無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!

夏見ナイ

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第53話:姉妹の再会と侮辱

リンドブルム使節団の歓迎式典当日。王城ヴァイスフレアは、久しぶりの外交行事に華やかな雰囲気に包まれていた。

私はマルタに手伝ってもらって、皇太后様から賜ったばかりの深青色のドレスに身を包んでいた。星屑を散りばめた夜空のような美しいドレスだ。今の私には分不相応な気がしてならなかった。

「大丈夫です、アリア様。今のあなた様に一番お似合いのドレスですよ」

マルタは私の不安を見透かしたように、優しく微笑んでくれた。

謁見の間へ向かうと、そこにはすでに帝国の重鎮たちが集っていた。玉座にはレオン様が座り、その脇には宰相のエリオット様と騎士団長のギルバート様が控えている。三人の視線が私に気づいて、わずかに和らいだ。その事実が私の心を少しだけ強くしてくれた。

やがて扉が大きく開かれ、リンドブルム使節団が入場してきた。

その中心にいる人物を見て、私の心臓が大きく跳ねた。

燃えるような赤い髪を複雑に結い上げ、惜しげもなく宝石を飾っている。ドレスは帝国のどの貴婦人よりも豪華で、けばけばしいほどに華美だった。

イザベラ姉様。

彼女は少しも変わっていなかった。その傲慢なまでの美しさと、他者を見下すような冷たい翠の瞳。

彼女はまず玉座のレオン様の前へと進み出ると、これ以上ないほど優雅で媚びるような淑女の礼をしてみせた。

「ガルディナ帝国皇帝陛下におかれましては、ご健勝のこと心よりお慶び申し上げます。リンドブルム王国第一王女、イザベラにございます」

その声は猫が喉を鳴らすような甘ったるい響きを持っていた。しかし、レオン様の表情は氷のように微動だにしない。

形式的な挨拶が終わった後、イザベラはようやく私の存在に気づいたかのように、ゆっくりとこちらを振り返った。

「まあ、アリア。そこにいたのね」

その声には親愛の情など微塵もなかった。ただ、品定めをするような冷たい響きだけがあった。

私はそれでも、かすかな期待を胸に一歩前に出た。

「お久しぶりです、姉様。お元気そうで何よりです」

私がそう言って微笑みかけたその瞬間、イザベラの鼻がぴくりと動いた。そして扇で口元を隠し、聞こえよがしに言った。

「あなたこそ息災だったのね。でも、少し近寄らないでくださる? あなたから何だか……埃っぽくて甘ったるい、厨房のような匂いがするわ。王女としての嗜みもすっかり忘れてしまったのね」

その一言が鋭い氷の礫となって、私の胸に突き刺さった。

謁見の間の空気が一瞬で凍りつく。帝国の貴族たちが驚きと戸惑いの表情で、イザベラと私を交互に見ている。

私は言葉を失った。再会の第一声がこれだなんて。私の抱いていた淡い期待は、木っ端微塵に砕け散った。

イザベラは傷ついた私の表情を見て、満足そうに目を細めた。そして侍従に持たせていた豪奢な贈答品の箱を開けさせた。

「あなたのために故郷から贈り物を持ってきたのよ。きっと懐かしく思うでしょうから」

彼女が取り出したのは、私がリンドブルムにいた頃に使っていた古びた櫛やシミのついたドレスだった。公衆の面前で私がどれほどみすぼらしい生活をしていたかを、見せつけるための悪意に満ちた晒し上げだった。

そして最後に、彼女は小さな植木鉢を取り出した。中には根元からぽっきりと折れ、茶色く枯れてしまったハーブの苗が入っている。

「あら、大変。あなたが大切にしていたハーブ、長旅で枯れてしまったようですわ。まるで今のあなたみたいに、ね」

その残酷な言葉が、私の心の最後の防御壁を打ち砕いた。

目の前が真っ白になる。ああ、そうだ。この人はこういう人だった。私はこの人の前ではいつだって無力で惨めな存在でしかないのだ。

私が震える唇を噛み締め、俯いたその時だった。

「――無礼であろうッ!!」

地響きのような怒声が響き渡った。

声の主はギルバート様だった。彼は剣の柄に手をかけ、今にも飛び出さんばかりの勢いでイザベラを睨みつけていた。

「イザベラ王女! 貴様のその物言いは、我が帝国の至宝、アリア姫様に対する許しがたい侮辱である! 即刻その言葉を取り消せ!」

スイーツ騎士の忠義の咆哮。そのあまりの剣幕に、イザベラは一瞬怯んだように後ずさった。

続いて氷のように冷たい声が場を支配した。

「これはこれは、驚きましたな。リンドブルム王国の『友好親善』とは、随分と野蛮なものでございますね、イザベラ王女」

エリオット様が笑みを浮かべていない冷たい目で、イザベラを見据えていた。

「我が帝国の皇帝陛下が寵愛する聖女様に対する、その数々の暴言。外交儀礼に対する重大な違反として全て記録させていただきました。後の協議で正式な議題とさせていただきますので、ご承知おきを」

その言葉は優雅な脅迫だった。ギルバート様の熱い怒りとは違う、じわじわと相手を追い詰める冷たい恐怖。イザベラの顔から血の気が引いていくのが分かった。

そして、とどめの一撃が玉座から放たれた。

「イザベラ王女」

静かだった。しかしその声は謁見の間にいる全ての者の骨の髄まで凍りつかせるような、絶対的な威圧感を放っていた。

レオン様がゆっくりと玉座から立ち上がった。その蒼い瞳はもはや何の感情も映していない、絶対零度の光を宿している。

「その、汚れた口を慎まれよ」

その一言で、イザベラは完全に動きを止めた。

レオン様はゆっくりとした足取りで玉座を降りると、私の隣までやってきた。そして、まるで宝物でも守るかのように私の肩をそっと抱き寄せた。

「アリアは貴殿が侮辱してよい存在ではない」

彼の声は静かだが、揺るぎない響きを持っていた。

「彼女は我が帝国の光だ。そして――いずれ俺の隣に立ち、この国を共に治める未来の皇后となる女性だ」

その事実上の婚約宣言にも等しい言葉。

謁見の間は水を打ったように静まり返った。そして次の瞬間、帝国貴族たちの間から抑えきれない大きなどよめきが湧き上がった。

イザベラはその場で完全に凍りついていた。その美しい顔は驚愕と屈辱と、そして信じられないという色で醜く歪んでいた。

ありえない。

何が起きている?

なぜ皇帝が? 宰相が? 騎士団長が? あの無能なアリアを庇う?

彼女の完璧な計画は開始わずか数分で、木っ端微塵に砕け散った。彼女の侮辱はアリアを傷つけるどころか、逆に帝国におけるアリアの絶対的な地位を内外に知らしめる結果となったのだ。

周りを見れば帝国の貴族たちが、冷ややかな、そして嘲笑さえ含んだ視線を自分に向けている。

自分が完全に孤立している。この場所で自分だけが滑稽な道化を演じてしまったのだと。

イザベ-ラは、その事実をようやく理解した。

私の肩を抱くレオン様の腕は力強く、そして温かかった。

私は彼の胸に顔を埋めるようにしてその温もりを感じていた。涙が出そうだった。でも、それはもう悲しみや悔しさの涙ではない。

守られている。愛されている。

その、どうしようもなく温かい実感に私の心はただ満たされていた。

私はもう昔の、ただ虐げられるだけの無力な少女ではないのだ。
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