24 / 27
エピローグⅡ 勇者/魔王
しおりを挟む
□ □
――勇者は往く。
玉座の眼前、勇者が脚を大きく踏み出す。
相対するは王――竜魔の王。
「こんばんは、勇者」
「こんばんは、魔王」
片方は段差をゆっくりと下りていく。
片方は迷いなく、歩き続ける。
魔王は、すん、と音を立てて、匂いを嗅いだ。
そして、露骨に嫌悪を滲ませた表情を浮かべる。
「……私以外と、交わったのですね」
「そりゃそうだろ。俺、あいつのほうが好きだから」
二人の距離は、縮まっていく。
「そもそも、彼女のどこが良いんですか? やっぱり胸ですよね? あなた、ずっと見てましたもんね」
「違うよ……瞳だよ、瞳。綺麗なんだ」
二人の間に残る距離は、ほんの一歩分だけとなった。
魔王が半歩、脚を踏み込み、勇者に身体を押しつけた。
そのまま、自らの瞳に指を差す。
「じゃあ、なんです? 私のこの瞳が駄目だって言うんですか!?」
「夜空みたいだ」
「夜空は、綺麗じゃないと?」
「今はもう、濁りきっているよ。……夜空みたいだと言ったのは、バルムンクだ」
「…………」
「後悔してるのか?」
「……これで、決裂なんですか?」
「ああ」
魔王は、かつての彼女のような表情を見せた。
下唇を噛み、自身の裾を、両手でぎゅっと掴んで。
それは、初めて出会った日、美味しい料理を口にした瞬間、一緒に踊った夜と、同じ表情だった。
だが――。
「後悔なんて……するもんですか!」
そう吠えた魔王が、後ろに跳躍し、尾で空を一閃した。
「だって、私が! 選んだ道ですから――!」
勇者は再び、歩き始める。
石壁が崩れ、半壊した城が揺れる。
両断された空間は鋭利な斬撃となり、勇者の衣服を切り裂く。
だが、彼の歩みは止まらない。
勇者が持つ双剣、その剣身に沿うように、炎が走る。
炎が螺旋状に回転するように、燃え盛る。
「『――――』」
放った言葉と同時に、彼の生命は燃やされる。
その生命の輝きは。
『命の煌めき』と呼ぶのに、ふさわしいものだった。
魔力器官のない彼が、生命を燃やしたのだ。
最期に一瞬だけ燃え上がる、蝋燭のように。
片方に握られた、魔剣が微かに震えた。
「なあ、バルムンク――俺も戦うよ。責任は……果たさなきゃ」
――彼を送り出した女は、煤の教会で静かに涙を流す。
勇魔を決する闘いが――始まった。
――勇者は往く。
玉座の眼前、勇者が脚を大きく踏み出す。
相対するは王――竜魔の王。
「こんばんは、勇者」
「こんばんは、魔王」
片方は段差をゆっくりと下りていく。
片方は迷いなく、歩き続ける。
魔王は、すん、と音を立てて、匂いを嗅いだ。
そして、露骨に嫌悪を滲ませた表情を浮かべる。
「……私以外と、交わったのですね」
「そりゃそうだろ。俺、あいつのほうが好きだから」
二人の距離は、縮まっていく。
「そもそも、彼女のどこが良いんですか? やっぱり胸ですよね? あなた、ずっと見てましたもんね」
「違うよ……瞳だよ、瞳。綺麗なんだ」
二人の間に残る距離は、ほんの一歩分だけとなった。
魔王が半歩、脚を踏み込み、勇者に身体を押しつけた。
そのまま、自らの瞳に指を差す。
「じゃあ、なんです? 私のこの瞳が駄目だって言うんですか!?」
「夜空みたいだ」
「夜空は、綺麗じゃないと?」
「今はもう、濁りきっているよ。……夜空みたいだと言ったのは、バルムンクだ」
「…………」
「後悔してるのか?」
「……これで、決裂なんですか?」
「ああ」
魔王は、かつての彼女のような表情を見せた。
下唇を噛み、自身の裾を、両手でぎゅっと掴んで。
それは、初めて出会った日、美味しい料理を口にした瞬間、一緒に踊った夜と、同じ表情だった。
だが――。
「後悔なんて……するもんですか!」
そう吠えた魔王が、後ろに跳躍し、尾で空を一閃した。
「だって、私が! 選んだ道ですから――!」
勇者は再び、歩き始める。
石壁が崩れ、半壊した城が揺れる。
両断された空間は鋭利な斬撃となり、勇者の衣服を切り裂く。
だが、彼の歩みは止まらない。
勇者が持つ双剣、その剣身に沿うように、炎が走る。
炎が螺旋状に回転するように、燃え盛る。
「『――――』」
放った言葉と同時に、彼の生命は燃やされる。
その生命の輝きは。
『命の煌めき』と呼ぶのに、ふさわしいものだった。
魔力器官のない彼が、生命を燃やしたのだ。
最期に一瞬だけ燃え上がる、蝋燭のように。
片方に握られた、魔剣が微かに震えた。
「なあ、バルムンク――俺も戦うよ。責任は……果たさなきゃ」
――彼を送り出した女は、煤の教会で静かに涙を流す。
勇魔を決する闘いが――始まった。
0
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる