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遅刻に先生のお話(29話)

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「かえでちゃん、好きだよ」

 この一言で舞い上がってしまう。やっと私の想いが叶うのだ。早く返事しないと。そう思った時、相手は遠くへと行ってしまう。小さな声は聞こえてくるが、追いかけても追いかけても開いた差は埋まらなかった。

「先輩! お、奥村くん!! 私も好きです!! 待ってください!!」

 走りながら叫んだ。その声が聞こえたのだろう。ピタリと動きを止めた先輩。素敵な笑顔を浮かべて。

「かえでちゃん、嫌いだよ」

 冷ややかな視線に息が詰まった。数歩足を進め、止まる。信じたくない言葉だった。声を出そうとするが、パクパクと口が動くだけで。

「……で。……よ。……きて」

 どこか遠くから私を呼ぶ声がする。ガラガラと世界は崩れて、下へ下へと落ちていく。

「キャーーーー!!!!」

 バッと飛び起きた。私は寮の部屋のベッドにいた。

「告白されて嬉しいって喜んでたら、嫌われて落ち込んで世界が崩壊するってどんな夢よ」

 ぼんやりとしていると、同じ部屋にいる舞凛ちゃんが。

「急に悲鳴あげないでよ。ビックリした」
「ご、ごめん」
「こんなことならベッドから落とせば良かった。うなされてたしさ」
「それは嫌だなー。落とされてなくて良かった」
「やられる側は痛いからね。で、そろそろ準備しないと遅刻するよ。朝食はパンを取ってくくらいしかできないね」

 ほっとするも束の間。衝撃を受けた。時計を見る。準備し終えて教室に向かう時間だった。

「早く準備しないと!」

 ドタンッ、と音がした。落とされなくてもベッドから落ちた。痛みはするが、それよりも急がないといけない。慌ただしく動いているからか、いろんな音がしている気がする。とりあえず、鞄に教科書など必要なものを詰め込んだ。

「先行ってるから」
「もうちょっと早く起こしてよぉ~」
「優しく起こしてあげたでしょ。前日に頼まれてたわけでもないし、自分でできることは自分でやりなさい」
「寝坊するかなんてわかるわけないって!!」
「じゃあね」

 舞凛ちゃんは先に行ってしまった。いつもなら一緒に行くのに。さっさと着替えて、私も部屋を出た。途中まで走って鞄忘れたことに気づいてまた部屋に戻ったけど。寮の食堂に寄り、残っていたパンを口に咥えた。

「いっふきまふ」
「またかい。はいはい、気をつけてね」

 寮のことを任されているおばさんに挨拶して、もう一つのパンを片手に持って走る。寮を出て、急ぎ教室へ向かった。

***

 廊下を走っている。チャイムが鳴る。教室はもうすぐだ。間に合え、と思いながら、扉を開けた。視線が一斉にこちらへ向く。

「猫宮さん、早く席に着くように。あと、口に咥えてるものを食べること」

 恥ずかしい。そそくさと席に着いた。口をモグモグと動かして、パンを詰め込む。クスクスと面白そうに笑っている人がいるので、さらに羞恥心が湧き上がった。先生がまだ来てないことを願ってはいたけど、こんなことならホームルームをサボれば良かった。勢いよく扉開けるべきじゃなかったな。

「先生、今日は早く来れたので。残念でしたね」

 ニヤリと楽しげに笑う先生に対して、今日こそ遅くて良かったのに、と思った。

「では、実技授業についてです。学年で四人組を作っていただき、学園の生徒専用のサイトからメンバーを登録してください」

 登録後の変更は認められていないため、しっかり考えてから登録するように言われた。大事な話をしているのはわかっているのだが、水分取ってないから口が渇いて飲み物が欲しくなった。パンは食べられたんだけどね。我慢するしかない。水欲しい。そう思いながら、先生の話に耳を傾けた。
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