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6章 メイドとして潜入したら当然の如くぐちょぐちょえっちになってしまうお話
118:図書室
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翌日の朝食を終えたその時でした。
小雪さんは、ほとんど椅子を蹴立てるような勢いで立ち上がると、鬼気迫る表情で若きご主人様に詰め寄ります。昨夜、あれほどまでに身も心も満たされたはずなのに、薬の効果は未だ彼女の肉体を蝕み、その芯を熱く疼かせていたのです。
「ユーノ様! 図書室を調べましょう!」
その切羽詰まった声に、ユーノくんはスープのスプーンを口に運びかけたまま、きょとんとした顔で小雪さんを見上げました。彼の頬はつやつやと輝き、昨夜の狂乱が嘘のように、その瞳は子供らしい無垢な光をたたえています。
「えっ? おねえちゃん。図書室に行かなくても、種付けなら今からしてあげるよ?」
あまりにも無邪気で、そして残酷なその言葉に、小雪さんの顔がかっと赤く染まります。その一言が、昨夜の記憶の引き金となり、胎内の奥が、きゅううん、と甘く疼くのを止められません。
「まだおなかの中に、いっぱい溜まっています! それは夜にしてくださいまし! それよりも、あの図書室です!」
「う~ん、そうかなぁ」
「あの図書室には、何者かの明確な思惑があって、あのような仕掛けが施されているはずです! わたくしたちを閉じ込めた部屋、そしてユーノ様の幻影を作り出した廊下…あれらは、ただの悪戯ではありません。高度な時空間魔術と、精神感応式の魔導トラップが組み合わさった、恐るべき芸術品です。それを明らかにしない限り、解毒のポーションなど、とても見つけられません!」
シノビとしての鋭い洞察力が、薬で蕩けた脳を叱咤します。その必死の形相に、ユーノくんもようやく事態の深刻さを理解したようです。うーん、と少し考え込む素振りを見せると、ぽん、と手を打ちました。
「でも、おねえちゃんがそういうなら、もっと調べてみようか! 実は、図書室の奥に、まだ開けたことのない扉があるんだ!」
「ッ! それを先に仰ってください! 今すぐ参りましょう!」
その言葉は、溺れる者にとっての最後の藁でした。有無を言わさぬその気迫に押され、ユーノくんはこくこくと頷きます。こうして小雪さんは、半ばユーノくんを引きずるようにして、再び屋敷の奥深く、問題の図書室のさらに奥へと突入したのでした。
◇◇◇
さて、ここで、図書室の奥の扉から続いた大迷宮における、我らがくのいち、小雪さんの大活躍について、詳細に語るのは野暮というものでしょう。
ユーノくんを背に庇い、迫りくる魔物の群れを、まさにバッタバッタと薙ぎ倒していくその姿は、影に舞う黒き蝶。ギルドマスターから与えられた魔導具、闇夜茸の絹糸で編まれた手袋と足袋は彼女の気配を完全に消し去り、月光鋼のクナイは魔術障壁を紙のように切り裂きます。
書物の紙が寄り集まってできたペーパーゴーレムの群れを、炎の術式が刻まれたクナイで焼き払い、床から伸びるインクの触手を、風の刃で切り刻む。その一挙手一投足は、無駄なく、美しく、そしてどこまでも芸術的でした。若きご主人様は、ただただ目を輝かせて、その勇姿を見つめるばかりです。
「おねぇちゃん! すごいや! まるでニンジャみたいだね! ワザマエ!」
「タツジン!」
そんな可愛らしい声援を背に受け、小雪さんはシノビとしての力を遺憾なく発揮したのでした。
◇◇◇
そして、大迷宮の最奥。周囲の空間から切り離されたかのように静まり返った、巨大な円形の部屋で、二人はついにこの迷宮の主と出会ったのです。
部屋の中央、黒曜石を削り出したかのような禍々しい玉座に、一体のアンデッドが鎮座していました。ぼろぼろの豪奢なローブをその身に纏い、骸骨の指には、街一つを滅ぼすほどの魔力を秘めた指輪がいくつも輝いています。そして、その眼窩の奥には、見る者の魂を凍てつかせるような、冷たく蒼い知性の光が揺らめいていました。
リッチ。生への執着の果てに、自らの魂を魔法の器に移し替え、死を超越した大魔術師の成れの果て。その圧倒的な存在感と、肌を刺すような魔力の圧に、小雪さんはごくりと喉を鳴らしました。
「…だれじゃぁ…わしの眠りを妨げる、愚か者は…」
乾いた骨が擦れ合うような、しかし部屋全体を震わせる声が響きます。リッチとなったその主は、アストリナの民から「怪物」と恐れられた、ユーノくんの曽祖父、先々代の領主その人でした。
リッチの蒼い光が、ユーノくんの姿を捉え、ぴたりと止まります。
「…おまえ…オットーか? いや…最後に会った時より、ずいぶんと…小さくなったのぅ? んんん? おぬし、何者じゃぁ?」
「オットーは、僕のおじいちゃんだよ! ひいおじいちゃん!」
「…むむむ。そうか、わしはそんなにも長く眠っておったか。と、いうことは、おぬしはわしのひ孫かえ? こんな、わしの魂の安息所にまで足を踏み入れるとは…いったい、何の用じゃ?」
「ひいおじいちゃん。実は…」
小雪さんは、ほとんど椅子を蹴立てるような勢いで立ち上がると、鬼気迫る表情で若きご主人様に詰め寄ります。昨夜、あれほどまでに身も心も満たされたはずなのに、薬の効果は未だ彼女の肉体を蝕み、その芯を熱く疼かせていたのです。
「ユーノ様! 図書室を調べましょう!」
その切羽詰まった声に、ユーノくんはスープのスプーンを口に運びかけたまま、きょとんとした顔で小雪さんを見上げました。彼の頬はつやつやと輝き、昨夜の狂乱が嘘のように、その瞳は子供らしい無垢な光をたたえています。
「えっ? おねえちゃん。図書室に行かなくても、種付けなら今からしてあげるよ?」
あまりにも無邪気で、そして残酷なその言葉に、小雪さんの顔がかっと赤く染まります。その一言が、昨夜の記憶の引き金となり、胎内の奥が、きゅううん、と甘く疼くのを止められません。
「まだおなかの中に、いっぱい溜まっています! それは夜にしてくださいまし! それよりも、あの図書室です!」
「う~ん、そうかなぁ」
「あの図書室には、何者かの明確な思惑があって、あのような仕掛けが施されているはずです! わたくしたちを閉じ込めた部屋、そしてユーノ様の幻影を作り出した廊下…あれらは、ただの悪戯ではありません。高度な時空間魔術と、精神感応式の魔導トラップが組み合わさった、恐るべき芸術品です。それを明らかにしない限り、解毒のポーションなど、とても見つけられません!」
シノビとしての鋭い洞察力が、薬で蕩けた脳を叱咤します。その必死の形相に、ユーノくんもようやく事態の深刻さを理解したようです。うーん、と少し考え込む素振りを見せると、ぽん、と手を打ちました。
「でも、おねえちゃんがそういうなら、もっと調べてみようか! 実は、図書室の奥に、まだ開けたことのない扉があるんだ!」
「ッ! それを先に仰ってください! 今すぐ参りましょう!」
その言葉は、溺れる者にとっての最後の藁でした。有無を言わさぬその気迫に押され、ユーノくんはこくこくと頷きます。こうして小雪さんは、半ばユーノくんを引きずるようにして、再び屋敷の奥深く、問題の図書室のさらに奥へと突入したのでした。
◇◇◇
さて、ここで、図書室の奥の扉から続いた大迷宮における、我らがくのいち、小雪さんの大活躍について、詳細に語るのは野暮というものでしょう。
ユーノくんを背に庇い、迫りくる魔物の群れを、まさにバッタバッタと薙ぎ倒していくその姿は、影に舞う黒き蝶。ギルドマスターから与えられた魔導具、闇夜茸の絹糸で編まれた手袋と足袋は彼女の気配を完全に消し去り、月光鋼のクナイは魔術障壁を紙のように切り裂きます。
書物の紙が寄り集まってできたペーパーゴーレムの群れを、炎の術式が刻まれたクナイで焼き払い、床から伸びるインクの触手を、風の刃で切り刻む。その一挙手一投足は、無駄なく、美しく、そしてどこまでも芸術的でした。若きご主人様は、ただただ目を輝かせて、その勇姿を見つめるばかりです。
「おねぇちゃん! すごいや! まるでニンジャみたいだね! ワザマエ!」
「タツジン!」
そんな可愛らしい声援を背に受け、小雪さんはシノビとしての力を遺憾なく発揮したのでした。
◇◇◇
そして、大迷宮の最奥。周囲の空間から切り離されたかのように静まり返った、巨大な円形の部屋で、二人はついにこの迷宮の主と出会ったのです。
部屋の中央、黒曜石を削り出したかのような禍々しい玉座に、一体のアンデッドが鎮座していました。ぼろぼろの豪奢なローブをその身に纏い、骸骨の指には、街一つを滅ぼすほどの魔力を秘めた指輪がいくつも輝いています。そして、その眼窩の奥には、見る者の魂を凍てつかせるような、冷たく蒼い知性の光が揺らめいていました。
リッチ。生への執着の果てに、自らの魂を魔法の器に移し替え、死を超越した大魔術師の成れの果て。その圧倒的な存在感と、肌を刺すような魔力の圧に、小雪さんはごくりと喉を鳴らしました。
「…だれじゃぁ…わしの眠りを妨げる、愚か者は…」
乾いた骨が擦れ合うような、しかし部屋全体を震わせる声が響きます。リッチとなったその主は、アストリナの民から「怪物」と恐れられた、ユーノくんの曽祖父、先々代の領主その人でした。
リッチの蒼い光が、ユーノくんの姿を捉え、ぴたりと止まります。
「…おまえ…オットーか? いや…最後に会った時より、ずいぶんと…小さくなったのぅ? んんん? おぬし、何者じゃぁ?」
「オットーは、僕のおじいちゃんだよ! ひいおじいちゃん!」
「…むむむ。そうか、わしはそんなにも長く眠っておったか。と、いうことは、おぬしはわしのひ孫かえ? こんな、わしの魂の安息所にまで足を踏み入れるとは…いったい、何の用じゃ?」
「ひいおじいちゃん。実は…」
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