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9章 狩人も冒険ではちゃめちゃになってしまうお話
162:討伐
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空が白み始め、山間の集落に朝を告げる鳥たちの、控えめなさえずりが聞こえてきます。古びた宿屋の一室、その簡素な寝台の上で、獣人族の狩人シャイラさんは、ゆっくりと意識を取り戻しました。
最初に感じたのは、自らの身体を内側から焼き尽くすかのような、とろりと甘い熱の奔流。そして、その熱の源である巨大な異物が、昨夜の狂乱の記憶と共に、今なお自らの最も奥深い場所で、どくん、どくん、と力強く脈打っているという、あまりにも淫らで、圧倒的な現実でした。
「ん……んぅ……♡」
鉛のように重いまぶたをなんとかこじ開けると、ランプの頼りない灯りに照らされた、見慣れない木の天井が目に入ります。視線を横に向ければ、床に転がされた村人たちが縄で縛られ、静かな寝息を立てているのが見えました。そして、寝台の脇の椅子に腰かけ、腕を組んだままこちらをじっと見つめている、ごつごつとした岩のような男の、人相の悪い顔。そのすべてが、昨夜の出来事が、決して夢ではなかったことを物語っていました。
「……起きたか」
低く、不愛想な声。その声を聞いた瞬間、シャイラさんの小麦色の頬は、かあっと沸騰するように熱くなります。昨夜の、自分の、あまりにも破廉恥な姿。許嫁がいるにも関わらず、目の前の男に媚びへつらい、自らその巨躯に跨り、何度も何度も快楽を貪った記憶。そのすべてが、鮮明な映像となって脳裏に蘇り、彼女は羞恥のあまり、シーツを頭まで引き被ってしまいました。
(う、うそ……アタシ、あんなこと……♡♡♡)
しかし、驚くべきことに、あれほど激しく、夜が明けるまで貪られ続けたというのに、彼女の身体に疲労の色はほとんどありませんでした。腰や足の付け根に、心地よい気だるさと、甘い痺れが残っているだけ。獣人族ならではの、常人離れした回復力と体力は、一夜にしてその肉体をほぼ完全に癒してしまっていたのです。ただ一つ、癒えることのない呪いを、その魂の奥深くに刻みつけて。
おじさんは、そんなシャイラさんの様子を、少しだけ目を見開いて観察していました。常人の女性であれば、廃人同然になっていてもおかしくないほどの、常軌を逸した交合。それを経てなお、こうして平然と(本人は羞恥で死にそうですが)意識を取り戻した彼女の生命力に、さすがの彼も若干の驚きを隠せないようでした。
「……ご、ごめ……なさい……」
シーツの中から、蚊の鳴くような声で謝罪します。しかし、身体の奥で燃え盛る淫らな疼きは、一向に収まる気配がありません。むしろ、彼の存在を意識したことで、じゅわ、じゅわと、止めどなく蜜が溢れ出し、シーツをじっとりと濡らしていきます。
「謝る必要はない。あれは、魔物の精神干渉と、あんたに仕込まれた呪いのせいだ。あんたの責任じゃない」
ぶっきらぼうな、しかし不思議な説得力のある声でした。
「それより、日が昇りきる前に、かたをつける。準備しろ」
その言葉に、シャイラさんは、はっと我に返りました。そうです。感傷に浸っている暇などないのです。この忌まわしい呪いの元凶を断ち、故郷に送るための報酬を、確実に手に入れなければ。彼女は、プロの狩人としての意識を無理やり奮い立たせると、シーツの中から這い出し、手早く身支度を整え始めたのでした。
◇◇◇
二人は、夜明け前の薄闇が残る中、行動を開始しました。幸い、昨夜の精神干渉のおかげで、魔物の正体とその本拠地は、既におおよそ割れています。ギルドから支給された、鳥の嘴のような形状の特殊なマスクを装着すると、鼻を突く瘴気の甘ったるい匂いが、薬草フィルターの苦い香りに中和されていきました。
「行くぞ」
「……ああ」
短いやり取りを交わし、二人は瘴気が霧のように立ち込める森へと足を踏み入れます。森の中は、異様な静寂に包まれていました。鳥の声も、虫の音も聞こえません。植物は、まるで苦しむかのようにねじ曲がり、その葉は毒々しい紫色に変色しています。吸い込む空気は重く、湿っており、肌にまとわりつくようでした。
やがて、森を抜けた先に、目的の旧修道院廃墟が、巨大な亡霊のようにその姿を現しました。風雪に晒された黒い花崗岩の壁は、朝日に照らされてもなお、禍々しい影を落としています。半ばから崩れ落ちた鐘楼が、まるで天を突く巨大な墓標のようでした。
廃墟の入り口で、二人は再び足を止めます。そして、懐から取り出した『静心の霊薬』を、一気に呷りました。凍てつく冬の夜のような冷たい液体が喉を滑り落ち、呪いによって火照った身体の芯が、少しだけ静まるのを感じます。続いて、黒水晶のレンズがはめ込まれた、銀縁の眼鏡を装着しました。
「……」
やはり、この男に、知的なデザインの眼鏡は驚くほど似合いません。その滑稽な姿に、シャイラさんの緊張が、ほんの少しだけ和らぎました。
当初の予定では、シャイラさんが先行し、おじさんが後方から援護するはずでした。しかし、昨夜の一件で、魔物が物理的な攻撃力を持たない、純粋な精神攻撃タイプの魔物であることが判明しています。
「予定変更だ。俺が前に出る。あんたは、俺の背後から、寸分の狂いもなく、奴の眼球だけを射抜け。できるな?」
「……当然だ」
おじさんは、背負っていた荷物から、油をたっぷりと染み込ませた松明を二本取り出すと、その両端に火を灯しました。ぼう、という音と共に、二つの炎が闇を払い、彼のいかつい顔に、深い陰影を刻みます。
最初に感じたのは、自らの身体を内側から焼き尽くすかのような、とろりと甘い熱の奔流。そして、その熱の源である巨大な異物が、昨夜の狂乱の記憶と共に、今なお自らの最も奥深い場所で、どくん、どくん、と力強く脈打っているという、あまりにも淫らで、圧倒的な現実でした。
「ん……んぅ……♡」
鉛のように重いまぶたをなんとかこじ開けると、ランプの頼りない灯りに照らされた、見慣れない木の天井が目に入ります。視線を横に向ければ、床に転がされた村人たちが縄で縛られ、静かな寝息を立てているのが見えました。そして、寝台の脇の椅子に腰かけ、腕を組んだままこちらをじっと見つめている、ごつごつとした岩のような男の、人相の悪い顔。そのすべてが、昨夜の出来事が、決して夢ではなかったことを物語っていました。
「……起きたか」
低く、不愛想な声。その声を聞いた瞬間、シャイラさんの小麦色の頬は、かあっと沸騰するように熱くなります。昨夜の、自分の、あまりにも破廉恥な姿。許嫁がいるにも関わらず、目の前の男に媚びへつらい、自らその巨躯に跨り、何度も何度も快楽を貪った記憶。そのすべてが、鮮明な映像となって脳裏に蘇り、彼女は羞恥のあまり、シーツを頭まで引き被ってしまいました。
(う、うそ……アタシ、あんなこと……♡♡♡)
しかし、驚くべきことに、あれほど激しく、夜が明けるまで貪られ続けたというのに、彼女の身体に疲労の色はほとんどありませんでした。腰や足の付け根に、心地よい気だるさと、甘い痺れが残っているだけ。獣人族ならではの、常人離れした回復力と体力は、一夜にしてその肉体をほぼ完全に癒してしまっていたのです。ただ一つ、癒えることのない呪いを、その魂の奥深くに刻みつけて。
おじさんは、そんなシャイラさんの様子を、少しだけ目を見開いて観察していました。常人の女性であれば、廃人同然になっていてもおかしくないほどの、常軌を逸した交合。それを経てなお、こうして平然と(本人は羞恥で死にそうですが)意識を取り戻した彼女の生命力に、さすがの彼も若干の驚きを隠せないようでした。
「……ご、ごめ……なさい……」
シーツの中から、蚊の鳴くような声で謝罪します。しかし、身体の奥で燃え盛る淫らな疼きは、一向に収まる気配がありません。むしろ、彼の存在を意識したことで、じゅわ、じゅわと、止めどなく蜜が溢れ出し、シーツをじっとりと濡らしていきます。
「謝る必要はない。あれは、魔物の精神干渉と、あんたに仕込まれた呪いのせいだ。あんたの責任じゃない」
ぶっきらぼうな、しかし不思議な説得力のある声でした。
「それより、日が昇りきる前に、かたをつける。準備しろ」
その言葉に、シャイラさんは、はっと我に返りました。そうです。感傷に浸っている暇などないのです。この忌まわしい呪いの元凶を断ち、故郷に送るための報酬を、確実に手に入れなければ。彼女は、プロの狩人としての意識を無理やり奮い立たせると、シーツの中から這い出し、手早く身支度を整え始めたのでした。
◇◇◇
二人は、夜明け前の薄闇が残る中、行動を開始しました。幸い、昨夜の精神干渉のおかげで、魔物の正体とその本拠地は、既におおよそ割れています。ギルドから支給された、鳥の嘴のような形状の特殊なマスクを装着すると、鼻を突く瘴気の甘ったるい匂いが、薬草フィルターの苦い香りに中和されていきました。
「行くぞ」
「……ああ」
短いやり取りを交わし、二人は瘴気が霧のように立ち込める森へと足を踏み入れます。森の中は、異様な静寂に包まれていました。鳥の声も、虫の音も聞こえません。植物は、まるで苦しむかのようにねじ曲がり、その葉は毒々しい紫色に変色しています。吸い込む空気は重く、湿っており、肌にまとわりつくようでした。
やがて、森を抜けた先に、目的の旧修道院廃墟が、巨大な亡霊のようにその姿を現しました。風雪に晒された黒い花崗岩の壁は、朝日に照らされてもなお、禍々しい影を落としています。半ばから崩れ落ちた鐘楼が、まるで天を突く巨大な墓標のようでした。
廃墟の入り口で、二人は再び足を止めます。そして、懐から取り出した『静心の霊薬』を、一気に呷りました。凍てつく冬の夜のような冷たい液体が喉を滑り落ち、呪いによって火照った身体の芯が、少しだけ静まるのを感じます。続いて、黒水晶のレンズがはめ込まれた、銀縁の眼鏡を装着しました。
「……」
やはり、この男に、知的なデザインの眼鏡は驚くほど似合いません。その滑稽な姿に、シャイラさんの緊張が、ほんの少しだけ和らぎました。
当初の予定では、シャイラさんが先行し、おじさんが後方から援護するはずでした。しかし、昨夜の一件で、魔物が物理的な攻撃力を持たない、純粋な精神攻撃タイプの魔物であることが判明しています。
「予定変更だ。俺が前に出る。あんたは、俺の背後から、寸分の狂いもなく、奴の眼球だけを射抜け。できるな?」
「……当然だ」
おじさんは、背負っていた荷物から、油をたっぷりと染み込ませた松明を二本取り出すと、その両端に火を灯しました。ぼう、という音と共に、二つの炎が闇を払い、彼のいかつい顔に、深い陰影を刻みます。
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