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第18話 非戦闘員の戦い方
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絶望的な状況。村の若者たちは泥濘に沈み、巨大な魔物はゆっくりと、しかし確実にこちらへ迫ってくる。その濁った目は、明らかに俺とセレスティアを次の獲物として捉えていた。
「ひっ……!」
隣でセレスティアが息を呑むのが分かった。彼女の手は恐怖で氷のように冷たくなっている。無理もない。あれほどの巨体と圧倒的な力を前にして、平常心でいられるはずがない。
だが、俺は冷静だった。むしろ、頭は驚くほど冴え渡っていた。パーティーにいた頃、絶体絶命の状況で活路を見出すのは、いつも俺の役目だったからだ。もちろん、俺の意見がアレクたちに採用されたことは一度もなかったが。
「セレスティア」
俺は、彼女の冷たい手を強く握りしめた。
「大丈夫だ。俺を信じろ」
俺の落ち着いた声に、彼女ははっとしたように顔を上げた。その青い瞳が、不安げに俺を見つめている。俺は彼女にだけ聞こえる声で、はっきりと指示を出した。
「浄化の魔法を、拡散させるな。一本の光の槍をイメージしろ。それを、あいつの頭に叩き込むんだ」
「ひ、光の槍……? 頭に……?」
セレスティアは戸惑ったように聞き返した。彼女の浄化魔法は、本来広範囲を清めるためのものだ。それを攻撃的に、一点に集中させて使うなど、考えたこともなかったのだろう。
「ああ。あの泥の鎧は、物理攻撃は通さない。だが、君の聖なる力には弱いはずだ。防御を無視して、直接ダメージを与えられるかもしれない。たとえ倒せなくても、あの泥を剥がせれば好都合だ」
俺の簡潔な説明に、セレスティアは一瞬で意図を理解した。彼女の瞳から、恐怖の色が消え、代わりに強い決意の光が宿る。俺への絶対的な信頼が、彼女の迷いを打ち払ったのだ。
「……はい! リアム様!」
彼女は力強く頷くと、再び祈りの言葉を紡ぎ始めた。その間にも、ヘドロ・リザードは数メートル先まで迫っていた。グオオ、と地響きのような唸り声を上げ、巨大な口を開く。またあの呪いのブレスが来る。
「今だ! やれ!」
俺が叫んだのと、セレスティアが目を開いたのは、ほぼ同時だった。
「貫け――『ホーリーランス』!」
彼女の手から放たれたのは、もはや浄化の光ではなかった。眩いばかりの光が極限まで収束され、一本の鋭い槍となって空を切り裂いた。それは、まさに神罰の雷霆だった。
光の槍は、ヘドロ・リザードがブレスを吐き出すよりも速く、寸分の狂いもなくその頭部へと突き刺さった。
ジュウウウウウウウッ!
肉が焼けるような、凄まじい音が響き渡る。分厚いヘドロの鎧が、聖なる光に触れて激しく蒸発していく。魔物は断末魔の悲鳴を上げ、その巨体を苦痛にもだえさせた。
やがて光が収まった時、ヘドロ・リザードの頭部には、直径一メートルほどの穴が空いていた。分厚い泥の鎧は完全に消し飛び、その下から濡れたような光沢を放つ、黒い鱗に覆われた本体が露出している。そして、その中心には、弱点だと一目で分かる巨大な赤い眼球が、怒りに燃えてぎらついていた。
「やったな!」
俺は確かな手応えを感じた。だが、まだだ。これだけでは倒せない。
「セレスティア、次の準備だ!」
俺はすぐさま、次の指示を出す。
「今度は支援魔法を! 倒れている皆に、力の祝福『ブレス』をかけてくれ!」
「はい!」
セレスティアは即座に反応し、再び祈りを捧げ始めた。彼女の身体から放たれた温かい光が、泥濘に倒れ伏す若者たち一人一人の上へと降り注いでいく。
その代償として、俺の身体には他人の生命力を無理やり活性化させる反動が流れ込んできた。それは、全身の血が逆流するかのような強烈な不快感だった。だが、俺は歯を食いしばって耐える。
そして、俺が代償を全て引き受けたことで、セレスティアの支援魔法は通常ではありえないほどの効果を発揮した。
「な……なんだ、これは……!?」
最初にやられたタロウという若者が、驚きの声を上げて身を起こした。彼の身体を苛んでいた痛みは消え、折れていたはずの腕も完全に治っている。それどころか、身体の奥から、今までに感じたことのないほどの力が漲ってくるのを感じていた。
「傷が……治ってる!」
「力が、みなぎってくるようだ……!」
他の若者たちも次々と立ち上がる。彼らは自分たちの身体に起きた奇跡に、信じられないといった表情を浮かべていた。
俺は、そんな彼らに向かって、腹の底から声を張り上げた。
「立てるか! まだ戦えるか!」
若者たちは、はっとしたように俺の方を見た。その目には、まだ戸惑いの色が浮かんでいる。
「今なら勝てる! 奴の弱点は頭だ! 俺が引きつける! お前たちは回り込んで、泥が剥がれた部分を集中して叩け! いいな!」
俺の言葉は、命令だった。有無を言わせぬ、絶対的な指揮官の言葉だった。
若者たちは、その気迫に押された。そして、自分たちの身体に満ち溢れる力に背中を押された。最初に突っ込んだタロウが、落ちていた剣を拾い上げ、雄叫びを上げる。
「うおおおおっ! みんな、行くぞ! あの兄さんの言う通りだ!」
その声に呼応するように、他の若者たちも武器を構え直した。その目には、もう恐怖はない。あるのは、勝利への確かな意志だけだった。
「よし、行け!」
俺の号令と共に、若者たちが再びヘドロ・リザードへと襲いかかる。だが、今度の彼らは、さっきまでの無謀なだけの若者たちではなかった。
俺はセレスティアの手を引いて、魔物の注意を引くように大きく横へと移動する。ヘドロ・リザードは俺たちを狙って鈍重な動きで身体の向きを変えようとするが、その隙を若者たちが見逃さない。
「今だ! 右から斬り込め!」
「左がお留守だぞ!」
彼らは互いに声を掛け合い、完璧な連携で魔物を翻弄する。強化された身体能力は、彼らを熟練の戦士へと変えていた。そして、その全ての攻撃が、俺の指示通り、露出した頭部の弱点へと正確に叩き込まれていく。
ギャオオオオオン!
有効打を受けたヘドロ・リザードが、苦痛に満ちた咆哮を上げた。
少し離れた場所で、村長が呆然とその光景を見ていた。
(馬鹿な……。あのリアムという青年は、剣も槍も持っておらん。ただ、そこに立って指示を出しているだけだ。それなのに……戦場の流れが、完全に彼に支配されている……!)
戦闘能力のない、ただの非戦闘員。その男が、たった数分で絶望的な戦況を覆し、村の若者たちを精鋭部隊へと変貌させた。その信じがたい光景に、村長はただ立ち尽くすことしかできなかった。
戦いの趨勢は、すでに決していた。
「ひっ……!」
隣でセレスティアが息を呑むのが分かった。彼女の手は恐怖で氷のように冷たくなっている。無理もない。あれほどの巨体と圧倒的な力を前にして、平常心でいられるはずがない。
だが、俺は冷静だった。むしろ、頭は驚くほど冴え渡っていた。パーティーにいた頃、絶体絶命の状況で活路を見出すのは、いつも俺の役目だったからだ。もちろん、俺の意見がアレクたちに採用されたことは一度もなかったが。
「セレスティア」
俺は、彼女の冷たい手を強く握りしめた。
「大丈夫だ。俺を信じろ」
俺の落ち着いた声に、彼女ははっとしたように顔を上げた。その青い瞳が、不安げに俺を見つめている。俺は彼女にだけ聞こえる声で、はっきりと指示を出した。
「浄化の魔法を、拡散させるな。一本の光の槍をイメージしろ。それを、あいつの頭に叩き込むんだ」
「ひ、光の槍……? 頭に……?」
セレスティアは戸惑ったように聞き返した。彼女の浄化魔法は、本来広範囲を清めるためのものだ。それを攻撃的に、一点に集中させて使うなど、考えたこともなかったのだろう。
「ああ。あの泥の鎧は、物理攻撃は通さない。だが、君の聖なる力には弱いはずだ。防御を無視して、直接ダメージを与えられるかもしれない。たとえ倒せなくても、あの泥を剥がせれば好都合だ」
俺の簡潔な説明に、セレスティアは一瞬で意図を理解した。彼女の瞳から、恐怖の色が消え、代わりに強い決意の光が宿る。俺への絶対的な信頼が、彼女の迷いを打ち払ったのだ。
「……はい! リアム様!」
彼女は力強く頷くと、再び祈りの言葉を紡ぎ始めた。その間にも、ヘドロ・リザードは数メートル先まで迫っていた。グオオ、と地響きのような唸り声を上げ、巨大な口を開く。またあの呪いのブレスが来る。
「今だ! やれ!」
俺が叫んだのと、セレスティアが目を開いたのは、ほぼ同時だった。
「貫け――『ホーリーランス』!」
彼女の手から放たれたのは、もはや浄化の光ではなかった。眩いばかりの光が極限まで収束され、一本の鋭い槍となって空を切り裂いた。それは、まさに神罰の雷霆だった。
光の槍は、ヘドロ・リザードがブレスを吐き出すよりも速く、寸分の狂いもなくその頭部へと突き刺さった。
ジュウウウウウウウッ!
肉が焼けるような、凄まじい音が響き渡る。分厚いヘドロの鎧が、聖なる光に触れて激しく蒸発していく。魔物は断末魔の悲鳴を上げ、その巨体を苦痛にもだえさせた。
やがて光が収まった時、ヘドロ・リザードの頭部には、直径一メートルほどの穴が空いていた。分厚い泥の鎧は完全に消し飛び、その下から濡れたような光沢を放つ、黒い鱗に覆われた本体が露出している。そして、その中心には、弱点だと一目で分かる巨大な赤い眼球が、怒りに燃えてぎらついていた。
「やったな!」
俺は確かな手応えを感じた。だが、まだだ。これだけでは倒せない。
「セレスティア、次の準備だ!」
俺はすぐさま、次の指示を出す。
「今度は支援魔法を! 倒れている皆に、力の祝福『ブレス』をかけてくれ!」
「はい!」
セレスティアは即座に反応し、再び祈りを捧げ始めた。彼女の身体から放たれた温かい光が、泥濘に倒れ伏す若者たち一人一人の上へと降り注いでいく。
その代償として、俺の身体には他人の生命力を無理やり活性化させる反動が流れ込んできた。それは、全身の血が逆流するかのような強烈な不快感だった。だが、俺は歯を食いしばって耐える。
そして、俺が代償を全て引き受けたことで、セレスティアの支援魔法は通常ではありえないほどの効果を発揮した。
「な……なんだ、これは……!?」
最初にやられたタロウという若者が、驚きの声を上げて身を起こした。彼の身体を苛んでいた痛みは消え、折れていたはずの腕も完全に治っている。それどころか、身体の奥から、今までに感じたことのないほどの力が漲ってくるのを感じていた。
「傷が……治ってる!」
「力が、みなぎってくるようだ……!」
他の若者たちも次々と立ち上がる。彼らは自分たちの身体に起きた奇跡に、信じられないといった表情を浮かべていた。
俺は、そんな彼らに向かって、腹の底から声を張り上げた。
「立てるか! まだ戦えるか!」
若者たちは、はっとしたように俺の方を見た。その目には、まだ戸惑いの色が浮かんでいる。
「今なら勝てる! 奴の弱点は頭だ! 俺が引きつける! お前たちは回り込んで、泥が剥がれた部分を集中して叩け! いいな!」
俺の言葉は、命令だった。有無を言わせぬ、絶対的な指揮官の言葉だった。
若者たちは、その気迫に押された。そして、自分たちの身体に満ち溢れる力に背中を押された。最初に突っ込んだタロウが、落ちていた剣を拾い上げ、雄叫びを上げる。
「うおおおおっ! みんな、行くぞ! あの兄さんの言う通りだ!」
その声に呼応するように、他の若者たちも武器を構え直した。その目には、もう恐怖はない。あるのは、勝利への確かな意志だけだった。
「よし、行け!」
俺の号令と共に、若者たちが再びヘドロ・リザードへと襲いかかる。だが、今度の彼らは、さっきまでの無謀なだけの若者たちではなかった。
俺はセレスティアの手を引いて、魔物の注意を引くように大きく横へと移動する。ヘドロ・リザードは俺たちを狙って鈍重な動きで身体の向きを変えようとするが、その隙を若者たちが見逃さない。
「今だ! 右から斬り込め!」
「左がお留守だぞ!」
彼らは互いに声を掛け合い、完璧な連携で魔物を翻弄する。強化された身体能力は、彼らを熟練の戦士へと変えていた。そして、その全ての攻撃が、俺の指示通り、露出した頭部の弱点へと正確に叩き込まれていく。
ギャオオオオオン!
有効打を受けたヘドロ・リザードが、苦痛に満ちた咆哮を上げた。
少し離れた場所で、村長が呆然とその光景を見ていた。
(馬鹿な……。あのリアムという青年は、剣も槍も持っておらん。ただ、そこに立って指示を出しているだけだ。それなのに……戦場の流れが、完全に彼に支配されている……!)
戦闘能力のない、ただの非戦闘員。その男が、たった数分で絶望的な戦況を覆し、村の若者たちを精鋭部隊へと変貌させた。その信じがたい光景に、村長はただ立ち尽くすことしかできなかった。
戦いの趨勢は、すでに決していた。
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