのを我慢して、溢れてきそうな行き場のない感情に蓋をして、耐えていた。今、かろうじて繋がっていた糸がプツンっと切れた気がする。
「ああ、そうだったんだ。だから、あの手紙や写真の数々、その他諸々があったのね」
何ヶ月も前から送られていた手紙。私が何番目なのかを尋ねるもの。私が利用されているだけというもの。私が遊びで付き合ってもらっているというもの。恋人は他にいるんだから別れろというもの。私への悪口。私への嫌がらせ。呼び出しをされて、身体的なものになったこともある。彼の隣に映る綺麗な女の人。それも、たくさん写真があって次々に見ると違う人だった。他にもあることにはあったが、今回は彼の本気のお付き合いをしている人との会話である。自信満々に歪んだ笑みを浮かべて、人に現実を見せる女。もう何もかもが無理だった。疲弊していた。精神状態が不安定だった。繋ぎ止めている理性は崩壊していた。だから、――。
「お前は捨てられたのよ。だから、あなたはあの人には会えない。会ってもらえない。興味なんてこれっぽっちもないから見向きもされない。ほんと残念だったわね。でも、幸せな夢を見れたんだから満足しなさいよ?」
ドンっと押した女。押された私は地面に尻餅をついた。涙は流れなかった。ここ一ヶ月会えなかったのはそういうことか。全てを察した。私ではなく、他の人が本命だったんだとわかった。ああ、なんて残酷なんだろう。私はこれからどうすればいいの? そんなことを思って呆然としていた。だから、……だから、女がしようとしていたことに気づくことはなかったんだ。
「はい、これ」
「……うぐっ」
口の中に何か小さな粒を入れられた。口は抑えられていたが、何とか飲み込まないようにした。けれど、抵抗は虚しく、鼻まで塞がれたことで私はそれを飲んでしまった。
「……うっ、ゲホッゲホッ!! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「きったない咳してんじゃないわよ。じゃ、行くわよ。あんたはこれから高い所に行って、足元を滑らせて落ちる。心身喪失だったあんたは追い詰められた末に死ぬことを選んだって流れよ。……じゃ、そういうことだからあとはよろしくね!」
「おー、怖っ!」
突然豹変した女。誰かに頼みをすると、さっさと歩いていった。彼女と入れ替わるように現れた男。
「あー、かわいそっ! でも、可哀想な子っていいよね。泣く姿を見てみたい。もっとボロボロにしてあげたかった。あーあ、残念だな~。だって君、あの女を敵に回したんだ。あいつ敵に容赦しねぇんだよ。徹底的に潰す。欲しいものがあったのなら尚更な。まっ! 残念だったってことで」
私はまだ現実を受け入れられず、頭が回っていない状態だ。この男が何を言っているのかもいまいちわかっていない。わかっているのは、逃げなかったら私が死ぬということだけ。でも、――。
「もういいや。どうせ逃げられないんだろうし、彼も私の隣にはいてくれない。だったらもうどうなってもいっか!」
から笑いをした。
「はっ? あんたまだ何にもわかってないの?」
「べつにわかる必要なんてないでしょ。わたしはどうせ殺されるんだから」
「そうかよ」
ぐらんっと視界が揺れた。
「あ、れ?」
自分の体に力を入れることができず、思わず手をついてしまった。気持ち悪い。何が起こっているの?
「じゃあ、おやすみ」
何かに鼻と口を覆われ、私の意識は落ちた。
「さてさて、めんどくさい仕事の時間だー! あの女が全て仕組んだこととは知らずに偽物の写真を信じてるんだから、ほんと可哀想なやつ。まっ、優しいから最期に教えてやるか」
眠っている女は運ばれていく。人気がなく、見つかりにくい場所へ。人が落ちてもおかしくないところへ。運ばれる。
「おいっ! 起きろっ!!」
体に衝撃を感じ、パッと瞼を開いた。忙しなく視線を動かす。私はいかにも古そうな建物で、今にも壊れてしまいそうな柵の前にいた。
「靴は脱がせて揃えてある。あとはあんたが柵の前に立つだけだ」
「……」
「と言っても体に力入んないだろうから、最後まで俺がやるんだけどな! あ、そうそう。いいこと教えてやるよ」
男によって、私の手は柵を握っていた。下を見ると遠くに地面が見える。あ、私はここで……。
「お前さ、あの女にいいように踊らされていたんだよ!」
「えっ……?」
背に走る衝撃。浮かび上がる体。いや、落ちていく体。地面がどんどん近づいてきて、わたしは――。もう、何がなんだかわからないよ。あの女が全て仕組んだことだったの? こんやくしゃって話は嘘……? 全身に走った痛みは一瞬だった。
「あーあ、さようなら。でも、面白そうだから、もう一回試してみようかな? あの女とあの男は付き合うことなんてできないだろうし。しかも、全部あいつがやったことだって知って、憎むようになるし。あっ、あの女とあの男がどうなるかを見て、落ちちゃった子を戻してみよう。あー、楽しみ!」
愛し愛していた男女が一人の女の手によって引き裂かれた。男は女の死を知り、隠されていた手紙や写真の数々を見る。「こんな物が……」と驚きを、「誰がこんな物を……」と怒りに震えた。男は愛した人を傷つけ、奪ったことを許せなかった。だから、探した。探して探して、やっとたどり着いた。自分に付き纏う女が全てを仕組んだことだと。女は愛した男に拒絶された。男は自ら命を絶った。残された女は狂った。狂って狂って狂って、一人の男に頼んだ。
「やり直させて。私にできることならなんでもするから! あの人と絶対に結ばれたいの!!」
「ふーん、いいけどさ。戻っても結ばれないかもしれないよ?」
「それでもいい! 何度だってやり直せばいいんだから!!」
「うわー、欲深いね。怖っ!!」
「早くして!」
「はいはい、じゃあうまくいくといいね!」
女は消えた。残った男は――。
「何度やり直したところで、結ばれないんだっていい加減気づけばいいのに。あー、馬鹿な子。そうだっ! 今度は彼らに記憶を与えておこうかな。そうすれば、違う結果が見られるかもしれないし。うん、そうしようそうしよう」
女の言い様に転がる姿を見るのはもう飽きた。だから、別の未来を見てみてもいいかもしれない。それに、あの女は気づかずに破滅を歩いている。何度も何度も代償もなしにやり直せるわけがないだろう。もし愛した男と結ばれたとしても、それは一時のもの。次の日には誰もいない世界で一人。進みもしない、戻りもしない切り取られた時間の中で、永遠に過ごすのさ。寿命がくるまで、ね。
「俺、ちゃんと説明したから。悪くないからな!!」
誰もいないところで一人呟く男が一瞬にして姿を消した。
――あれ? 私は死んだはず。突き落とされて、地面に叩きつけられて。なのに、なんで、目を開いているの? もしかして、死後の世界? でも、隣に彼はいる。好きな人がいる。手を繋いでいる。
「ぼーっとしてどうしたの? 具合悪い?」
「う、ううん。悪くないよ。ちょっと寝ぼけてるのかもしれない」
「寝ぼけてるってもう夕方なのに」
くすくすと可笑しそうに笑う彼。そんな彼の姿を横目に、私はあれは夢だったのだろうかと思った。あの辛い日々も痛みも何もかもが夢だったのだろうか、と。
「ねぇ! 本当に大丈夫?」
「え?」
「泣いてる」
顔に触れてみた。ほんとだ。涙が流れている。次々と頬をつたってくるそれはなぜ流れているのか自分でもよくわからなかった。
「ちょっとどこかに入って落ち着こうか。大丈夫だよ。僕が君を守るから。……君を失わないためならなんだって……」
守るって言葉の後に何かを言っていた。けれど、私は聞き取れなかった。
「なんて言ったの?」
「なんでもないさ。ほら、このハンカチ使って。早く行こう」
渡されたハンカチで涙を拭う。優しい彼に誤魔化されたような気がした。その後、私は思い出す。地獄のような日々があったことを。
「もし今回も同じことが起こったら、彼に話してみよう。私たちの仲を切り裂くために、彼女が起こしたことだったのかもしれないから」
全ての真相に近づく日は訪れそうだ。
「さてさて、どうなるかな~。あの男とあの女が付き合うことになっても、あの男とあの子が罠に騙されずに結ばれても、どっちにしても面白い! さぁ、最後はどうやって終わるのかな? あははははっ! 物語はまだ始まったばかりさ」
一人の男は、幸せそうに手を繋いでいる二人もそれを遠くからじっと憎悪に濡れた瞳で眺めている女も、見えていた。
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