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三章 天才と凡才
目が覚めた日の一幕
しおりを挟む「見覚えのある天井だ」
目を開けると、ここ何日か毎朝眺めている木目の天井が目に入る。
体を起こすと、体のあちらこちらから痛みを感じて顔を歪ませてしまう。
「痛っ……」
「あんま無理に体動かすんじゃねぇよ」
横から声が聞こえて、ゆっくりとそちらに顔を向ける。そこには、アンさんが椅子に腰かけていた。
「……なんだよ、お前かよ」
はあーっとこれ見よがしにため息を吐く。
そこは美少女が看病してくれてるとこなんじゃねえの。知らんけど。
「なんだってなんだ。こちとら、お前のためにわざわざ――」
「来てくれてどーも。それより、レイとセシルは無事か?」
アンさんの言葉を遮ると、部屋中を探しながらそう尋ねる。
「危ないところはあったが、一応全員無事に生還した。ついさっきあんたの看病を交代したとこ。まあ、少ししたら来るだろ」
「なるほど……。ハズレを引いたわけか」
「おいこら、看病してくれてる人になんつー言い草だよ」
アンさんには悪いと思うが、野郎と美少女、どちらがいいと聞かれたら……ねえ。
「取り敢えずお疲れ様。報酬は全部レイさんに渡しといたが、大丈夫だったか?」
「ああ、問題ない」
酒飲むかぐらいにしか使わないからな……。趣味とか作るべきなんだろうか……。
うーむと悩んでいると、そうそうと呟きながら、何かをこちらに投げつけてきた。それを片手で受け取りつつ、なんだこれと視線をやる。
「領主様と面会できることになった。それはその時の証明書みたいなもの」
「あー……」
真っ赤なバッチを眺めながら、適当に相槌を打つ。
客用は普通のバッチで、身内には花の模様があるバッチ的な感じで分かれてるのか。
「それで、なんか話せたのか? まあ、その様子じゃあ話す余裕なんてなかったようだが」
「あー、まあな」
あの日あった出来事を、簡単にアンさんへ説明する。
「……つまり、最後聞いた声ってのはその、くろーん? ってやつの声だったのか」
「ナツミさんが言うには、そうらしい」
彼女いわく、クローンを生成するにあたって使用した媒体の中に記憶の残留があったとかなんとか。
まあ、ナツミさんもその仮説が当たってる確証はないと保険をかけてはいたので、その時ぱっと思い浮かんだ説を言ってみただけなのかもしれないが。
「んで、お目当ての話は聞けたのか?」
「お目当てのって……ああ」
なんの事かと思ったが、直ぐに思い至る。
そういえば、元々の目的はそれだった。
「いや、まだ聞けてない」
ミシェルを倒してから少しの間意識を保っていたが、いつの間にか記憶が途切れている。もしかすると朦朧とする意識の中で聞くことが出来たのかもしれないが、覚えていないのなら聞いていないのと同じだ。
「それらを含めて、今度聞いてみることにする」
「まあ、その前に領主様との面会があるんだけどな」
あの怖いおっさん話通じるかしら……。と、突然斬りかかってきても対応できるよう、警戒はしておこうと心に決める。
「あっ、そういえば――」
「ただいまー」
俺の声を遮って、扉の方から声が聞こえてきた。
体感では数時間あってないだけなのに、何故か懐かしく感じてしまう二人の顔。
「ありゃりゃ。またサトウさんが復活する時に立ち会えなかったみたいですね」
あはははーっと笑いつつ、頭を搔くレイ。その後ろから、セシルがこちらを覗き込むようにして見てくる。
「うん、とりあえず無事そうで安心したよ。勝手に死なれたら困るからね」
「字面だけ見れば普通に喜べる言葉なんだけどなぁ……」
普段俺を殺そうとさえしなければなぁ……。もしくは背中に小刀を隠し持ってなかったらなぁ……。
と、乾いた笑みを浮かべていると、アンさんがギョッと驚いたようにセシルを見ていた。
「ん? アンさん、どうした?」
怪訝な目でアンさんを見やると、その視線に気づいたアンさんは慌てて手を横に振りだした。
「あ、や、なんか、セシルさん、あれ見たあとだと違和感がすご――」
「アンなんとかさんは何を言ってるんだい? ちょっと聞かせてもらおうか、あっちで」
「え、ちょっ、待って……!」
ずるずると首の襟を掴まれて引っ張られていくアンなんとかさん。
二人が部屋から退出していった直後、アンさんの悲鳴が聞こえてきたことからしばらくの間はあちらへ行くのはやめておいたほうがよさそうだ。
「そういえば、なんの話ししてたんです?」
レイはさっきまでアンさんが腰かけていた椅子に座ると、そう尋ねてきた。
「あの日あったこととか、領主との面会とかについて話してた。……そうそう、お前ら大丈夫だったか? 危ないところもあったとか言ってたが……」
アンさんが言っていた言葉を思い出し、そう尋ねる。レイたちが入ってくるまでアンさんにその事を聞こうと思っていたのだが、いい機会なのでレイに聞くことにする。
アンさんは五体満足なのかどうか怪しいし、最近レイと二人で話す機会もなかったような気がする。
「まあ、三本の腕で襲われる経験なんてないですし、普通に強かったですしねぇ……」
「お、お疲れ様……」
そんな相手を任せた手前、どう返すべきか悩んで無難な言葉を選んでしまう。
「あー、でも、なんか突然動きがおかしくなったんですよ。錯乱というか、目が突然見えなくなった! 的に暴れだして」
「ほうほう……」
やっぱりナツミさんのスキルの範囲は都市全域だったか。常人なら二人か三人の視界を交換、共有するのが限界のスキルを敵味方の判別をして、敵全員を対象にするとか……やっぱ、ナツミさんやばいわ。うん、やばい。
語彙力が低下しきった脳で、そんなことをぼーっと考えていると、レイは顎に指をやり、うーんと思い出しながら話し出した。
「あとから聞いた話なんですけど、都市を襲ってきた魔物って異形の魔物が多かったらしいんですよ」
そこでふと、若干の違和感を覚えた。
異形の魔物といえばキメラだ。それは珍しいものの、それで部隊を構成していてもおかしくはない。構成できたとしても今回ので手打ちだろうが。
「……なあ、ちなみにその異形の魔物ってどんな感じだったのかわかるか?」
「えーとですね……、さっき言ったのと同じように三本の腕の魔物とか、三ツ目とか、逆に一本の腕しか持ってなかったり、一ッ目だったり」
突然変異個体。
キメラとは違い、後天的に異形の魔物となったのと違い、先天的に異形の魔物として生まれた存在。
話だけでは、正確には分からない。しかし、もし今回の襲撃を行った魔物が突然変異個体だったのなら、普通はあれだけの数を集められないはず。
今回の襲撃は、普段のそれとは何かが違うのではないか。そんな疑念が、俺の頭を過ぎるのだった。
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