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2章 人妻魔術師の冒険とはっちゃめちゃになるお話
21:依頼
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「…その依頼、パーティーを組んでの任務ということになりますのね?」 エレナは、乾いた喉を潤すように、ごくりと唾を飲み込んだ。 「はい。既に腕利きの戦士と斥候の方が参加を表明されていますですよ。エレナさんが加われば、バランスの取れたパーティーになるかと思います」 リーゼの言葉に、エレナはほんの少しだけ安堵した。戦士が前衛で敵の攻撃を受け止め、斥候が周囲の警戒と奇襲を担当し、そして魔術師である自分が後衛から強力な攻撃魔法で支援する。それが、この世界における冒険者パーティーの基本的な戦術だ。一人で危険な任務に赴くよりは、遥かに生存率が高まるだろう。
「…その依頼、お受けするわ」 エレナは、腹の底から絞り出すように、きっぱりと答えた。もう迷っている時間はない。夫の命が、そして自分たちの生活がかかっているのだ。リーゼは「承知いたしましたです! さすがはエレナさんですね!」と、いつものように明るく返事をすると、カウンターの奥にある、ギルドマスターの執務室へと繋がる扉に向かって声を張り上げた。 「ガラハッドさーん! それから、ロキさーん! 討伐隊の魔術師の方がいらっしゃいましたですよー!」
やがて、ギルドの奥の薄暗い通路から、二人の男が姿を現した。一人は、まるで森の熊を思わせるような、筋骨隆々とした大柄な男だった。使い古された革鎧に身を包み、腰には鞘に収まった長大な両手剣を吊っている。その顔には、まるで古木の年輪のように、おびただしい数の戦傷が刻まれていた。名をガラハッドというらしい。その風貌は、まさに歴戦の戦士そのものだった。 もう一人は、対照的に痩身で、どこか爬虫類を思わせるような、ねっとりとした粘つく視線をエレナに向ける男だった。黒ずんだ革の軽装鎧を身にまとい、背中には短い弓と矢筒を背負っている。腰には、鞘に収められた二本の短剣が見えた。ロキと名乗ったその男は、薄笑いを浮かべながら、エレナの豊満な胸元から、すらりと伸びた太ももにかけて、まるで品定めでもするかのように、いやらしい視線を這わせた。
ガラハッドは、エレナを一瞥すると、まるで値踏みでもするかのように鼻を鳴らし、無骨な声で言った。 『ほう、女の魔術師か。それも、なかなかの別嬪さんじゃねえか。だが、戦場で足手まといになるようなら、容赦なく置いていくぞ』 その言葉には、侮蔑とまではいかないまでも、女性の冒険者に対する不信感が滲み出ていた。 一方、ロキは、エレナの身体つきを舐め回すような視線を隠そうともせず、にやりと下卑た笑みを浮かべた。 『へっへっへ。お嬢ちゃん、なかなかいい身体してるじゃないか。その豊かな胸も、むっちりとした太ももも、俺好みだぜ。討伐が無事に終わったら、俺たちと三人で「お楽しみ」と行こうじゃねえか? もちろん、報酬は金貨とは別に、たっぷり弾むぜぇ?』 その下卑た言葉と、粘つくような視線に、エレナの背筋をぞっとするような嫌悪感が走った。胃の腑がむかむかとするような不快感。しかし、ここで感情を露わにして依頼を断るわけにはいかない。エレナは、ぐっと奥歯を噛み締め、込み上げてくる怒りを必死で抑え込みながら、努めて冷静に、そして毅然とした態度で言い返した。
「わたくしはエレナ・シュミット。風の魔術を得意としております。決して、あなた方の足手まといになるつもりは毛頭ございませんわ。それから、ロキとやら。あなた方と「お楽しみ」に興じるつもりも、金輪際ございません。」 エレナは、右手に持った樫の杖をトン、と床に突き立て、その先端から鋭い風の刃を迸らせてみせた。シュン、と空気を切り裂く音が、周囲の喧騒を一瞬だけ静まらせる。 エレナの毅然とした態度と、魔術師としての確かな技量の一端を目の当たりにして、ガラハッドは少し意外そうな顔をしたが、すぐに「ふん、威勢のいい女だ」とだけ呟き、それ以上は何も言わなかった。しかし、ロキはなおも面白がるように、舌なめずりをしながらエレナの全身をいやらしく見つめていた。その瞳の奥には、エレナの抵抗をむしろ楽しんでいるかのような、歪んだ嗜虐的な光が宿っていた。
(…嫌な予感がするわ)
エレナの胸中に、暗く、重苦しい影が落ちた。この男たちと共に、命がけの任務に赴かなければならない。その事実に、言いようのない不安と恐怖が込み上げてくる。しかし、もう後戻りはできないのだ。愛する夫のため、そして、かつては活気に満ちていた鍛冶屋「炎の鉄槌」の再興のため、彼女はこの危険な賭けに、その身を投じるしかなかったのである。
「…その依頼、お受けするわ」 エレナは、腹の底から絞り出すように、きっぱりと答えた。もう迷っている時間はない。夫の命が、そして自分たちの生活がかかっているのだ。リーゼは「承知いたしましたです! さすがはエレナさんですね!」と、いつものように明るく返事をすると、カウンターの奥にある、ギルドマスターの執務室へと繋がる扉に向かって声を張り上げた。 「ガラハッドさーん! それから、ロキさーん! 討伐隊の魔術師の方がいらっしゃいましたですよー!」
やがて、ギルドの奥の薄暗い通路から、二人の男が姿を現した。一人は、まるで森の熊を思わせるような、筋骨隆々とした大柄な男だった。使い古された革鎧に身を包み、腰には鞘に収まった長大な両手剣を吊っている。その顔には、まるで古木の年輪のように、おびただしい数の戦傷が刻まれていた。名をガラハッドというらしい。その風貌は、まさに歴戦の戦士そのものだった。 もう一人は、対照的に痩身で、どこか爬虫類を思わせるような、ねっとりとした粘つく視線をエレナに向ける男だった。黒ずんだ革の軽装鎧を身にまとい、背中には短い弓と矢筒を背負っている。腰には、鞘に収められた二本の短剣が見えた。ロキと名乗ったその男は、薄笑いを浮かべながら、エレナの豊満な胸元から、すらりと伸びた太ももにかけて、まるで品定めでもするかのように、いやらしい視線を這わせた。
ガラハッドは、エレナを一瞥すると、まるで値踏みでもするかのように鼻を鳴らし、無骨な声で言った。 『ほう、女の魔術師か。それも、なかなかの別嬪さんじゃねえか。だが、戦場で足手まといになるようなら、容赦なく置いていくぞ』 その言葉には、侮蔑とまではいかないまでも、女性の冒険者に対する不信感が滲み出ていた。 一方、ロキは、エレナの身体つきを舐め回すような視線を隠そうともせず、にやりと下卑た笑みを浮かべた。 『へっへっへ。お嬢ちゃん、なかなかいい身体してるじゃないか。その豊かな胸も、むっちりとした太ももも、俺好みだぜ。討伐が無事に終わったら、俺たちと三人で「お楽しみ」と行こうじゃねえか? もちろん、報酬は金貨とは別に、たっぷり弾むぜぇ?』 その下卑た言葉と、粘つくような視線に、エレナの背筋をぞっとするような嫌悪感が走った。胃の腑がむかむかとするような不快感。しかし、ここで感情を露わにして依頼を断るわけにはいかない。エレナは、ぐっと奥歯を噛み締め、込み上げてくる怒りを必死で抑え込みながら、努めて冷静に、そして毅然とした態度で言い返した。
「わたくしはエレナ・シュミット。風の魔術を得意としております。決して、あなた方の足手まといになるつもりは毛頭ございませんわ。それから、ロキとやら。あなた方と「お楽しみ」に興じるつもりも、金輪際ございません。」 エレナは、右手に持った樫の杖をトン、と床に突き立て、その先端から鋭い風の刃を迸らせてみせた。シュン、と空気を切り裂く音が、周囲の喧騒を一瞬だけ静まらせる。 エレナの毅然とした態度と、魔術師としての確かな技量の一端を目の当たりにして、ガラハッドは少し意外そうな顔をしたが、すぐに「ふん、威勢のいい女だ」とだけ呟き、それ以上は何も言わなかった。しかし、ロキはなおも面白がるように、舌なめずりをしながらエレナの全身をいやらしく見つめていた。その瞳の奥には、エレナの抵抗をむしろ楽しんでいるかのような、歪んだ嗜虐的な光が宿っていた。
(…嫌な予感がするわ)
エレナの胸中に、暗く、重苦しい影が落ちた。この男たちと共に、命がけの任務に赴かなければならない。その事実に、言いようのない不安と恐怖が込み上げてくる。しかし、もう後戻りはできないのだ。愛する夫のため、そして、かつては活気に満ちていた鍛冶屋「炎の鉄槌」の再興のため、彼女はこの危険な賭けに、その身を投じるしかなかったのである。
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