猫は恋したので、カフェに行く(仮)

月詠世理

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脳内シュミレーションは……(2話)

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 店内で響いただろう私の声。きっと彼を困惑させてしまっているだろう。勢いあまって変なことを言ってしまったし。言いたいことではあったけれど、これで本題が伝わるわけがないだろう。恥ずかしい。あれだけ脳内でシュミレーションしたのに、なんで思った通りにできないのか。現実と理想は違うということか。

 穴があったら埋まりたい。穴がなくても穴を掘って埋まりたいくらいだ。じわっと涙が出てきそうになるのを堪えた。再チャレンジだ。プルプルと震えた体。逃亡したいのを抑えて、口を開く。

「す、すみません。このカフェのスタッフになりたいんです。ここの責任者である先生にお会いしたいのですが、可能でしょうか?」

 不安がじんわりと広がる。あらかじめ伝えているわけでもない。これでは会わせてもらえる可能性は低い。そもそも勢いで来てしまったことが問題だろう。考えなしに動いてしまうのは悪い癖だ。気をつけようと思っていても、実際はダメだったということが多い。悲しくなってきた。返事も聞かずにここで帰りたいと思いながらもこれ以上失礼なことをしたくないという気持ちもあり、じっと我慢してその場で待つ。心臓がドクドクと音を立てている。

 ふと、頭上から落ち着いた声が聞こえてきた。

「なるほど。あんまり人が見ないと思われる掲示板にある紙を見てきてくれたのかな? 先生を呼んでくるから空いてる席に座ってて」

 掲示板があるなんて知らなかったし、見てもいない。ただ、それがあって良かったと思った。門前払いされずに済んだし。

「あっ! 先生から合格をもらえたら君の先輩になれると思うよ」

 裏へ行く前に、振り向いた彼。優しい言葉は心地よく、柔らかな笑顔が目に焼き付いた。不意打ちすぎだ。私のテンパった発言をフォローしてくれるなんて。もう変な目で見られなくて良かった。安心と同時に顔が熱くなる。素敵だ。私が一目惚れした人が優しい。

 あいつだったら気遣いなくズバズバ言うんだろうな。私はボーッとしながら、近くの空いている席に座った。立ったり座ったりウロウロしたりして気持ちを落ち着けたいところだが、我慢。そんなことしたら、本当に変な人になるもの。

***

 机とパソコン、座り心地の良さそうな椅子、ロッカー等が置かれている。その他にも折りたたみの机や折りたたみの椅子が用意されていた。この部屋はカフェのスタッフルームだ。いろいろな物が置かれていて狭く感じるところもあるだろう。

 この部屋の主というべきか、それともカフェの責任者というべきか。悩んでばかりもいられない。あたしは椿雪つばきゆき。この学園の教師だ。皆、好き勝手呼んでいるが、先生という呼ばれ方が慣れているので、そう呼んでもらっている。前任者に委任されてこのカフェの責任者になった。学生が主体となって活動しているため、あたしがやることはほとんどない。ただ、面白いことないかなと毎日スタッフルームにこもってはいる。ここで仕事もしようと思えばできるし、不便さはない。あと、他の先生に会うこともないので、楽だ。パソコンを占有できることも良い点だよ。

 本日、あたしはスタッフルームにこもってだらだらしていた。試作品のケーキと使用期限の切れた余ったアイスティーをコップに入れている。そのため、飲食物は確保済み。間違えて売り物を飲んだり食べたりしたことがあってから確認してあたしの分としている。とても怒られて何十枚もの反省文を書かされた経験もあり、慎重にはなった。たまに、売り物に手を出してしまって、罰として面倒事を任されることもあるけどね。

 寝不足ゆえの確認不足がなかなか直らないのだ。美味しそうなものがあったら、理性なんて吹っ飛ぶよね。諦め肝心。これで、何度かやらかしてはいる。まあ、この話は空の彼方へと投げておこう。あたしはあたしがやりたいようにやるだけだ。
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