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第70話 新たな脅威と勝利の宴
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神聖教団――。
ゼノン王国の騎士から聞かされたその名は、黒いインクの染みのように、俺の心にじわりと広がっていった。
これまでの戦いは、領土や富を巡る、分かりやすいものだった。だが、次に訪れる戦いは、思想や正義をかけた、もっと根深く、厄介なものになるだろう。
執務室に、再び幹部たちが集められた。
俺は、騎士から聞いた話を、包み隠さず全員に伝えた。
「神聖教団、だと……?」
リリアが、眉間に深い皺を寄せる。
「聞いたことがない名だ。少なくとも、余が魔王として君臨していた頃には、そのような大きな力を持つ教団は存在しなかった。ここ数年で、急速に力をつけたということか……」
「『混沌を浄化する』、ですか」
フィーネが、静かに呟いた。
「その教義は、極めて排他的で、危険な響きを持っています。我らのような、多種族が共存する国家は、彼らにとって、まさに『混沌』の象徴に見えるのでしょう」
彼女の分析は、的を射ているようだった。
俺たちの存在そのものが、彼らの掲げる「正義」と、真っ向から対立するのだ。
「不思議な力を持つ幹部……」
アリアが、腕を組んで唸っている。
「私が旅をしていた頃も、たまにいました。生まれつき、特別な力を持った人たち。でも、それを組織的に使っているなんて……なんだか、すごく嫌な感じがします」
ゼノン王国という目に見える脅威の背後に、得体の知れない黒幕がいる。
その事実は、我々に新たな重圧を与えた。しかし、不思議と、誰も絶望はしていなかった。
「ふん。黒幕が神様だろうが悪魔だろうが、やることは変わらん」
ドルガンが、どっしりとした声で言った。
「奴らが五万で来るなら、こっちは五万を迎え撃つ準備をするまでじゃ。ワシは、ただ黙々と、最高の武具を打ち続ける。それだけよ」
その言葉に、皆が頷いた。そうだ。敵が誰であろうと、俺たちのやるべきことは変わらない。
この国を、この仲間たちを、守り抜く。ただ、それだけだ。
会議は、具体的な防衛策の検討へと移った。
フィーネは、魔法障壁のエネルギー効率をさらに高めるための改良案を提示した。リリアとアリアは、兵士たちの連携をより深めるための、新たな合同訓練メニューを考案し始めた。ドルガンは、対重装騎兵用の、より強力な長槍の開発に着手するという。
皆が、それぞれの持ち場で、次なる戦いに備え始めたのだ。
その日の夜。
俺は、前回のような大規模な宴は開かず、幹部たちだけで、ささやかな食事会を開いた。
テーブルに並ぶのは、自動調理キッチンが作った温かいシチューと、パンだけ。
だが、その雰囲気は、決して暗いものではなかった。
「……なあ」
俺は、皆に問いかけた。
「俺たちのやってることって、間違ってるのかな」
唐突な俺の問いに、皆が顔を上げる。
「俺たちは、ただ平穏に暮らしたいだけなのに。もしかしたら、俺たちが存在すること自体が、この世界の秩序を乱しているのかもしれない。神聖教団の言うように」
それは、俺の心にずっとあった、小さな不安だった。
その不安に、最初に答えたのは、アリアだった。
彼女は、シチューを頬張りながら、きっぱりと言った。
「間違ってなんかいません!」
そして、にっこりと笑う。
「だって、ユウト様の作る国は、こんなに温かくて、ご飯も美味しいですもん! これが間違ってるなんて言う人の方が、絶対に間違ってます!」
その、あまりにも単純で、しかし力強い言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
「ふん。勇者崩れの言うことにも、たまには一理あるな」
リリアが、口元に笑みを浮かべて同意する。
「世界の秩序など、知ったことか。余は、この国が好きだ。ユウト、貴様が作った、この騒々しくて、面倒で、だが……居心地のいい国がな。それを壊そうとする者がいるなら、神であろうと、容赦はせん」
「王の意志あるところに、アストレアはあります」
フィーネもまた、揺るぎない瞳で俺を見つめた。
仲間たちの、温かく、そして力強い言葉。
俺の心にあった最後の迷いは、完全に消え去った。
俺たちは、間違っていない。
俺たちが築き上げたこの国は、守る価値のある、最高の場所だ。
俺たちは、静かにグラスを打ち鳴らした。
それは、勝利を祝う杯ではない。
次なる戦いへ向けて、互いの絆と決意を確かめ合う、誓いの杯だった。
新たな脅威を前に、アストレアの結束は、かつてないほどに、強く、固く、なっていた。
ゼノン王国の騎士から聞かされたその名は、黒いインクの染みのように、俺の心にじわりと広がっていった。
これまでの戦いは、領土や富を巡る、分かりやすいものだった。だが、次に訪れる戦いは、思想や正義をかけた、もっと根深く、厄介なものになるだろう。
執務室に、再び幹部たちが集められた。
俺は、騎士から聞いた話を、包み隠さず全員に伝えた。
「神聖教団、だと……?」
リリアが、眉間に深い皺を寄せる。
「聞いたことがない名だ。少なくとも、余が魔王として君臨していた頃には、そのような大きな力を持つ教団は存在しなかった。ここ数年で、急速に力をつけたということか……」
「『混沌を浄化する』、ですか」
フィーネが、静かに呟いた。
「その教義は、極めて排他的で、危険な響きを持っています。我らのような、多種族が共存する国家は、彼らにとって、まさに『混沌』の象徴に見えるのでしょう」
彼女の分析は、的を射ているようだった。
俺たちの存在そのものが、彼らの掲げる「正義」と、真っ向から対立するのだ。
「不思議な力を持つ幹部……」
アリアが、腕を組んで唸っている。
「私が旅をしていた頃も、たまにいました。生まれつき、特別な力を持った人たち。でも、それを組織的に使っているなんて……なんだか、すごく嫌な感じがします」
ゼノン王国という目に見える脅威の背後に、得体の知れない黒幕がいる。
その事実は、我々に新たな重圧を与えた。しかし、不思議と、誰も絶望はしていなかった。
「ふん。黒幕が神様だろうが悪魔だろうが、やることは変わらん」
ドルガンが、どっしりとした声で言った。
「奴らが五万で来るなら、こっちは五万を迎え撃つ準備をするまでじゃ。ワシは、ただ黙々と、最高の武具を打ち続ける。それだけよ」
その言葉に、皆が頷いた。そうだ。敵が誰であろうと、俺たちのやるべきことは変わらない。
この国を、この仲間たちを、守り抜く。ただ、それだけだ。
会議は、具体的な防衛策の検討へと移った。
フィーネは、魔法障壁のエネルギー効率をさらに高めるための改良案を提示した。リリアとアリアは、兵士たちの連携をより深めるための、新たな合同訓練メニューを考案し始めた。ドルガンは、対重装騎兵用の、より強力な長槍の開発に着手するという。
皆が、それぞれの持ち場で、次なる戦いに備え始めたのだ。
その日の夜。
俺は、前回のような大規模な宴は開かず、幹部たちだけで、ささやかな食事会を開いた。
テーブルに並ぶのは、自動調理キッチンが作った温かいシチューと、パンだけ。
だが、その雰囲気は、決して暗いものではなかった。
「……なあ」
俺は、皆に問いかけた。
「俺たちのやってることって、間違ってるのかな」
唐突な俺の問いに、皆が顔を上げる。
「俺たちは、ただ平穏に暮らしたいだけなのに。もしかしたら、俺たちが存在すること自体が、この世界の秩序を乱しているのかもしれない。神聖教団の言うように」
それは、俺の心にずっとあった、小さな不安だった。
その不安に、最初に答えたのは、アリアだった。
彼女は、シチューを頬張りながら、きっぱりと言った。
「間違ってなんかいません!」
そして、にっこりと笑う。
「だって、ユウト様の作る国は、こんなに温かくて、ご飯も美味しいですもん! これが間違ってるなんて言う人の方が、絶対に間違ってます!」
その、あまりにも単純で、しかし力強い言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
「ふん。勇者崩れの言うことにも、たまには一理あるな」
リリアが、口元に笑みを浮かべて同意する。
「世界の秩序など、知ったことか。余は、この国が好きだ。ユウト、貴様が作った、この騒々しくて、面倒で、だが……居心地のいい国がな。それを壊そうとする者がいるなら、神であろうと、容赦はせん」
「王の意志あるところに、アストレアはあります」
フィーネもまた、揺るぎない瞳で俺を見つめた。
仲間たちの、温かく、そして力強い言葉。
俺の心にあった最後の迷いは、完全に消え去った。
俺たちは、間違っていない。
俺たちが築き上げたこの国は、守る価値のある、最高の場所だ。
俺たちは、静かにグラスを打ち鳴らした。
それは、勝利を祝う杯ではない。
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