解雇された戦闘員 〜連れ戻そうとしてももう遅い。悠々自適に生きさせてもらいます〜

彼方こなた

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三章 天才と凡才

先の見えない

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「おーっ、夏海。帰ってたのか」

 魔王城の廊下にて。適当に散策していると、紫色の髪が目に入る。
 反射的に声をかけると、面倒くさそうにこちらに顔を向けてきた。

「さっきな」

ぶっきらぼうにそう言い放つ夏海。
 この態度はいつものことなので、苦笑いして話を続ける。

「そいや聞いたぞ、大活躍だったらしいな。さすが名軍師」
「なんだそのダサい呼び名は。っつーか、あんなん誰が言ってもどうにかなってただろ」
「言うねー」

 ケラケラと笑いながらそう返す。
 それから、二言三言話すと夏海はさっさとどこかへ行ってしまった。

「いやー、ホントすごいな」

 しみじみと、感慨深げにそう呟いてしまう。
 本当にすごい。彼女は誰でも出来るって言っていたが、少なくとも俺には出来ない。

「頑張らないとな……」

 そんな言葉が、知らず知らずに零れ落ちていた。
 自分以外の幹部には、特出した何かがある。しかし、自分にはそれがない。
 魔王軍幹部という肩書きがあるだけの、ただの人間。
 だからひたすらに、頑張らないといけないという義務感や、置いていかれるという焦燥感だけが積もっていく。

「……本当に、すごい」

 あとどれだけ頑張れば、彼ら彼女らに追いつくのだろうか。あとどれだけ苦しめば、ここから逃げ出せるのだろうか。

 誰もいない魔王城の廊下は、不気味な程に静まり返っていた。
 俺は薄暗い廊下を、先の見えない廊下を歩き始めた。

 ☆ ☆ ☆

「本当にすごいな……」
「『アークランス』、『アークランス』、『アークランス』っ!!」

 全然違う場所に攻撃を続けるミシェルを見て、改めてナツミさんの凄さを実感する。

「まあな。だだ、これ使ったら頭使うのに意識が向いて、あんま動けないのがネックなんだよな」

 『視覚奪取』。それは、名の通り相手の視界を相手から奪う能力。そして、『シャッフル』は奪った相手同士の感覚をランダムに付与していく能力。
 これを使うことで視界を奪うだけでなく、遠近感覚を狂わせる。

「あとは、煮るなり焼くなり……ってやつか?」
「早くしろよ。そうやって焦らすのは、覚醒や援軍のフラグだって昔から決まってんだよ」

 その言葉がきっかけという訳ではないだろうが、さっきまで、半狂乱気味に魔法を連発していたミシェルの動きがピタリと止まった。

「さすがは元幹部と、クビになった腹いせに国の一部を爆破した頭のおかしい人は違いますね」
「お前、防衛塔爆破するんなら魔王城にしろよ」
「いや、無実だっての。あと、誰が頭のおかしい人だ」

 しかもそれで、さすがはってどうなんだ。褒めてんのか、褒めてないのか分からん。
 うーむと頭を悩ませていると、唐突にミシェルがこちらに向けて軽く頭を下げてきた。

「所詮は過去の人と侮り、油断していたことを謝罪します。そして、ここからは本気でいかせて貰いますよ!!」

 その言葉を聞いて、嫌な予感を感じた。ばっと半ば反射的にミシェルの下へと走り出していた。しかし、それより早くミシェルが青く発光してしまった。

「『属性変化』」

 プシューと音を立ててミシェルの体から盛れだした水蒸気が、辺りを覆う。

「クソが、前が見えねぇ……!」
「真人! 一旦下がれ!!」

 ナツミさんの叫び声が聞こえてきて、大きく飛び退いた。
 水蒸気が段々薄くなっていき、ミシェルの姿が顕になる。

「……スライム?」

 ミシェルが立っていた場所にいるのは、水色のぶよぶよとした水の塊があった。

「まあ、あの姿は水の魔人と呼ばれているものだ。他にも精霊の本体とも呼ばれてるな」

 スライムにしか見えないんですがそれは……。
 ただ、どんな姿だろうがやることは一つ。さっさと倒そうと意気込み、やつの下へ行こうとすると、ナツミさんの声が聞こえてきた。それも頭の中から。

『聞こえるか』

 チラと後ろを振り返ると、瞑目するナツミさんの姿が。

『聞こえている前提で話を進めるが、やつには打撃系の攻撃は聞かない』

 まあ、まんま水だもんな。

『あと斬撃、刺突系の攻撃もないことはないが効果は薄い』

 まじかよ……。俺勝ち目なくないか、それ。

『倒すには火力の高い魔法で一撃というクソゲーだが、お前には他にも方法がある』

 その話の途中に、ミシェルらしきスライムが動き出した。
 体の一部を触手のようにし、伸ばして攻撃してくる。見た目に反して素早い攻撃を、なんとか捌きながら脳内に話しかけてくる声に意識を向ける。

『あの状態はいわば魔力だ。本体は魔力密度が高くてお前の霧散とかいう技は使えないが、攻撃をする時の部位は魔力密度が薄い』

 つまりは、それを片っ端から大気中の魔力に変えればいいってことか。

『しかし、そんなことちまちまやってたらお前の体力切れでゲームオーバー。そうじゃなくても、逃げられる可能性が高い』

 確かに……。 
 だったらどうするんだと、疑問を抱きながらなんとか攻撃を躱し続けていた。

『だから、本体をぶっ叩け』

 は……? この、どこから攻撃が来るかも分からないやつに近づいて、ぶん殴れと言ったのかこいつ。
 無理そうな感じはするものの、ナツミさんが言うならば何かしら勝算はあるのだろう。

『いいか、それを実行するにはあることが出来ないとならない』

 なんかもったいぶっているが、そこそこキツイので早く言って欲しい。

『お前のスキルはどれも派生ばかりで本当の使い方ではない。あれの本当の使い方は、補強だ』

 補強……?
 迫り来る触手を、霧散させる。

『ようは魔力を纏うってことだ。体全体をコーティングしたり、傷を塞いだり、そんな使い方が本来のスキルだ』

 言われてみれば、『霧散』も『螺旋』も魔力を弾いたり掴んだりで纏ったようなことはしていない。
 だが、こんな土壇場でそんなこと言われて上手く実行に移すことが出来るだろうか。

『大丈夫だ、お前はそれを使った覚えがある。だから出来ないはずがない』

 そんなことを言われても……というか、思考を読むな。
 ただ、今出来るのはそれぐらいなのならやるしか選択肢はないのだが。

「魔力を纏うって……」

 大気中の意識を向け、手繰り寄せるように指を動かす。だが、魔力はこちらに流れては来るものの纏うようにはならない。

「ちぃ……!」

 苦し紛れに触手を一本弾き飛ばして、距離をとる。

『そうじゃねぇ。寄せるんじゃなくて、包まれに行くんだよ』

 ……うん、分からん。というか、説明だけで土壇場で出来るわけないだろうが。

『文句垂れてないでさっさとやれ。それに、無理ゲーとかクソゲーほど、攻略した時の達成感はいいもんだ』

 やれと言われても……っ! というか、最後のは絶対関係なくはないですかねぇ!?
 伸びてくる触手を避けまくる。ナツミさんに意識が向けられなように、立ち位置や距離感を把握しながら。

「このままじゃ、ほんとにジリ貧……!」

 息を荒く吐き出しながら、そうぼやく。
 辺りの壁や床は元の原型を留めていなく、足場にするにも不安定。
 
「あっ……!」
 
 壁を蹴って高く飛ぼうとしてみたが、蹴った勢いで壁が崩れて上手く力が込められなかった。無防備になったその瞬間、ミシェルらしきスライムから伸びてきた触手が俺に襲いかかってきた。

「っ……!」

 俺は咄嗟に腕をクロスさせて、衝撃に備える。しかし、触手は俺から数メートルほど離れた場所にぶつかった。

『……しょっか……うば……ながく……もたな……』

 ノイズ混じりにナツミさんの声が聞こえてくる。おそらく、触覚を奪った、けど長くは持たないとでも言っているのだろう。
 バッと振り向くと、そこには顔を真っ赤にして額を押さえるナツミさんの姿があった。
 これ以上は持たない、そう直感した。
 急いで立ち上がると、床を蹴ってミシェルの真上へと飛び上がる。それに合わせ、少し遅れて触手が俺へと向かって伸びてくる。

 チャンスは一度。ナツミさんから言われた、勝てるための算段は上手くいく保証はない。
 けれど、あのナツミさんが出来ると言った。だから、たとえ無理だろうが信じるしかない。稀代の天才、ナツミではなく、東堂寺 夏海を。
 それに――。

「ゲームはクソゲーほど攻略しがいがあるってもんだ!!」

 なにかに導かれるように、腕を後ろに引く。
 不思議な感覚だ。まるで、体が、はたまた頭が動きを覚えているかのようだった。
 空気が拳に纒わり付くような感覚。だが、まだ振るわない。距離がある。
 徐々に落下していき、ミシェルとの距離をどんどん縮めていく。

 俺へと向かってくる職種を避けるために、大きく体を捻る。だが、完全には避けきれず腹部が抉られる。

「つあ……っ!」

 短く息を吐き出しながら、拳に力を貯める。
 続いて触手が伸びてくるが、それらも最低限の動きで回避する。
 体のいたるところから痛みを訴える信号が脳へと何度も送られてくるが、それらを全て無視する。そして、ついにあと少しで手が届く距離にて、拳を振るった。

「うおぉぉりゃああぁっ!!」

 本来なら手が届かず空振りするはずの距離感。だが、触れていないのにも関わらず、ミシェルのスライムボディはちょうど真ん中が潰されて、辺りに弾け飛んだ。

「今のは……」

 瞬間、背筋に嫌な汗が伝うのを感じとった。
 バッと振り向くと、荒い呼吸を繰り返すナツミさんの近くに、弾け飛んだ欠片が不自然により集まっていた。
 その欠片同士が寄り集まりきると、白く発光した。――自爆か!

「危ないっ!」
 
 俺は、考えるより先にナツミさんの下へと走り出していた。俺の声を聞いて、よろよろと動き出すナツミさん。だが、それでは間に合いそうにない。

「夏海ーーっ!!」
『お姉ちゃん――!』

 爆音が耳に届く間際、ナツミさんと似た声が聞こえたような気がした。
 大きな爆発が起こり、床やら壁やらの欠片が飛んでくる。だが、それらを無視してナツミさんの下へと急ぐ。
「ナツミさん!!」

 そこには、ナツミさんが無傷とはいわないまでも爆発を直にくらったにしては傷の少ない姿で倒れていた。

「大丈夫か!?」
「まあ……なんとか……」

 あははと力なく笑い、軽く手を振ってくる。
 その事にほっと安堵の息を漏らしつつ、さっき聞こえた声の主を探し辺りを見回した。

「あれは……」

 あの研究室で見かけた、クローンらしき残骸がナツミさんとは少し離れた位置にあった。

「……ねぇ、ちょっと聞きたいことあるんだけどさ……」
「……なんだ?」

 ナツミさんも、クローンの残骸らしきものをチラと一瞥すると、独り言のように話しかけてきた。

「……お前の……先の見えない旅……ついていってもいいか……?」

 ――と。
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