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三章 天才と凡才
花言葉
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ミルカンディアの外にて。
「はあ……はあ……!」
ミシェルは、体の一部を爆発させて二人の意識を逸らした時、水路に残った体の欠片を飛ばし、戦っている冒険者や騎士に見つからないように逃げ出していた。
「なんという屈辱! だが、生きてさえいれば何度でも立て直せる」
彼は、元は弱い精霊だった。
だが、長い年月を経て、また水の魔物を取り込んでやっと魔王軍三番隊隊長の位まで登り詰めた。
舐められないように、育ちのいいように見せるため丁寧な言葉遣いを意識している。だが、本質はまったく違う。
恥もプライドも時にはかなぐり捨てて生き延びる。それが、彼の生き方だった。
「今回の件で降格されるだろう。だが、私はきっと再び登り詰め……!」
「――なあにごちゃごちゃ話してんだよ」
気配もなくそこにいた男は、ミシェルの声を遮った。
「――っ!」
ばっと声のした場所から距離をとる。
ミシェルの視線の先にいるのは、胸元にバッチを付けた大柄の男だった。
「誰ですか……!?」
ミシェルがそう問いかけると、男はニヤァと悪どい笑みを浮かべた。
「勝手に人の領地に入ったんだ。そこの主ぐらい覚えとけよ」
ミシェルはゾワッと腕に鳥肌が立つのを感じた。底知れぬ実力。圧倒的差を、直感的に感じとったのだ。
ミルカンディアの領主の名は確か――。
「……アロガン」
ミシェルの声が、口から溢れ出た。
それを聞くと、何がおかしいのか男――アロガンはクックックと笑いだした。
「顔は知らなかったが名前は知ってたのか。ここに攻めてくるぐらいだから、どっちも知らねぇと思ってたぜ」
話す内容からして、ミシェルは自分が何者なのかについてアロガンは知っているのだと察する。それでなお、この態度。余裕なのか、虚勢なのか。おそらくは、前者だろう。
「くっ……! 『アークランス』!!」
不意打ちで、最大限の魔力を投入した魔法でアロガンを狙う。
その魔法は、もしかすると過去一番の威力を持っていたかもしれない。そうと思えるほどに、限界ギリギリまで絞り尽くした魔力で生成した水の槍は、大きく、鋭かった。
魔力の関係上、打てるのは一発のみ。だが、その威力は複数の槍を生成した時のそれとは大きく違う。
一本の水の槍が、アロガンへとものすごい勢いで飛んでいく。避けられれば終わり。だが、不意をついた今ならば避ける暇はないのではないかと考えたのだ。
果たして、アロガンは水の槍が近づいているのにも関わらず身動き一つしない。反応できていないのだと、ミシェルは勝利を確信した。
しかし――。
「フンッ!」
飛んできた水の槍を、アロガンは素手でぶん殴った。高濃度の魔力が含まれているはずの水の槍は、呆気なく霧散した。
攻撃を霧散させてくるのは、サトウとかいうやつのせいで見慣れてしまっている。だが、あの水の槍は高濃度の魔力が含まれている、つまりは高威力の攻撃。
おそらく、彼ではあのおかしな能力を使っても、霧散させるのは無理なはずのレベルの攻撃だったはず。それを何の能力も使わず、腕力、もとい身体能力だけで魔法を破壊したのだ。
「うそ……だろ……」
ミシェルは丁寧な口調も忘れて、呆然と呟く。
そんなミシェルを、感情を読み取ることが出来ない無機質な目で、アロガンは見ていた。
「精霊か……面倒だな」
そう呟くと、目だけで視線を横へ向け、すぐに元に戻すとミシェルに近づいていく。
「く、来るな……っ!」
ミシェルは魔力切れで、上手く体を動かすことが出来ない。ちょっとずつ後ろへ下がるが、それよりも早くアロガンが近づいてくる。そして、あと少しのところまで近づくと、アロガンは唐突に足を止めた。
「え……?」
小さな呟きを零すと同時に、ミシェルの上半身が吹き飛んだ。
アロガンは、ただ蹴りを繰り出しただけ。それだけで、ミシェルの上半身が吹き飛んだのだ。
「あらら。蹴りで一撃とは……やるね、人類最強」
物陰から出てきてこちらに歩み寄ってくる存在に、アロガンはギロリと視線をやった。
「うるせぇな」
そう言い切ると、一瞬でその人物との距離を詰め、蹴りを繰り出す。そして、ミシェル同様に女の上半身が吹き飛ぶ。
「会って早々殺しにかかるとは、カルシウムが足りてないんじゃないか?」
「ちっ!」
アロガンは別の物陰から、さっき蹴り殺した女と同じ風貌の赤毛の女が現れたのを見て、苛立たしげに舌打ちをする。
「で、なんの真似だ。うちを攻めてくるなんてよ」
「さあ? 上が考えることは下のものには分からないものだよ」
「ふざけてんのか」
白々しく嘯くシオに、アロガンは睨み殺さんばかりの視線を向ける。
「まあ、今回に限っていえば、邪魔な存在の処理だろうね」
「邪魔な存在って……さっきのやつか」
「まあね。彼だけじゃなく、わたし以外の隊長全員が対象だけれどね」
素直にベラベラと喋る彼女への視線を、多少緩める。
「なんでまた」
「和平の邪魔になるからね。前魔王の意思に多少なりとも影響を受けてるやつは」
「……だから、無理だと分かって儂のところに送り込んできた、と」
「そうそう。君を始末出来たら儲けもの、出来なくて殺されても予定通りってね。……それはそうと、その話し方かつ君の一人称が儂なの、笑える」
「殺すぞ」
おかしそうに笑うシオ。
「現魔王は何を考えてやがる」
「さあ? 和平がどうとかって話は聞くけど、本心は知らない」
「和平ねぇ……。胡散臭いな」
アロガンが吐き捨てるように言うと、「同感だよ」とシオが同調してくる。
「それで、てめぇはなんの用で来た」
「ミシェル君がちゃんと死んだかの確認を、ね」
「それは建前だろうが。本当の目的はなんだ」
問い詰めるように言うと、参った参ったとシオは両手を上げた。
「ほんとに感がいいんだから。……ミルカンディアの領主であるアロガンに、頼みがある」
真剣な面持ちでそう口を開いた彼女に、はっとアロガンは嗤った。
「どうせあの愚図どもの保護……とかだろ?」
しかし、シオはいいやと首を横に振って否定する。
「ハズレ。……そういえば、その胸元のピンバッチ、いいね」
「……突然なんだ」
訝しげな視線をシオへ向けるが、それを無視して彼女は話を続ける。
「ゼラニウムか。確かその花言葉は『信頼』だったかな。それが何色なのか、英語なのかどうかで意味が変わるけど」
「……何が言いたい」
じろりと睨みつけ、続きを促す。すると、シオはニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「伝わらない愛情表現だなんて、素晴らしいよ。そんな素晴らしい愛情を持つアロガン君にとっては、即答で拒否するような頼みかもしれないが、聞いてくれるかい?」
「……いいから要件を話せ」
苛立たしげに先を促すアロガンを見て、シオの黄色い瞳が妖しげに光るのだった。
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