追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第92話 限界を超えて

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「……リアム様?」

俺の隣にいたセレスティアが、俺の纏う空気が変わったことに気づき、不安げな声を上げた。

俺は彼女に、そして仲間たちに振り返ることなく、静かに告げた。

「みんな、少しだけ時間を稼いでくれ」

その言葉の意味を、誰もが瞬時に理解した。

「リアム! まさか、あなた……!」

ルナリエルが血相を変えて叫んだ。

「あの呪いを一人で受け止めるつもり!? 無茶よ! あなたの身体がもたないわ!」

「他に方法があるのか」

俺のあまりにも静かな問いに、彼女は言葉を詰まらせた。

「だが、リアム殿!」

ダリウスも厳しい声で制止する。

「それはあまりにも危険すぎる賭けだ! お前にもしものことがあれば、我々は……!」

「大丈夫だ」

俺は彼らの不安を力強く遮った。

「俺はみんなが思うより頑丈にできているらしい。それに……」

俺は空から降り注ぐ、見えざる死の雪を見上げた。

「俺は、俺たちの故郷をあんな黒い雪で汚されたくはないんだ」

その言葉は俺の偽らざる本心だった。

仲間たちはもはや何も言うことができなかった。彼らは俺の決意が、もはや誰にも覆すことのできないものであることを悟っていた。

俺は広場の中央へと一人歩みを進めた。
そして、その場で深く息を吸い込んだ。

「セレスティア、ソフィア。補助を頼む」

俺の短い指示に、二人は即座に反応した。

「はい、リアム様!」

セレスティアは俺の背後で祈りを捧げ始めた。彼女の聖なる光が俺の身体を包み込み、これから受けるであろうダメージを少しでも和らげようとしてくれる。

「ええ、お任せを。あなたの精神を私が守ります。『マインド・プロテクト』」

ソフィアもまた杖を掲げ、俺の精神を守るための強力な防護魔法を展開してくれた。

仲間たちの支援を背に、俺は天に向かって両手を広げた。
そして、俺の魂の全てを叫び声に乗せて解放した。

「――来い! この世界の全ての呪いよ! お前たちの行き着く先はただ一つ! この俺の身体だ!」

俺の宣言に呼応するように、【代償転嫁】のスキルがこれまでに見せたことのない凄まじい輝きを放って暴走を始めた。

俺の身体が、一つの巨大な磁石と化した。
世界中に拡散しようとしていた無数の呪いの胞子がその進路を変え、一斉に俺という一点に向かって吸い寄せられ始めたのだ。

王都の上空に、巨大な黒い渦が生まれた。
それは呪いが俺の身体へと流れ込んでいく、死の奔流だった。

「ぐ……っ!」

最初に感じたのは、凍てつくような絶対零度の冷気だった。
世界のありとあらゆる生命の『終わり』をその身に浴びる感覚。魂ごと凍りついていく。

「……おおおおおおおおおおっ!」

俺は咆哮した。
気合でその冷気をねじ伏せる。

次に襲ってきたのは、全てを腐らせる不快な熱だった。
肉が、骨が、内側から腐り落ちていくようなおぞましい感覚。

「……負けるか……!」

俺は奥歯を血が滲むほど強く噛み締めた。

俺の体内でスキルが悲鳴を上げている。
許容量を遥かに超えた負のエネルギー。浄化が追いつかない。俺の身体そのものが呪詛の器となって、内側から崩壊を始めていた。

だが、俺はまだ立っていた。
俺が倒れれば、この奔流は再び世界へと解き放たれてしまう。

俺を支えていたのは、もはやスキルでも魔力でもない。
ただ一つの純粋な意志。

(……帰るんだ)

脳裏に仲間たちの笑顔が浮かぶ。
エデンの温かい日常が蘇る。

(あの場所に……。みんながいるあの場所に……。必ず帰るんだ……!)

その強い想いが、俺の限界を超えた力を引き出した。

俺の身体から金色のオーラが爆発するように溢れ出した。それは俺のスキルが俺の魂そのものと融合し、新たな次元へと覚醒した瞬間だった。

浄化が加速する。
俺の身体へと流れ込んでくる呪詛の奔流を、覚醒したスキルが凄まじい勢いで喰らい、光の魔力へと変換していく。

俺の身体はもはやただの人間のものではなかった。
呪いと聖なる力がぶつかり合い、その莫大なエネルギーを制御する、一つの奇跡の器と化していた。

どれほどの時間が経っただろうか。
永遠にも思える苦痛と光の奔流。

やがて、王都の上空を覆っていた黒い渦がゆっくりとその勢いを弱めていった。
世界中に拡散した呪いの胞子は、その最後の一粒まで俺の身体に完全に吸収された。

空に再び青空が戻ってきた。
呪いは消えた。
世界は救われたのだ。

俺は、その光景をぼんやりと見上げていた。
そして、自分の役目が終わったことを悟った。

張り詰めていた意志の糸が、ぷつりと切れた。
身体から力が抜けていく。

俺は自分が限界を超えて何かを使い果たしてしまったことを、漠然と感じていた。

「……リアム……?」

ルナリエルの震える声が聞こえた。

俺は彼女の方を振り返ろうとした。
そして、仲間たちに笑って言いたかった。

『終わったよ』、と。

だが、その言葉が口から出ることはなかった。
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