剣と魔法の世界で冒険はそこそこにして色々なお仕事の女の子達がはちゃめちゃにえっちなことになるお話

アレ

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4章 訳あり人妻さんとたいへんなお使いのお話

60:朝

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アリアの登場は、その混沌とした空間に、一瞬の、しかし確かなさざ波を立てた。誰もが振り返るわけではない。だが、屈強な戦士たちが交わす杯が止まり、狡猾そうな斥候たちの卑猥な冗談が途切れ、彼らの視線が、場違いなほど清らかで、それでいて熟れた果実の如き色香を放つ一人の女に、吸い寄せられるように集まった。しかし、彼女の纏う凛とした雰囲気と、貞淑な人妻であることを示す落ち着いた物腰が、男たちの下卑た欲望に踏み込むことを躊躇させた。彼らはただ、遠巻きにその姿を眺め、その柔らかな肢体を己が腕に抱く様を妄想の中で貪るのみである。

そんな視線を背中に感じながら、アリアは真っ直ぐに受付カウンターへと向かう。カウンターの内側では、数人の受付嬢が、ひっきりなしに訪れる冒険者たちを相手に、魔法のように手際よく依頼の処理をこなしていた。その中に、見慣れた顔を見つけ、アリアは安堵の息を漏らす。プラチナブロンドのショートヘアーを揺らし、白いシャツと黒いネクタイ、黒のプリーツスカートという制服を上品に着こなした、耳長族の受付嬢。

彼女はアリアに気づくと、花が綻ぶような人懐こい笑みを浮かべた。しかし、今日の彼女はどこか普段と様子が違っていた。常に明るく優しい彼女が、今はまるで熱に浮かされたかのように頬を上気させ、その青い瞳は潤んだ熱を帯びてとろりとしている。白いシャツの襟元から覗く首筋は汗ばんで艶めかしく、黒いネクタイが逆にその肌の白さを際立たせていた。

ギルド内に渦巻く男たちの粗野な欲望。普段であれば柳に風と受け流すはずのそれが、今の彼女にはまるで薪をくべられるがごとく、その身を内側から焦がしているかのようだ。本人の意思とは無関係に、その肢体からは熟れた果実のような甘い香気が立ち上り、屈強な冒険者たちの本能を無意識に煽っている。アリアはその微かな変化を見逃さなかったが、彼女の身に何があったのかを知る由もない。ただ、旧知の仲である受付嬢のいつもと違う妖艶な雰囲気に、かすかな違和感を覚えるのみであった。

「ごきげんよう、リーゼさん。少し、お願いがあるのだけど」
「あら、アリアさん。いらっしゃいませ。今日は……どういったご用件、でしょうか?」

リーゼの声は、ほんの少し掠れて甘い響きを帯びていた。アリアは声を潜め、護衛を雇いたい旨を手短に告げる。ドワーフの集落までの半日ほどの道のり、荷運びを手伝ってくれる、腕が立ち、そして口の堅い者がいい。その条件を聞いている間も、リーゼは時折、無意識にかすかに喘ぎ、身じろぎしている。その仕草の一つ一つが、背後に控える冒険者たちの喉を鳴らした。

リーゼはアリアの言葉に静かに頷くと、しばし思案気に指を顎に当てた。ギルドに登録されている無数の冒険者の顔と、その実力、そして性格までが、彼女の頭の中に正確に記録されているのだ。
「……それでしたら、ちょうど良い若いのが一人いますよ。腕は確かですが、まだ駆け出しなので、お安く済みます。少し、お待ちくださいね」

そう言うと、リーゼはカウンターの奥へと消え、やがて一人の青年を連れて戻ってきた。まだ二十歳にもなっていないだろうか。そばかすの残る顔には人の好さそうな笑みが浮かんでいるが、その体つきは鍛え上げられた鋼のようにしなやかで、身に着けた革鎧や腰に下げたロングソードは、実用一辺倒ながらもよく手入れが行き届いている。彼が、ただの世間知らずの若者ではないことを、アリアの目はすぐに見抜いた。

「紹介します。冒険者のリオ君です。リオ君、こちらが依頼主のアリアさん。眠れる海竜亭の若女将さんなんですよ!」
「り、リオと申します!し、しがない駆け出しですが、剣の腕には自信があります!どうか、よろしくお願いします!」

リオと呼ばれた青年は、アリアの姿を認めるや否や、顔を真っ赤にしてどもりながら、慌てて頭を下げた。彼の目に映ったアリアの姿は、衝撃そのものであった。

モスグリーンのローブは、彼女の豊満な身体の線を完全に隠してはいない。むしろ、布地のしなやかなたるみが、その下に隠された肉付きの豊かな胸や、丸みを帯びた腰の輪郭を想像させ、より一層扇情的に見えた。フードの影から覗く顔立ちは、聖母のように優しく穏やかでありながら、その唇は熟れた果実のように瑞々しく、微かに開かれている。そして何よりもリオを混乱させたのは、彼女から漂ってくる香りだった。それは、安宿の女将らしく、清潔なリネンと焼きたてのパンのような温かい生活の匂いでありながら、その奥底には、男の理性を蕩かすような、甘く、そしてどこか退廃的な女の香りが混じり合っていたのだ。その香りは、まだ女を知らない青年の鼻腔をくすぐり、脳髄を痺れさせ、腹の底に経験したことのない熱を灯した。

メガネの奥で優しく細められた瞳に見つめられ、リオの心臓は早鐘のように打ち鳴らされる。この人は、きっと優しい夫と子供に囲まれ、幸せに暮らしているに違いない。そんな貞淑な人妻が放つ、抗いがたい色香の奔流。その矛盾が、リオの未熟な心を激しく揺さぶった。

その初々しい反応に、アリアは思わず口元を綻ばせる。彼女にとって、このような若者の反応は、実に愛らしく、微笑ましいものだった。彼女は、相手の欲望を見抜き、そして最大限に歓ばせる術を、呼吸をするのと同じくらい自然に行うことができる。もちろん、今の彼女は「眠れる海竜亭」の貞淑な女将、アリア・フローライトである。そんな過去の自分は、とうの昔に心の奥底に封じ込めたはずだった。アリアは、リオの視線に気づかぬふりを装い、あくまで穏やかに、慈母のような微笑みを浮かべた。

「まあ、ご丁寧にどうも。あたいはアリア。よろしくね、リオ君」

優しく語りかけるアリアの声は、蜜のように甘く、緊張する青年の心を解きほぐす不思議な響きを持っていた。アリアはリーゼに規定の仲介料を支払い、リオに前金として銀貨数枚を手渡した。ずしりとした銀貨の重みが、依頼の現実感と共に、目の前の女性に触れたという事実をリオに突きつけ、彼の指先を微かに震わせた。

こうして、宿の女将とその護衛という、奇妙な組み合わせの二人は、冒険者ギルドの喧騒を後にした。街の西門にある貸出馬車の停留所へと向かう道すがら、アリアが何気なく尋ねる。

「リオ君は、アストリナに来て長いのかい?」
「あ、いえ!三月ほど前に、北の村から……その、一旗揚げようと……」
「そうかい。偉いじゃないか」

アリアの飾らない言葉に、リオは再び顔を赤らめる。隣を歩くだけで、風に乗って運ばれてくる彼女の甘い香りに、何度も眩暈を覚えそうになる。二人の間には、まだぎこちない空気が流れていた。やがて、城壁の外へと続く巨大な門が見えてくる。門の向こう側からは、文明の及ばぬ広大な荒野を渡る乾いた風が吹き付け、都市の喧騒とは全く異なる、野生の匂いを運んでくる。それは、油断すれば命を落とす危険な世界の匂いであり、同時に、二人の短い旅路の始まりを告げる匂いでもあった。
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