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第87話 賢者の力
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ソフィアが放った古代禁呪『グラビティ・ケージ』。
それは、単なる重力魔法ではなかった。
「ぐ……ぬ……っ!?」
上空で身動きを封じられたヴラドが、初めて苦悶の声を漏らした。
彼の身体を縛り付けているのは、物理的な重圧だけではない。彼の周囲の空間そのものがソフィアの魔力によって歪められ、まるで粘性の高い沼のようにその動きの全てを阻害していた。
さらに、その魔法陣は周囲の魔力の流れさえも強制的に支配していた。ヴラドが自らの身体から呪詛の力を放とうとしても、その魔力は正常に循環せず、彼の体内で澱み、その出力を大幅に減衰させられていたのだ。
戦場の理そのものを一時的に書き換える。
それこそが、大賢者の末裔であるソフィアが振るう古代魔法の真髄だった。
「……リアムさん、今です!」
ソフィアの鋭い声が響く。彼女は、この禁呪を長時間維持することはできない。だが、彼女が作り出したこのほんの数十秒の『好機』。それが、この戦いの勝敗を分けることを俺たちは理解していた。
「ああ、分かっている!」
俺は天にいるヴラドに向かって、その右手を突き出した。
そして、意識を集中させ、【代償転嫁】のスキルをこれまでとは全く違う次元で能動的に発動させた。
それは、もはや『引き受ける』という受動的な行為ではない。
相手が纏う『呪い』そのものを、対象から無理やり『奪い取る』という攻撃的な吸収だった。
「――来い!」
俺が心の中で叫んだ瞬間、ヴラドの身体から黒い瘴気が、まるで引きちぎられるかのように俺の右手へと吸い寄せられ始めた。
まず、ルナリエルとダリウスを拘束していた呪詛の触手が悲鳴のような音を立てて霧散する。解放された二人は、即座に体勢を立て直し、地上へと着地した。
次に、ヴラドの身体を覆っていた鉄壁の呪詛の盾。その黒いオーラが凄まじい勢いで剥がれ落ち、黒い稲妻となって俺の身体へと流れ込んでくる。
「な……にぃ……!?」
ヴラドは、信じられないといった表情で自分の身体と地上に立つ俺の姿を交互に見た。
自分の意志とは関係なく、自らの力の源である呪詛が奪われていく。それは彼にとって初めての経験であり、理解不能な現象だった。
「小僧……! 貴様、何をした……!?」
その問いに、俺は答えない。ただ無言で彼の力を奪い続ける。
呪詛の奔流が、俺の身体を駆け巡る。だが、そのおぞましい力は俺の体内で瞬時に浄化され、温かい魔力へと変わっていく。力が漲ってくる。
やがて、ヴラドを覆っていた呪詛の盾は完全に消え失せた。彼はソフィアの重力魔法に囚われたまま、丸裸の状態で宙に吊るされている。
俺たちの仲間が完璧な連携で作り出した、絶対的な好機。
今こそ、奴に止めを刺す時だ。
「ルナリエル! ダリウス! アイリス!」
俺が叫ぶ。
「「「応!」」」
三人の前衛が、再び決戦の地へと躍り出ようとしたその時だった。
「――舐めるなよ、人間がァァァァァッ!」
ヴラドが絶叫した。
彼の全身から、これまでの比ではない禍々しい紫黒のオーラが爆発するように溢れ出した。ソフィアの『グラビティ・ケージ』がミシミシと軋む音を立て、その表面に亀裂が走る。
彼は自らの魂の一部を削ることで、無理やり呪詛の力を増幅させ、ソフィアの束縛を内側から破壊しようとしていた。
そして、その血のように赤い瞳が、全ての元凶である俺の姿を正確に捉えた。
「そのふざけた能力……! 我が呪詛の前に塵と化せ!」
彼は仲間たちには目もくれず、その増幅させた呪詛の力の全てを俺一人に向かって放った。
それは、もはや槍や壁のような形あるものではなかった。
不可視の、しかし絶対的な死の概念そのもの。
「『魂魄腐蝕の呪詛(ソウル・ディケイ)』!!」
ガレリアの砦を一日で死の都に変えた、あの即死級の呪いが凝縮された一本の光線となって俺の胸へと突き刺さった。
それは、単なる重力魔法ではなかった。
「ぐ……ぬ……っ!?」
上空で身動きを封じられたヴラドが、初めて苦悶の声を漏らした。
彼の身体を縛り付けているのは、物理的な重圧だけではない。彼の周囲の空間そのものがソフィアの魔力によって歪められ、まるで粘性の高い沼のようにその動きの全てを阻害していた。
さらに、その魔法陣は周囲の魔力の流れさえも強制的に支配していた。ヴラドが自らの身体から呪詛の力を放とうとしても、その魔力は正常に循環せず、彼の体内で澱み、その出力を大幅に減衰させられていたのだ。
戦場の理そのものを一時的に書き換える。
それこそが、大賢者の末裔であるソフィアが振るう古代魔法の真髄だった。
「……リアムさん、今です!」
ソフィアの鋭い声が響く。彼女は、この禁呪を長時間維持することはできない。だが、彼女が作り出したこのほんの数十秒の『好機』。それが、この戦いの勝敗を分けることを俺たちは理解していた。
「ああ、分かっている!」
俺は天にいるヴラドに向かって、その右手を突き出した。
そして、意識を集中させ、【代償転嫁】のスキルをこれまでとは全く違う次元で能動的に発動させた。
それは、もはや『引き受ける』という受動的な行為ではない。
相手が纏う『呪い』そのものを、対象から無理やり『奪い取る』という攻撃的な吸収だった。
「――来い!」
俺が心の中で叫んだ瞬間、ヴラドの身体から黒い瘴気が、まるで引きちぎられるかのように俺の右手へと吸い寄せられ始めた。
まず、ルナリエルとダリウスを拘束していた呪詛の触手が悲鳴のような音を立てて霧散する。解放された二人は、即座に体勢を立て直し、地上へと着地した。
次に、ヴラドの身体を覆っていた鉄壁の呪詛の盾。その黒いオーラが凄まじい勢いで剥がれ落ち、黒い稲妻となって俺の身体へと流れ込んでくる。
「な……にぃ……!?」
ヴラドは、信じられないといった表情で自分の身体と地上に立つ俺の姿を交互に見た。
自分の意志とは関係なく、自らの力の源である呪詛が奪われていく。それは彼にとって初めての経験であり、理解不能な現象だった。
「小僧……! 貴様、何をした……!?」
その問いに、俺は答えない。ただ無言で彼の力を奪い続ける。
呪詛の奔流が、俺の身体を駆け巡る。だが、そのおぞましい力は俺の体内で瞬時に浄化され、温かい魔力へと変わっていく。力が漲ってくる。
やがて、ヴラドを覆っていた呪詛の盾は完全に消え失せた。彼はソフィアの重力魔法に囚われたまま、丸裸の状態で宙に吊るされている。
俺たちの仲間が完璧な連携で作り出した、絶対的な好機。
今こそ、奴に止めを刺す時だ。
「ルナリエル! ダリウス! アイリス!」
俺が叫ぶ。
「「「応!」」」
三人の前衛が、再び決戦の地へと躍り出ようとしたその時だった。
「――舐めるなよ、人間がァァァァァッ!」
ヴラドが絶叫した。
彼の全身から、これまでの比ではない禍々しい紫黒のオーラが爆発するように溢れ出した。ソフィアの『グラビティ・ケージ』がミシミシと軋む音を立て、その表面に亀裂が走る。
彼は自らの魂の一部を削ることで、無理やり呪詛の力を増幅させ、ソフィアの束縛を内側から破壊しようとしていた。
そして、その血のように赤い瞳が、全ての元凶である俺の姿を正確に捉えた。
「そのふざけた能力……! 我が呪詛の前に塵と化せ!」
彼は仲間たちには目もくれず、その増幅させた呪詛の力の全てを俺一人に向かって放った。
それは、もはや槍や壁のような形あるものではなかった。
不可視の、しかし絶対的な死の概念そのもの。
「『魂魄腐蝕の呪詛(ソウル・ディケイ)』!!」
ガレリアの砦を一日で死の都に変えた、あの即死級の呪いが凝縮された一本の光線となって俺の胸へと突き刺さった。
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