57 / 100
第57話 エデン防衛戦
しおりを挟む
地平線の向こうから現れたバルカスの軍勢は、やがてその全貌を現した。三百の兵士が掲げる槍の穂先が朝日に鈍くきらめいている。統率は取れていないものの、その数は純粋な暴力として見る者に威圧感を与えた。
彼らはエデンの村が丘の上にあるのを見ると、麓に陣を敷いた。軍の中心には馬上でふんぞり返るバルカス本人の姿が見える。彼はまるで蟻の巣を見下ろすかのように、丘の上の俺たちを嘲笑っていた。
「見ろ、あの貧相な村を。あんなもの、半日もあれば蹂躙できるわ」
彼の傲慢な声が風に乗って微かに聞こえてくるようだった。
俺は防壁の上からその光景を冷静に見下ろしていた。俺の隣には村長と、弓を構えた村の若者たちが並んでいる。彼らの顔には緊張の色が浮かんでいたが、恐怖に怯える者は一人もいなかった。
「計画通り、まずは『狭間の谷』へ誘い込みます」
俺が静かに告げると、隣にいたアイリスがこくりと頷いた。
「はい、リアムさん! 派手にやってきますね!」
彼女はそう言うとフレアの背中にひらりと飛び乗った。真紅の幼竜は力強く翼を羽ばたかせ、一気に空へと舞い上がる。
太陽を背に赤い竜が降下してくる。その神々しいまでの姿に、麓の領主軍からどよめきが上がった。
「な、なんだ、あの竜は!?」
「報告にあった赤い竜か! 本当にいやがった!」
兵士たちが動揺する中、アイリスとフレアは彼らの頭上すれすれをかすめるように、挑発的な低空飛行を行った。
「やーい、この臆病者たち! わたしたちを捕まえられるものなら捕まえてみなさーい!」
アイリスの子供っぽい挑発の声が響き渡る。フレアもまた小さな火球を、兵士たちの足元にぽとりと落としてみせた。もちろん、誰にも当たらないように絶妙なコントロールで。
そのあからさまな挑発に、短気なバルカスが即座に食いついた。
「生意気な小娘が! 何をぼさっとしておる! 弓兵、撃ち落とせ! 騎馬隊は追撃しろ! あの竜を捕らえた者には褒美をくれてやる!」
彼の金切り声のような命令に、兵士たちが我先にと動き出した。弓兵が空に向かって矢を放つが、俊敏なフレアの動きにかすりもしない。騎馬隊は空を飛ぶ竜を追いかけて、無秩序に駆け出した。
「ふふん、思った通り単純ですね!」
アイリスは舌を出すとフレアを巧みに操り、敵の軍勢をゆっくりと『狭間の谷』へと誘導していく。そこは両側を切り立った崖に挟まれた一本道の隘路。伏兵を置くには、まさにうってつけの場所だった。
「よし、かかった!」
防壁の上からその様子を見ていた俺は、確かな手応えを感じた。
バルカスの軍勢は何の疑いも持たず、獲物を追う猟犬のように次々と谷の中へと進んでいく。先頭の騎馬隊が谷の中央に差し掛かった、その瞬間。
俺は右手を高く掲げ、そして力強く振り下ろした。
「――今だ!」
その合図を待っていたのは、谷の崖の上に潜んでいたソフィアだった。彼女は地面に描かれた巨大な魔法陣の上に立ち、静かに杖を掲げた。
「目覚めなさい、大地の怒りよ――『ランドスライド』!」
彼女の詠唱に応え、大地が咆哮を上げた。ズズズズズ……!という地響きと共に、谷の両側の崖が激しく震え、巨大な岩と土砂が滝のように谷底へと崩れ落ちていく。
それはもはや自然災害だった。
「な、なんだあっ!?」
「うわあああああっ!」
谷にいた兵士たちは何が起こったのか理解する間もなく、土砂の濁流に飲み込まれていった。土砂崩れは谷の入り口と出口を完全に塞ぎ、領主軍を前衛と後衛に完璧に分断した。
さらに、その混乱を好機と見た崖の上の第二陣が動く。
「放て!」
タロウの号令一下、崖の両側に潜んでいた村の弓兵たちが一斉に火矢を放った。無数の炎の矢が雨のように谷底へと降り注ぎ、孤立した敵の前衛部隊に追い打ちをかける。
「火だ! 火の手が!」
「囲まれた! 罠だ!」
敵陣は完全にパニックに陥っていた。指揮官は土砂に巻き込まれ、兵士たちはただ逃げ惑うだけ。もはや軍隊としての統制は完全に失われていた。
そしてその混乱の極みに、銀色の閃光が突き刺さった。
「――お掃除の時間よ」
ルナリエルだった。彼女は分断された敵の後衛部隊――バルカスがいる本隊の側面から、音もなく現れた。
彼女の剣はもはや人の領域を超えていた。彼女が駆け抜けた後には、武器を弾き飛ばされ、鎧を切り裂かれ、戦意を喪失して倒れ伏す兵士たちの山が築かれていくだけだった。
「ひ、ひいいいっ! 化け物だ!」
「逃げろ! こいつには勝てねえ!」
寄せ集めの傭兵たちは死の恐怖を前に、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「ま、待て! 逃げるな、貴様ら!」
馬上でその光景を見ていたバルカスは、顔を真っ青にしてわめき散らした。だが、もはや彼の声に耳を貸す者はいなかった。
俺たちのエデン防衛戦はこうして始まった。
それはもはや『戦い』と呼ぶのもおこがましい、一方的な蹂躙だった。
リアムの完璧な指揮。
アイリスの巧みな陽動。
ソフィアの圧倒的な古代魔法。
そして、ルナリエルの無慈悲な剣技。
俺たちがこれまで築き上げてきた全ての力が完璧なハーモニーを奏で、敵の軍勢を赤子の手をひねるように打ち破っていく。
防壁の上からその光景を見下ろしながら、俺は静かに拳を握りしめた。
これは、俺たちの楽園を守るための聖戦なのだ。
彼らはエデンの村が丘の上にあるのを見ると、麓に陣を敷いた。軍の中心には馬上でふんぞり返るバルカス本人の姿が見える。彼はまるで蟻の巣を見下ろすかのように、丘の上の俺たちを嘲笑っていた。
「見ろ、あの貧相な村を。あんなもの、半日もあれば蹂躙できるわ」
彼の傲慢な声が風に乗って微かに聞こえてくるようだった。
俺は防壁の上からその光景を冷静に見下ろしていた。俺の隣には村長と、弓を構えた村の若者たちが並んでいる。彼らの顔には緊張の色が浮かんでいたが、恐怖に怯える者は一人もいなかった。
「計画通り、まずは『狭間の谷』へ誘い込みます」
俺が静かに告げると、隣にいたアイリスがこくりと頷いた。
「はい、リアムさん! 派手にやってきますね!」
彼女はそう言うとフレアの背中にひらりと飛び乗った。真紅の幼竜は力強く翼を羽ばたかせ、一気に空へと舞い上がる。
太陽を背に赤い竜が降下してくる。その神々しいまでの姿に、麓の領主軍からどよめきが上がった。
「な、なんだ、あの竜は!?」
「報告にあった赤い竜か! 本当にいやがった!」
兵士たちが動揺する中、アイリスとフレアは彼らの頭上すれすれをかすめるように、挑発的な低空飛行を行った。
「やーい、この臆病者たち! わたしたちを捕まえられるものなら捕まえてみなさーい!」
アイリスの子供っぽい挑発の声が響き渡る。フレアもまた小さな火球を、兵士たちの足元にぽとりと落としてみせた。もちろん、誰にも当たらないように絶妙なコントロールで。
そのあからさまな挑発に、短気なバルカスが即座に食いついた。
「生意気な小娘が! 何をぼさっとしておる! 弓兵、撃ち落とせ! 騎馬隊は追撃しろ! あの竜を捕らえた者には褒美をくれてやる!」
彼の金切り声のような命令に、兵士たちが我先にと動き出した。弓兵が空に向かって矢を放つが、俊敏なフレアの動きにかすりもしない。騎馬隊は空を飛ぶ竜を追いかけて、無秩序に駆け出した。
「ふふん、思った通り単純ですね!」
アイリスは舌を出すとフレアを巧みに操り、敵の軍勢をゆっくりと『狭間の谷』へと誘導していく。そこは両側を切り立った崖に挟まれた一本道の隘路。伏兵を置くには、まさにうってつけの場所だった。
「よし、かかった!」
防壁の上からその様子を見ていた俺は、確かな手応えを感じた。
バルカスの軍勢は何の疑いも持たず、獲物を追う猟犬のように次々と谷の中へと進んでいく。先頭の騎馬隊が谷の中央に差し掛かった、その瞬間。
俺は右手を高く掲げ、そして力強く振り下ろした。
「――今だ!」
その合図を待っていたのは、谷の崖の上に潜んでいたソフィアだった。彼女は地面に描かれた巨大な魔法陣の上に立ち、静かに杖を掲げた。
「目覚めなさい、大地の怒りよ――『ランドスライド』!」
彼女の詠唱に応え、大地が咆哮を上げた。ズズズズズ……!という地響きと共に、谷の両側の崖が激しく震え、巨大な岩と土砂が滝のように谷底へと崩れ落ちていく。
それはもはや自然災害だった。
「な、なんだあっ!?」
「うわあああああっ!」
谷にいた兵士たちは何が起こったのか理解する間もなく、土砂の濁流に飲み込まれていった。土砂崩れは谷の入り口と出口を完全に塞ぎ、領主軍を前衛と後衛に完璧に分断した。
さらに、その混乱を好機と見た崖の上の第二陣が動く。
「放て!」
タロウの号令一下、崖の両側に潜んでいた村の弓兵たちが一斉に火矢を放った。無数の炎の矢が雨のように谷底へと降り注ぎ、孤立した敵の前衛部隊に追い打ちをかける。
「火だ! 火の手が!」
「囲まれた! 罠だ!」
敵陣は完全にパニックに陥っていた。指揮官は土砂に巻き込まれ、兵士たちはただ逃げ惑うだけ。もはや軍隊としての統制は完全に失われていた。
そしてその混乱の極みに、銀色の閃光が突き刺さった。
「――お掃除の時間よ」
ルナリエルだった。彼女は分断された敵の後衛部隊――バルカスがいる本隊の側面から、音もなく現れた。
彼女の剣はもはや人の領域を超えていた。彼女が駆け抜けた後には、武器を弾き飛ばされ、鎧を切り裂かれ、戦意を喪失して倒れ伏す兵士たちの山が築かれていくだけだった。
「ひ、ひいいいっ! 化け物だ!」
「逃げろ! こいつには勝てねえ!」
寄せ集めの傭兵たちは死の恐怖を前に、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「ま、待て! 逃げるな、貴様ら!」
馬上でその光景を見ていたバルカスは、顔を真っ青にしてわめき散らした。だが、もはや彼の声に耳を貸す者はいなかった。
俺たちのエデン防衛戦はこうして始まった。
それはもはや『戦い』と呼ぶのもおこがましい、一方的な蹂躙だった。
リアムの完璧な指揮。
アイリスの巧みな陽動。
ソフィアの圧倒的な古代魔法。
そして、ルナリエルの無慈悲な剣技。
俺たちがこれまで築き上げてきた全ての力が完璧なハーモニーを奏で、敵の軍勢を赤子の手をひねるように打ち破っていく。
防壁の上からその光景を見下ろしながら、俺は静かに拳を握りしめた。
これは、俺たちの楽園を守るための聖戦なのだ。
40
あなたにおすすめの小説
貴族に無茶苦茶なことを言われたのでやけくそな行動をしたら、戦争賠償として引き抜かれました。
詰んだ
ファンタジー
エルクス王国の魔法剣士で重鎮のキースは、うんざりしていた。
王国とは名ばかりで、元老院の貴族が好き勝手なこと言っている。
そしてついに国力、戦力、人材全てにおいて圧倒的な戦力を持つヴォルクス皇国に、戦争を仕掛けるという暴挙に出た。
勝てるわけのない戦争に、「何とか勝て!」と言われたが、何もできるはずもなく、あっという間に劣勢になった。
日を追うごとに悪くなる戦況に、キースへのあたりがひどくなった。
むしゃくしゃしたキースは、一つの案を思いついた。
その案を実行したことによって、あんなことになるなんて、誰も想像しなかった。
追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される
希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。
すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。
その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
聖水が「無味無臭」というだけで能無しと追放された聖女ですが、前世が化学研究者だったので、相棒のスライムと辺境でポーション醸造所を始めます
☆ほしい
ファンタジー
聖女エリアーナの生み出す聖水は、万物を浄化する力を持つものの「無味無臭」で効果が分かりにくいため、「能無し」の烙印を押され王都から追放されてしまう。
絶望の淵で彼女は思い出す。前世が、物質の配合を極めた化学研究者だったことを。
「この完璧な純水……これ以上の溶媒はないじゃない!」
辺境の地で助けたスライムを相棒に、エリアーナは前世の知識と「能無し」の聖水を組み合わせ、常識を覆す高品質なポーション作りを始める。やがて彼女の作るポーションは国を揺るがす大ヒット商品となり、彼女を追放した者たちが手のひらを返して戻ってくるよう懇願するが――もう遅い。
元公務員、辺境ギルドの受付になる 〜『受理』と『却下』スキルで無自覚に無双していたら、伝説の職員と勘違いされて俺の定時退勤が危うい件〜
☆ほしい
ファンタジー
市役所で働く安定志向の公務員、志摩恭平(しまきょうへい)は、ある日突然、勇者召喚に巻き込まれて異世界へ。
しかし、与えられたスキルは『受理』と『却下』という、戦闘には全く役立ちそうにない地味なものだった。
「使えない」と判断された恭平は、国から追放され、流れ着いた辺境の街で冒険者ギルドの受付職員という天職を見つける。
書類仕事と定時退勤。前世と変わらぬ平穏な日々が続くはずだった。
だが、彼のスキルはとんでもない隠れた効果を持っていた。
高難易度依頼の書類に『却下』の判を押せば依頼自体が消滅し、新米冒険者のパーティ登録を『受理』すれば一時的に能力が向上する。
本人は事務処理をしているだけのつもりが、いつしか「彼の受付を通った者は必ず成功する」「彼に睨まれたモンスターは消滅する」という噂が広まっていく。
その結果、静かだった辺境ギルドには腕利きの冒険者が集い始め、恭平の定時退勤は日々脅かされていくのだった。
姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる