【二度目の異世界、三度目の勇者】魔王となった彼女を討つために

南風

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エピローグⅡ 勇者/魔王

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□ □
 ――勇者は往く。

 玉座の眼前、勇者が脚を大きく踏み出す。
 相対するは王――竜魔の王。

「こんばんは、勇者」
「こんばんは、魔王」

 片方は段差をゆっくりと下りていく。
 片方は迷いなく、歩き続ける。

 魔王は、すん、と音を立てて、匂いを嗅いだ。
 そして、露骨に嫌悪を滲ませた表情を浮かべる。

「……私以外と、交わったのですね」
「そりゃそうだろ。俺、あいつのほうが好きだから」

 二人の距離は、縮まっていく。

「そもそも、彼女のどこが良いんですか? やっぱり胸ですよね? あなた、ずっと見てましたもんね」
「違うよ……瞳だよ、瞳。綺麗なんだ」

 二人の間に残る距離は、ほんの一歩分だけとなった。
 魔王が半歩、脚を踏み込み、勇者に身体を押しつけた。
 そのまま、自らの瞳に指を差す。

「じゃあ、なんです? 私のこの瞳が駄目だって言うんですか!?」
「夜空みたいだ」
「夜空は、綺麗じゃないと?」
「今はもう、濁りきっているよ。……夜空みたいだと言ったのは、バルムンクだ」
「…………」
「後悔してるのか?」
「……これで、決裂なんですか?」
「ああ」

 魔王は、かつての彼女のような表情を見せた。
 下唇を噛み、自身の裾を、両手でぎゅっと掴んで。
 それは、初めて出会った日、美味しい料理を口にした瞬間、一緒に踊った夜と、同じ表情だった。
 だが――。

「後悔なんて……するもんですか!」

 そう吠えた魔王が、後ろに跳躍し、尾で空を一閃した。

「だって、私が! 選んだ道ですから――!」

 勇者は再び、歩き始める。

 石壁が崩れ、半壊した城が揺れる。
 両断された空間は鋭利な斬撃となり、勇者の衣服を切り裂く。

 だが、彼の歩みは止まらない。

 勇者が持つ双剣、その剣身に沿うように、炎が走る。
 炎が螺旋状に回転するように、燃え盛る。

「『――――』」

 放った言葉と同時に、彼の生命は燃やされる。

 その生命の輝きは。
 『命の煌めき』と呼ぶのに、ふさわしいものだった。
 魔力器官のない彼が、生命を燃やしたのだ。
 最期に一瞬だけ燃え上がる、蝋燭のように。

 片方に握られた、魔剣が微かに震えた。

「なあ、バルムンク――俺も戦うよ。責任は……果たさなきゃ」

 ――彼を送り出した女は、煤の教会で静かに涙を流す。

 勇魔を決する闘いが――始まった。
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