無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!

夏見ナイ

文字の大きさ
19 / 101

第19話:一皿の奇跡

「最高のオムライスを、作りましょう!」

私の力強い返事を受けて、その日の午後の厨房は、さながら戦場のような熱気に包まれた。レオン様の信頼に応えたい。病気の子供を、私の料理で笑顔にしたい。その一心で、私は持てる知識と技術の全てを注ぎ込んでいた。

今回の相手は、食欲のない小さな子供だ。ただ美味しいだけではいけない。栄養があり、そして何よりも消化に良いことが求められる。

「マルタさん、この白米もどきを、いつもより少しだけ水分を多めにして炊いてください」
「はい、アリア様!」

侍女たちも、事情を聞いて全面的に協力してくれた。彼女たちの目もまた、使命感に燃えている。

私はチキンライスに入れる具材に、いつも以上に気を配った。鶏肉は脂肪の少ない胸肉を選び、繊維を断ち切るように細かく叩く。人参、玉ねぎもどき、そして滋養のある根菜を数種類、形がなくなるまですりおろし、スープでコトコトと煮込んでペースト状にした。これをチキンライスに混ぜ込めば、子供は気づかずにたっぷりの栄養を摂ることができるはずだ。

味付けの要であるケチャップもどきも、特別製だ。酸味を少しだけ抑え、果実の蜜を加えて、より子供が好みそうなまろやかな甘さに調整した。

卵は、マルタが離宮で飼っている鶏が生んだ、とびきり新鮮なものを用意してくれた。黄身の色が濃く、見るからに栄養満点だ。これをたっぷりの乳草の汁と混ぜ合わせれば、雲のようにふわふわな、究極のオムレツになるだろう。

全ての準備が整った頃には、空はオレンジ色に染まり始めていた。

「アリア様、陛下がお呼びです」

マルタの声に、私は頷いた。完成したばかりのチキンライスとケチャップもどき、そして卵を保温性の高い魔法の容器に入れ、バスケットに詰める。温かいものを、温かいまま届けてあげたい。

レオン様が待っていたのは、離宮の裏口だった。しかし、そこにいたのはいつもの皇帝の姿ではなかった。

「レオン、様…?」

彼は上質な絹のシャツに、革のベスト、そして動きやすそうなズボンという、まるで裕福な商人のような出で立ちだった。銀色の髪はフード付きの簡素なマントで隠されている。皇帝の威厳は鳴りを潜め、今はただの美しい青年がそこにいた。

「あまり、ジロジロ見るな。落ち着かん」

彼は少し気恥ずかしそうに、そっぽを向いた。その仕草がなんだか新鮮で、私は思わず笑みがこぼれた。

「私にも、着替えが用意してあります。平民の娘のように、と」

マルタに促され、私も用意された部屋で服を着替えた。質素だが清潔な、町娘が着るようなワンピース。王女のドレスより、今の私にはこちらのほうがずっとしっくりくる。

私たちが連れられたのは、城下の一角にある、こぢんまりとした家だった。質素だが、窓辺に飾られた小さな花が、この家に住む人の丁寧な暮らしぶりを物語っている。

レオンが扉を叩くと、中から疲れ切った様子の若い女性が出てきた。文官の奥さんだろう。彼女はレオンの姿を見ると、一瞬目を見開いたが、すぐにただの訪問者だと判断したのか、怪訝そうな顔をした。

「どなた様でしょうか」

「陛下より、ご子息へのお見舞いの品を預かって参った者だ」

レオンがマントのフードを少しだけずらし、威厳を込めて告げる。その声の響きに、女性ははっと息を呑んだ。目の前の男が、ただ者ではないことを瞬時に悟ったのだろう。隣には、彼女の夫である若い文官も、血の気の引いた顔で立っていた。

「へ、陛下が、なぜ我々のような者に…」

「息子のことを、ご存じで…?」

夫婦は混乱し、恐縮しきっていた。

「陛下の御心遣いです。さあ、冷めないうちに。こちらは、宮廷一の料理人です」

レオンはそう言って、私を前に押し出した。私はバスケットを手に、深々と頭を下げる。

「アリアと申します。お子さんのために、お腹が元気になる魔法の料理を作ってまいりました」

夫婦は半信半疑のまま、それでも私たちを家の中へと招き入れてくれた。

案内された寝室には、小さなベッドで五歳くらいの男の子がぐったりと横たわっていた。熱で頬は赤く上気し、額には汗が滲んでいる。浅く、苦しそうな呼吸を繰り返していた。

「レオ、お見舞いの方が来てくださったわよ」

母親が優しく声をかけるが、レオと呼ばれた男の子は億劫そうに目を開けるだけで、すぐにまた閉じてしまう。

「申し訳ありません。ここ数日、水以外は何も口にしてくれなくて…」

母親は涙ぐみながら言った。その姿に、私の胸はきゅっと締め付けられた。

私は静かにベッドのそばに膝をつくと、バスケットから魔法の容器を取り出した。蓋を開けた瞬間、ケチャップの甘酸っぱい香りが、ふわりと病室に広がる。

レオの鼻が、ぴくりと動いた。

私は温かいチキンライスを皿に盛り付け、その場で手早くオムレツを焼き、ご飯の上に乗せた。そして、仕上げの魔法。

「レオ君、見ていてね」

私は小瓶に入ったケチャップもどきで、オムライスの空いたスペースに、ぴょんぴょんと跳ねる可愛らしいウサギの絵を描いてみせた。

「わあ……」

母親から、小さな感嘆の声が漏れた。

ベッドの上で、レオの目がゆっくりと開かれた。その虚ろだった瞳が、皿の上の黄色と赤の鮮やかな光景を捉え、ほんの少しだけ、本当にわずかに、好奇心の光を宿した。

「一口だけ、食べてみない? ウサギさんが、レオ君に元気になあれって言ってるわ」

私が優しく語りかけると、母親も「一口だけ、ね?」と頷き、スプーンで小さな一口をすくって、息子の口元へと運んだ。

レオは最初、いやいやをするように首を振った。しかし、鼻先で香る甘酸っぱい匂いに抗えなかったのだろう。彼はためらいがちに、小さな口をほんの少しだけ開けた。

スプーンが、その口の中にそっと滑り込む。

そして、奇跡が起きた。

レオの動きが、ぴたりと止まった。彼の小さな体の中に、温かくて、優しくて、とびきり美味しい味が、染み渡っていく。

彼の目が、ゆっくりと見開かれていく。その瞳に、失われていた光が、確かな輝きとなって戻ってきた。

「……おいしい」

か細い、しかしはっきりとした声。

その一言に、母親の目から大粒の涙が溢れ落ちた。

「レオ……!」

レオは、母親の手からスプーンを奪うように取ると、今度は自らの手で、夢中でオムライスを口に運び始めた。小さな体には不釣り合いなほど、大きな一口で。その姿は、まるで長い冬眠から目覚めた小動物のようだった。

「おいしい、おいしいよ、お母さん!」

彼はあっという間に、一皿のオムライスを平らげてしまった。そして、ケチャップで汚れた口元で、久しぶりに母親に向かって、にかっと笑った。

その笑顔を見た瞬間、夫婦は堰を切ったように泣き崩れた。それは悲しみの涙ではない。喜びと、安堵の涙だった。

その光景の全てを、レオンは部屋の隅で、言葉もなく見つめていた。

彼の胸の中を、今まで感じたことのない激しい感情が渦巻いていた。

一皿の料理が、起こした奇跡。
権力でも、武力でも、富でも決して生み出すことのできない、温かい光景。

アリアの料理は、ただ腹を満たすだけのものではなかった。人の心を癒し、絶望に光を灯し、そして、笑顔を生み出す力がある。

彼女の存在そのものが、この冷たい帝国にとって、どれほど得難い宝であるか。彼は改めて、痛いほどに思い知らされた。

彼の心の中で、アリアへの想いが、確かな形を結ぼうとしていた。それはもう、単なる興味や庇護欲ではない。もっと深く、熱く、かけがえのないものへ。

「ありがとうございました…!本当に、ありがとうございました…!」

何度も頭を下げる夫婦に別れを告げ、私たちは帰路についた。城へと続く道は、美しい夕焼けに染まっていた。

しばらく、二人とも無言だった。今日の出来事が、お互いの胸に温かい余韻を残していた。

やがて、レオンが静かに口を開いた。

「ありがとう、アリア」

その声は、いつになく優しく、そして真摯だった。

「君は、俺の、そしてこの帝国の光だ」

その言葉に、私は驚いて顔を上げた。夕日に照らされた彼の横顔は、今まで見たどの姿よりも、美しく、そして頼もしく見えた。

私の頬が、夕焼けと同じくらい赤く染まっていく。私は何も言えず、ただ俯くことしかできなかった。

夕暮れの道を、二つの影が寄り添うように伸びていく。私たちの間に流れる空気が、今日を境に、少しだけ変わったことを、お互いに感じていた。
感想 47

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

愛を知らない「頭巾被り」の令嬢は最強の騎士、「氷の辺境伯」に溺愛される

守次 奏
恋愛
「わたしは、このお方に出会えて、初めてこの世に産まれることができた」  貴族の間では忌み子の象徴である赤銅色の髪を持って生まれてきた少女、リリアーヌは常に家族から、妹であるマリアンヌからすらも蔑まれ、その髪を隠すように頭巾を被って生きてきた。  そんなリリアーヌは十五歳を迎えた折に、辺境領を収める「氷の辺境伯」「血まみれ辺境伯」の二つ名で呼ばれる、スターク・フォン・ピースレイヤーの元に嫁がされてしまう。  厄介払いのような結婚だったが、それは幸せという言葉を知らない、「頭巾被り」のリリアーヌの運命を変える、そして世界の運命をも揺るがしていく出会いの始まりに過ぎなかった。  これは、一人の少女が生まれた意味を探すために駆け抜けた日々の記録であり、とある幸せな夫婦の物語である。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」様にも短編という形で掲載しています。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。