剣と魔法の世界で冒険はそこそこにして色々なお仕事の女の子達がはちゃめちゃにえっちなことになるお話

アレ

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4章 訳あり人妻さんとたいへんなお使いのお話

61:昼

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アストリナの西門をくぐり抜けた瞬間、都市を覆っていた文明の匂いが、まるで潮が引くようにすっと消え失せた。背後で閉ざされる巨大な門の、錆びついた鉄が軋む重々しい音が、文明社会との決別の合図であったかのように、二人の前には広大な、そして無慈悲な自然が剥き出しの姿で横たわっていた。快適な石畳の道はすぐに途切れ、幾多の荷馬車が刻みつけた轍の跡だけが辛うじて道であることを示す、土埃の街道へと変わる。馬車の車輪が、乾いた土に埋もれた小石を跳ね上げる硬質な音が、静寂の中でやけに大きく響き渡った。

吹き抜ける風は、都市の内部とは明らかにその質を異にしていた。海からの塩気と魚醤の匂いを含んだ湿った風ではなく、内陸の広大な平原をどこまでも渡ってきた、乾ききった風。それは痩せた土と枯れた草の匂い、そして遠くに霞む山々の岩石が、容赦ない太陽に一日中焼かれることで発する、微かに金属的な匂いを運んでくる。御者台に座るリオの隣で、アリアはモスグリーンのローブのフードを目深にかぶり直し、その野生の匂いを、久しぶりに思い出す感覚と共に静かに肺腑へと満たした。貞淑な女将の仮面の下で、とうに捨て去ったはずの過去の自分が、忘れかけていた感覚が、身体の奥深くで微かに疼くのを彼女は自覚する。それは、かつて幾度となく経験した、危険と、そして倒錯的な興奮と隣り合わせの旅路の匂いであった。

「リオ君、そんなに急がなくても大丈夫だよ。馬が先に参っちまう」
「は、はい! ですが、街道筋では何があるか分かりませんから……陽が高いうちに、少しでも距離を稼いでおきたいんです」

緊張でこわばった声で答えるリオの横顔を、アリアはフードの影から盗み見る。まだあどけなさの残る頬にはそばかすが散っているが、その視線は子供のものではない。街道の両脇、灌木の茂みの奥や、岩陰の一つ一つに至るまで、絶えず鋭く周囲の状況を警戒していた。その真摯な姿が、アリアの目には眩しく、微笑ましく映り、そして同時に、胸の奥をちくりと締め付けた。この純朴で、ひたむきな若者が、その命を懸けて守ろうとしているのは、港の安宿「眠れる海竜亭」の女将という、自分が作り上げた虚像に過ぎないのだという事実が、重くのしかかる。

道中は、その緊張が嘘のように、概ね平穏そのものであった。街道の両脇には、背の低い灌木と、帝国博物誌にも載っていないような名も知らぬ野草が、乾いた風に頼りなげにそよいでいる。時折、かつてこの平原を支配していたのであろう巨大な草食獣の、風化して白く乾いた巨大な骨の残骸が、この土地の厳しさを無言で物語っていた。昼餉は、アリアが宿から持参したパンと干し肉、そして硬いチーズという、冒険者にとってはごくありふれた簡素なものだったが、遮るもののない大空の下で食べるというだけで、それはトーマスが作るどんなご馳走よりも格別なものに感じられた。

太陽が中天に差し掛かり、影が最も短くなった頃、事件は起きた。街道の右手、なだらかな丘の稜線に、複数の小さな人影が現れたのである。その数は五、六匹。ぎらつく太陽を背にして黒いシルエットになっているが、その独特な猫背の姿勢と、手に持った粗末な棍棒や錆びた短剣の形状から、ゴブリンの斥候であることは明白であった。

「アリアさん、伏せて!」

リオの声が、先ほどまでの穏やかなものとは打って変わって、鋭く短く飛ぶ。彼は即座に腰のロングソードの柄に手をかけ、馬車の手綱を握る手にぐっと力を込めた。いつでも馬を駆けさせられるように、そしていつでも剣を抜けるように。その瞳には、もはや人の好さそうな光はなく、獲物を前にした飢えた狼のような、獰猛な光が宿っていた。

ゴブリンたちは、丘の上からこちらを指さし、キーキーと耳障りな甲高い声で何かを喚き合っているのが、風に乗って微かに聞こえる。予期せぬ獲物を見つけた喜びに打ち震えているのであろう。だが、その興奮した動きはすぐに止まった。彼らのうちの一体が、馬車に同乗しているリオの姿――陽光を反射して鈍く輝く革鎧と、腰に差した無骨な長剣――に気づいたようだった。冒険者だ、と。その認識が、彼らの間にさざ波のように広がっていくのが見て取れた。ゴブリンは単体では非力な魔物であり、集団でなければ狩りもままならない。ましてや、本格的な武装をした人間を相手にするのは、彼らにとっても大きな危険と損失を伴う。しばらくの逡巡の後、彼らは忌々しげにこちらを睨みつけると、未練がましく唾を吐き捨てるような仕草を見せ、一人、また一人と丘の向こう側へと姿を消していった。

「……行ったようですね。ですが、油断はできません。しばらくは警戒を続けます」

数分間の後、張り詰めていた空気が、ゆっくりと弛緩していく。リオは深く息をつくと、ようやくアリアを振り返り、心配そうな顔で謝罪した。
「申し訳ありません、アリアさん。怖かったでしょう」
「ううん、平気さ。あんたがいてくれて、とっても心強いよ、リオ君」

アリアの言葉に嘘はなかった。ゴブリンの出現に、正直肝は冷えた。しかし、それ以上に、隣に座るこの若い冒険者が見せた豹変ぶりに、彼女の心は大きく揺さぶられていたのだ。先ほどまでの、自分を前にしてはにかみ、どもっていた純朴な青年はどこにもいない。そこにいたのは、敵意を剥き出しにした魔物を前に、一歩も引かぬ覚悟を決めた、一人の屈強な戦士だった。手綱を握る、節くれだった大きな手。鋭く細められた瞳。そして、全身から放たれる、死を恐れぬ闘争心。その荒々しい男性的な魅力が、アリアの身体の芯をぞくりと震わせた。貞淑な人妻の仮面の下で、かつて男たちの欲望と羨望を受け止め、それに支配されることに悦びを見出していた過去の自分が、歓喜の声を上げるのを感じる。ああ、なんて頼もしいのだろう。この若い腕に守られるという背徳的な想像が、太腿の内側をじわりと熱くさせた。
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