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6章 メイドとして潜入したら当然の如くぐちょぐちょえっちになってしまうお話
99:任務
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帝国と共和国の狭間にあって、常に緊張の空気を纏う港湾要塞都市アストリナ。その街の権力と富の象徴として、丘陵地区に聳え立つのが領主邸です。黒ずんだ巨石を精緻に組み上げた城壁は、幾多の戦火を潜り抜けてきた歴史の証人であり、その威容は街を見下ろす支配者の眼差しそのものでした。
その巨大な邸宅の、陽の光さえ届きにくい北塔の奥深く。埃と古書の匂いが混じり合った小さな書斎で、一人の少年がうずくまるようにして机にかじりついていました。
少年の名前はユーノくん。このアストリナを治める領主の、たった一人の息子にして、若くして亡くなった奥方様の忘れ形見。領主にとっては、まさに目に入れても痛くない最愛の息子です。
しかし、その最愛の息子の顔色は、蝋のように白く、目の下には隈が色濃く浮かんでいました。この一月ほど、ユーノくんはまるで何かに取り憑かれたかのように、この書斎に籠もりきりだったのです。寝食も忘れ、膨大な古文書の海に溺れるその姿は、痛々しいほどでした。
彼の細く白い指が、黄ばんで脆くなった羊皮紙のページを慎重にめくります。そこには、現代では使われていない古代魔術語で、何かの儀式について記されているようでした。
『うーん…この記述が正しいとすると…供物の選定が何よりも重要になるよね…。でも、これほどの力を持つ魔法陣を、どうやって…』
かすれた声で呟きながら、さらに深く文字の森に分け入ろうとした、その時でした。
コン、コン。
静寂を破って、重厚な樫の扉が優しくノックされました。
驚いて顔を上げたユーノくんの肩が、びくりと震えます。この部屋を訪れる者など、食事を運んでくる老いた侍女くらいしかいないはずでした。
『…?どうぞ…?』
警戒を隠せないまま、か細い声で応じます。
ギィ、と古びた蝶番が軋む音を立て、ゆっくりと扉が開かれました。
そこに立っていたのは、ユーノくんより一回り、いえ、二周りほども年上に見える、一人の女性でした。
艶やかな黒髪を、うなじのラインが美しく見えるように結い上げ、同じ色の深い光を宿した瞳が、心配そうにこちらを見つめています。東方の国々の人々が持つとされる、神秘的な黒。その女性が身に纏う簡素なメイド服は、領主亭特注の上質な生地で作られていることが一目でわかり、彼女の若くも魅力的な身体の曲線を、隠すことなく描き出していました。特に、きゅっと絞られたウエストから豊かに広がるヒップのラインと、白いエプロンの下で存在を主張する重そうな胸の膨らみは、これまでユーノくんが書物の中でしか知らなかった「女性」という存在の、生々しいまでの実体を感じさせ、彼の心臓をドキドキと高鳴らせるのに十分でした。
部屋に流れ込んできたのは、外の新鮮な空気だけではありません。清潔な石鹸と、陽だまりのような甘い花の香りが、古書の黴臭い空気を優しく浄化していくようです。
『え~っと、あの、おねぇちゃんは…だれ、ですか?』
戸惑うユーノくんに、女性はふわりと花が綻ぶように微笑みました。その笑みは、強い意志と、全てを包み込むような母性の両方を湛えています。
「はじめまして。ユーノ様でいらっしゃいますね?」
鈴を転がすような、しかし落ち着いた声。彼女は部屋に一歩足を踏み入れると、スカートの裾を優雅につまみ、深く、完璧なお辞儀をしてみせました。その動きに合わせて、メイド服のスカートがふわりと揺れ、すらりと伸びた足首が一瞬だけ覗きます。
「本日より、ユーノ様のお世話係を拝命いたしました、小雪と申します。以後、お見知りおきください」
こうして、領主家の若き跡取りであるユーノくんと、謎めいた黒髪のメイド、小雪さんは出会ったのです。
その巨大な邸宅の、陽の光さえ届きにくい北塔の奥深く。埃と古書の匂いが混じり合った小さな書斎で、一人の少年がうずくまるようにして机にかじりついていました。
少年の名前はユーノくん。このアストリナを治める領主の、たった一人の息子にして、若くして亡くなった奥方様の忘れ形見。領主にとっては、まさに目に入れても痛くない最愛の息子です。
しかし、その最愛の息子の顔色は、蝋のように白く、目の下には隈が色濃く浮かんでいました。この一月ほど、ユーノくんはまるで何かに取り憑かれたかのように、この書斎に籠もりきりだったのです。寝食も忘れ、膨大な古文書の海に溺れるその姿は、痛々しいほどでした。
彼の細く白い指が、黄ばんで脆くなった羊皮紙のページを慎重にめくります。そこには、現代では使われていない古代魔術語で、何かの儀式について記されているようでした。
『うーん…この記述が正しいとすると…供物の選定が何よりも重要になるよね…。でも、これほどの力を持つ魔法陣を、どうやって…』
かすれた声で呟きながら、さらに深く文字の森に分け入ろうとした、その時でした。
コン、コン。
静寂を破って、重厚な樫の扉が優しくノックされました。
驚いて顔を上げたユーノくんの肩が、びくりと震えます。この部屋を訪れる者など、食事を運んでくる老いた侍女くらいしかいないはずでした。
『…?どうぞ…?』
警戒を隠せないまま、か細い声で応じます。
ギィ、と古びた蝶番が軋む音を立て、ゆっくりと扉が開かれました。
そこに立っていたのは、ユーノくんより一回り、いえ、二周りほども年上に見える、一人の女性でした。
艶やかな黒髪を、うなじのラインが美しく見えるように結い上げ、同じ色の深い光を宿した瞳が、心配そうにこちらを見つめています。東方の国々の人々が持つとされる、神秘的な黒。その女性が身に纏う簡素なメイド服は、領主亭特注の上質な生地で作られていることが一目でわかり、彼女の若くも魅力的な身体の曲線を、隠すことなく描き出していました。特に、きゅっと絞られたウエストから豊かに広がるヒップのラインと、白いエプロンの下で存在を主張する重そうな胸の膨らみは、これまでユーノくんが書物の中でしか知らなかった「女性」という存在の、生々しいまでの実体を感じさせ、彼の心臓をドキドキと高鳴らせるのに十分でした。
部屋に流れ込んできたのは、外の新鮮な空気だけではありません。清潔な石鹸と、陽だまりのような甘い花の香りが、古書の黴臭い空気を優しく浄化していくようです。
『え~っと、あの、おねぇちゃんは…だれ、ですか?』
戸惑うユーノくんに、女性はふわりと花が綻ぶように微笑みました。その笑みは、強い意志と、全てを包み込むような母性の両方を湛えています。
「はじめまして。ユーノ様でいらっしゃいますね?」
鈴を転がすような、しかし落ち着いた声。彼女は部屋に一歩足を踏み入れると、スカートの裾を優雅につまみ、深く、完璧なお辞儀をしてみせました。その動きに合わせて、メイド服のスカートがふわりと揺れ、すらりと伸びた足首が一瞬だけ覗きます。
「本日より、ユーノ様のお世話係を拝命いたしました、小雪と申します。以後、お見知りおきください」
こうして、領主家の若き跡取りであるユーノくんと、謎めいた黒髪のメイド、小雪さんは出会ったのです。
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