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第45話 日常と恋の予感③
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ルナリエルから不器用なプレゼントをもらった翌日。村は朝から快晴に恵まれ、気持ちの良い青空が広がっていた。
俺は村の子供たちに頼まれて、木製の小さな剣を作ってやっていた。もちろん刃はついていない、ただの遊び道具だ。ルナリエルの剣技を真似てチャンバラごっこをするのが、最近の子供たちの間での流行りだった。
そんな俺の元へ、アイリスが満面の笑みで駆け寄ってきた。その背後には相棒のフレアが静かに控えている。
「リアムさん! いいお天気ですね!」
「ああ、本当だな。絶好の畑仕事日和だ」
「もう、リアムさんはそればっかりですね!」
アイリスは楽しそうにころころと笑う。彼女の天真爛漫な笑顔は、見ているだけでこちらの心まで明るくしてくれるようだった。
彼女は何かを期待するような、キラキラとした瞳で俺を見上げてきた。
「ねえ、リアムさん。今日は、お仕事お休みしませんか?」
「え? でも、やることはまだたくさん……」
「たまにはいいじゃないですか! その……お、お願いがあるんです」
彼女は少しだけ頬を赤らめ、もじもじしながら言った。
「フレアに乗って、空の散歩に行きませんか? ……ふ、二人きりで」
その誘いはあまりにも唐突で、そしてあまりにも魅力的だった。
空の散歩。竜の背に乗って大空を飛ぶ。それは男なら誰しもが一度は夢見る冒険だろう。
俺が返答に窮していると、アイリスは俺の腕を掴みぶんぶんと揺さぶった。
「ダメですか……? リアムさんに、わたしとフレアが見ている一番素敵な景色を、見せてあげたいんです!」
その純粋な瞳で見つめられて、断れるはずもなかった。
「……分かったよ。少しだけなら」
俺がそう言うと、彼女は「やったー!」と子供のようにはしゃいだ。
俺たちは村から少し離れた、開けた草原へと向かった。そこはフレアが離着陸するために使っている、彼専用の滑走路のような場所だった。
「さあ、リアムさん、乗ってください!」
アイリスに促され、俺はおそるおそるフレアの背中に跨った。真紅の鱗は太陽の光を浴びて温かく、思ったよりも滑らかだった。俺が前に乗り、その後ろにアイリスがぴったりとくっつくようにして乗る。彼女の華奢な身体の感触とシャンプーの甘い香りが、すぐ背後から伝わってきて心臓がどきりと跳ねた。
「しっかり掴まっててくださいね! 行っくよー、フレア!」
アイリスの快活な合図と共に、フレアが力強く地面を蹴った。ふわりと身体が宙に浮く感覚。次の瞬間、巨大な翼が風を捉え、俺たちの身体はぐんぐんと空へと舞い上がっていった。
「う、うおおおおっ!」
思わず声が漏れる。眼下に自分たちが住む村が、まるでおもちゃのように小さくなっていく。森が緑の絨毯のように広がり、遠くには先日浄化した湖が翠玉のようにきらきらと輝いている。
風が心地よく頬を撫でていく。地上とは全く違う、どこまでも広がる青の世界。それは俺がこれまで見たどんな景色よりも壮大で美しかった。
「すごい……! すごいな、アイリス!」
俺が興奮して叫ぶと、背後からアイリスの楽しそうな笑い声が聞こえた。
「でしょー! これがわたしたちのいつもの景色なんです!」
彼女は俺の腰に回した腕に、ぎゅっと力を込めた。
「リアムさん、もっと高く飛ぶから、しっかり掴まってて!」
フレアはさらに高度を上げていく。やがて雲の中に突入した。ひんやりとした霧が身体を包み視界が真っ白になる。そして、その雲を突き抜けた瞬間、俺は言葉を失った。
そこにはどこまでも広がる雲の海が広がっていた。白い綿のような雲が太陽の光を浴びて金色に輝いている。まるで神々の住む世界に迷い込んでしまったかのようだった。
俺は、そのあまりの美しさにただただ見とれていた。
しばらく俺たちは言葉もなく、その幻想的な空中散歩を楽しんだ。風の音とフレアの穏やかな羽ばたきの音だけが、世界に響いている。
やがてアイリスが、俺の耳元で静かに囁いた。
「……リアムさん」
「ん?」
「わたし、ここに来るまで空を飛ぶのが少しだけ怖かったんです」
その声はいつもの元気な彼女からは想像もつかないほどか細く、そして少しだけ寂しげだった。
「わたしのこの力は、一歩間違えれば全てを焼き尽くす力だから。空を飛ぶたびに、いつかこの血に呑まれてフレアと一緒に化け物になってしまうんじゃないかって……。いつも不安でした」
彼女は竜血の呪いに怯えていた頃の暗い過去を思い出しているのだろう。
「でも、今はもう怖くありません」
彼女は俺の背中に、自分の額をこつんと当てた。
「リアムさんがわたしの呪いを、その暴走する力を受け止めてくれたから。あなたがわたしを信じてくれたから。わたしは初めて自分の力を、この血を誇りに思うことができたんです」
その言葉は熱を帯びて、俺の心に直接響いてきた。
「だから、ありがとう、リアムさん。わたしに本当の空を教えてくれて」
それは彼女なりの最大限の感謝であり、そして一人の少女が命の恩人に向ける純粋でまっすぐな愛情の告白だった。
俺は何と答えればいいか分からず、ただ黙って眼下に広がる雲の海を見つめていた。
セレスティアの献身的で深い愛情。
ルナリエルの不器用でまっすぐな愛情。
そしてアイリスの天真爛漫で純粋な愛情。
三者三様の、しかしどれもが本物でかけがえのない想い。その全てが今、俺という一人の男に向けられていた。
俺は、この気持ちにどう応えればいいのだろう。
答えの出ない問いを抱えながら、俺はただ背中の温もりを感じていた。
俺たちの乗る赤い竜はゆっくりと旋回し、懐かしい我が家へと続く帰路につき始めた。
その様子を地上からソフィアが、何かを分析するような興味深そうな瞳で見上げていることに、空の上にいる俺はまだ気づいていなかった。
俺は村の子供たちに頼まれて、木製の小さな剣を作ってやっていた。もちろん刃はついていない、ただの遊び道具だ。ルナリエルの剣技を真似てチャンバラごっこをするのが、最近の子供たちの間での流行りだった。
そんな俺の元へ、アイリスが満面の笑みで駆け寄ってきた。その背後には相棒のフレアが静かに控えている。
「リアムさん! いいお天気ですね!」
「ああ、本当だな。絶好の畑仕事日和だ」
「もう、リアムさんはそればっかりですね!」
アイリスは楽しそうにころころと笑う。彼女の天真爛漫な笑顔は、見ているだけでこちらの心まで明るくしてくれるようだった。
彼女は何かを期待するような、キラキラとした瞳で俺を見上げてきた。
「ねえ、リアムさん。今日は、お仕事お休みしませんか?」
「え? でも、やることはまだたくさん……」
「たまにはいいじゃないですか! その……お、お願いがあるんです」
彼女は少しだけ頬を赤らめ、もじもじしながら言った。
「フレアに乗って、空の散歩に行きませんか? ……ふ、二人きりで」
その誘いはあまりにも唐突で、そしてあまりにも魅力的だった。
空の散歩。竜の背に乗って大空を飛ぶ。それは男なら誰しもが一度は夢見る冒険だろう。
俺が返答に窮していると、アイリスは俺の腕を掴みぶんぶんと揺さぶった。
「ダメですか……? リアムさんに、わたしとフレアが見ている一番素敵な景色を、見せてあげたいんです!」
その純粋な瞳で見つめられて、断れるはずもなかった。
「……分かったよ。少しだけなら」
俺がそう言うと、彼女は「やったー!」と子供のようにはしゃいだ。
俺たちは村から少し離れた、開けた草原へと向かった。そこはフレアが離着陸するために使っている、彼専用の滑走路のような場所だった。
「さあ、リアムさん、乗ってください!」
アイリスに促され、俺はおそるおそるフレアの背中に跨った。真紅の鱗は太陽の光を浴びて温かく、思ったよりも滑らかだった。俺が前に乗り、その後ろにアイリスがぴったりとくっつくようにして乗る。彼女の華奢な身体の感触とシャンプーの甘い香りが、すぐ背後から伝わってきて心臓がどきりと跳ねた。
「しっかり掴まっててくださいね! 行っくよー、フレア!」
アイリスの快活な合図と共に、フレアが力強く地面を蹴った。ふわりと身体が宙に浮く感覚。次の瞬間、巨大な翼が風を捉え、俺たちの身体はぐんぐんと空へと舞い上がっていった。
「う、うおおおおっ!」
思わず声が漏れる。眼下に自分たちが住む村が、まるでおもちゃのように小さくなっていく。森が緑の絨毯のように広がり、遠くには先日浄化した湖が翠玉のようにきらきらと輝いている。
風が心地よく頬を撫でていく。地上とは全く違う、どこまでも広がる青の世界。それは俺がこれまで見たどんな景色よりも壮大で美しかった。
「すごい……! すごいな、アイリス!」
俺が興奮して叫ぶと、背後からアイリスの楽しそうな笑い声が聞こえた。
「でしょー! これがわたしたちのいつもの景色なんです!」
彼女は俺の腰に回した腕に、ぎゅっと力を込めた。
「リアムさん、もっと高く飛ぶから、しっかり掴まってて!」
フレアはさらに高度を上げていく。やがて雲の中に突入した。ひんやりとした霧が身体を包み視界が真っ白になる。そして、その雲を突き抜けた瞬間、俺は言葉を失った。
そこにはどこまでも広がる雲の海が広がっていた。白い綿のような雲が太陽の光を浴びて金色に輝いている。まるで神々の住む世界に迷い込んでしまったかのようだった。
俺は、そのあまりの美しさにただただ見とれていた。
しばらく俺たちは言葉もなく、その幻想的な空中散歩を楽しんだ。風の音とフレアの穏やかな羽ばたきの音だけが、世界に響いている。
やがてアイリスが、俺の耳元で静かに囁いた。
「……リアムさん」
「ん?」
「わたし、ここに来るまで空を飛ぶのが少しだけ怖かったんです」
その声はいつもの元気な彼女からは想像もつかないほどか細く、そして少しだけ寂しげだった。
「わたしのこの力は、一歩間違えれば全てを焼き尽くす力だから。空を飛ぶたびに、いつかこの血に呑まれてフレアと一緒に化け物になってしまうんじゃないかって……。いつも不安でした」
彼女は竜血の呪いに怯えていた頃の暗い過去を思い出しているのだろう。
「でも、今はもう怖くありません」
彼女は俺の背中に、自分の額をこつんと当てた。
「リアムさんがわたしの呪いを、その暴走する力を受け止めてくれたから。あなたがわたしを信じてくれたから。わたしは初めて自分の力を、この血を誇りに思うことができたんです」
その言葉は熱を帯びて、俺の心に直接響いてきた。
「だから、ありがとう、リアムさん。わたしに本当の空を教えてくれて」
それは彼女なりの最大限の感謝であり、そして一人の少女が命の恩人に向ける純粋でまっすぐな愛情の告白だった。
俺は何と答えればいいか分からず、ただ黙って眼下に広がる雲の海を見つめていた。
セレスティアの献身的で深い愛情。
ルナリエルの不器用でまっすぐな愛情。
そしてアイリスの天真爛漫で純粋な愛情。
三者三様の、しかしどれもが本物でかけがえのない想い。その全てが今、俺という一人の男に向けられていた。
俺は、この気持ちにどう応えればいいのだろう。
答えの出ない問いを抱えながら、俺はただ背中の温もりを感じていた。
俺たちの乗る赤い竜はゆっくりと旋回し、懐かしい我が家へと続く帰路につき始めた。
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