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第95話 決着
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閃光が収まった後、王都の中央広場には絶対的な静寂が戻っていた。
魔将ヴラドの気配は魂の一片までも残さず、完全に消滅した。彼が世界に撒き散らした『万物腐壊の呪詛』もまた、その発生源が消えたことでリアムの身体に吸収されたものを最後に霧散していった。
戦いは終わった。
本当に終わったのだ。
空はどこまでも青く澄み渡っている。
呪いの脅威は完全にこの世界から去った。
だが、広場に立つ五人の英雄たちの顔に勝利の輝きはなかった。
極限まで高められた力は役目を終え、まるで潮が引くように彼女たちの身体から抜けていく。
そして、後に残されたのは圧倒的なまでの喪失感だけだった。
「……終わったのね」
ルナリエルの唇からか細い声が漏れた。その手から再び剣が滑り落ちる。
彼女たちはゆっくりと広場の中央へと視線を戻した。
そこに横たわる、血の海の中の一人の青年。
自分たちの愛する人。
「……リアム様……」
セレスティアがふらふらとした足取りで、再びリアムの亡骸へと駆け寄った。
他の者たちもまるで磁石に吸い寄せられるかのようにその後を追った。
彼女たちは再びリアムの亡骸を取り囲んだ。
先ほどまでの神々しいまでの怒りのオーラはもうどこにもない。
そこにいたのは、ただ大切な人を失い途方に暮れるか弱い少女たちの姿だけだった。
「……うそだ」
アイリスが子供のように首を振った。
「……こんなのってないですよ。……せっかくみんなで勝ったのに。リアムさんがいないなんて……。そんなの、勝利なんかじゃない……!」
その言葉は全員の心の叫びだった。
彼がいなければ意味がない。
彼がいない世界に平和が訪れたとして、何の意味があるというのか。
彼がその命と引き換えに守ってくれたこの世界。
その世界が今、彼女たちにとってはあまりにも色褪せて虚しく見えた。
「……リアム」
ルナリエルはリアムの血で汚れた頬にそっと触れた。
その肌はもう温かくなかった。
「……目を開けなさいよ。……あなたがいなきゃ、誰がわたしの素直じゃないところを笑ってくれるのよ……。誰がわたしの淹れたお茶を美味しいって言ってくれるのよ……。……起きてよ、朴念仁……」
彼女の瞳から再び涙が溢れ出した。
セレスティアはリアムの冷たくなった手を自分の胸に抱きしめ、ただ声を殺して泣きじゃくっていた。
ソフィアは、その膨大な知識が今何の役にも立たないことをただ呪っていた。
ダリウスは、鋼の男は、その場に膝をつき、血の滲むほど強く握りしめた拳で地面を何度も何度も殴りつけていた。
王宮のバルコニーからその光景を見ていた国王も騎士たちも言葉を失っていた。
広場を埋め尽くしていた民衆も、勝利の歓声のすぐ後に訪れたあまりにも悲しい結末に、ただ静かに涙を流していた。
世界を救った英雄の死。
それはあまりにも大きな代償だった。
太陽がゆっくりと西の空に傾き、王都を茜色に染め上げていく。
まるで英雄の死を悼む鎮魂歌のように。
その時だった。
「……ん?」
リアムの亡骸に一番近くで寄り添っていたセレスティアがふと顔を上げた。
彼女は何か信じられないものを見たかのように、自分の目をごしごしと擦った。
「……気のせいでしょうか……」
彼女の震える声。
その視線の先はリアムの胸。
ヴラドの呪詛が直撃し、血に濡れたその場所に注がれていた。
「セレスティア……?」
ルナリエルが怪訝な顔で彼女に問いかける。
「今……。リアム様の胸が……」
セレスティアは言葉を続けた。
その声は驚愕と、そしてあり得ないはずの僅かな希望に震えていた。
「……ほんの少しだけ、光ったような……?」
その一言に、その場にいた全員が息を呑んだ。
そして、全ての視線がリアムの亡骸へと再び集中した。
静寂。
風の音だけが広場を吹き抜けていく。
何も起こらない。
やはり見間違いだったのか。
誰もがそう思い、再び絶望の淵へと沈みかけたその瞬間。
トン。
確かに聞こえた。
リアムの胸の中から、まるで心臓がもう一度鼓動を打ち始めたかのような、小さく、しかし確かな音が。
トン。
トン、トン。
そして、その音と共に彼の胸の中心が淡い金色の光を放ち始めた。
その光は最初はロウソクの灯りのように弱々しかった。
だが、それは少しずつ、少しずつその輝きを増していく。
それはセレスティアの聖なる光とは違う。
もっと根源的で温かい、生命そのもののような光。
仲間たちは目の前で起きている理解不能な奇跡を、ただ呆然と見つめていた。
光はやがてリアムの全身を優しく包み込んでいった。
血に濡れた傷がゆっくりと塞がっていく。
死人のように青白かった肌に少しずつ血の気が戻っていく。
そして。
「……ん……」
リアムの唇から小さな呻き声が漏れた。
彼の閉ざされていた瞼が、ぴくりと震えた。
決着はまだついていなかった。
いや、本当の決着はここから始まろうとしていたのだ。
英雄の物語はまだ終わってはいなかった。
魔将ヴラドの気配は魂の一片までも残さず、完全に消滅した。彼が世界に撒き散らした『万物腐壊の呪詛』もまた、その発生源が消えたことでリアムの身体に吸収されたものを最後に霧散していった。
戦いは終わった。
本当に終わったのだ。
空はどこまでも青く澄み渡っている。
呪いの脅威は完全にこの世界から去った。
だが、広場に立つ五人の英雄たちの顔に勝利の輝きはなかった。
極限まで高められた力は役目を終え、まるで潮が引くように彼女たちの身体から抜けていく。
そして、後に残されたのは圧倒的なまでの喪失感だけだった。
「……終わったのね」
ルナリエルの唇からか細い声が漏れた。その手から再び剣が滑り落ちる。
彼女たちはゆっくりと広場の中央へと視線を戻した。
そこに横たわる、血の海の中の一人の青年。
自分たちの愛する人。
「……リアム様……」
セレスティアがふらふらとした足取りで、再びリアムの亡骸へと駆け寄った。
他の者たちもまるで磁石に吸い寄せられるかのようにその後を追った。
彼女たちは再びリアムの亡骸を取り囲んだ。
先ほどまでの神々しいまでの怒りのオーラはもうどこにもない。
そこにいたのは、ただ大切な人を失い途方に暮れるか弱い少女たちの姿だけだった。
「……うそだ」
アイリスが子供のように首を振った。
「……こんなのってないですよ。……せっかくみんなで勝ったのに。リアムさんがいないなんて……。そんなの、勝利なんかじゃない……!」
その言葉は全員の心の叫びだった。
彼がいなければ意味がない。
彼がいない世界に平和が訪れたとして、何の意味があるというのか。
彼がその命と引き換えに守ってくれたこの世界。
その世界が今、彼女たちにとってはあまりにも色褪せて虚しく見えた。
「……リアム」
ルナリエルはリアムの血で汚れた頬にそっと触れた。
その肌はもう温かくなかった。
「……目を開けなさいよ。……あなたがいなきゃ、誰がわたしの素直じゃないところを笑ってくれるのよ……。誰がわたしの淹れたお茶を美味しいって言ってくれるのよ……。……起きてよ、朴念仁……」
彼女の瞳から再び涙が溢れ出した。
セレスティアはリアムの冷たくなった手を自分の胸に抱きしめ、ただ声を殺して泣きじゃくっていた。
ソフィアは、その膨大な知識が今何の役にも立たないことをただ呪っていた。
ダリウスは、鋼の男は、その場に膝をつき、血の滲むほど強く握りしめた拳で地面を何度も何度も殴りつけていた。
王宮のバルコニーからその光景を見ていた国王も騎士たちも言葉を失っていた。
広場を埋め尽くしていた民衆も、勝利の歓声のすぐ後に訪れたあまりにも悲しい結末に、ただ静かに涙を流していた。
世界を救った英雄の死。
それはあまりにも大きな代償だった。
太陽がゆっくりと西の空に傾き、王都を茜色に染め上げていく。
まるで英雄の死を悼む鎮魂歌のように。
その時だった。
「……ん?」
リアムの亡骸に一番近くで寄り添っていたセレスティアがふと顔を上げた。
彼女は何か信じられないものを見たかのように、自分の目をごしごしと擦った。
「……気のせいでしょうか……」
彼女の震える声。
その視線の先はリアムの胸。
ヴラドの呪詛が直撃し、血に濡れたその場所に注がれていた。
「セレスティア……?」
ルナリエルが怪訝な顔で彼女に問いかける。
「今……。リアム様の胸が……」
セレスティアは言葉を続けた。
その声は驚愕と、そしてあり得ないはずの僅かな希望に震えていた。
「……ほんの少しだけ、光ったような……?」
その一言に、その場にいた全員が息を呑んだ。
そして、全ての視線がリアムの亡骸へと再び集中した。
静寂。
風の音だけが広場を吹き抜けていく。
何も起こらない。
やはり見間違いだったのか。
誰もがそう思い、再び絶望の淵へと沈みかけたその瞬間。
トン。
確かに聞こえた。
リアムの胸の中から、まるで心臓がもう一度鼓動を打ち始めたかのような、小さく、しかし確かな音が。
トン。
トン、トン。
そして、その音と共に彼の胸の中心が淡い金色の光を放ち始めた。
その光は最初はロウソクの灯りのように弱々しかった。
だが、それは少しずつ、少しずつその輝きを増していく。
それはセレスティアの聖なる光とは違う。
もっと根源的で温かい、生命そのもののような光。
仲間たちは目の前で起きている理解不能な奇跡を、ただ呆然と見つめていた。
光はやがてリアムの全身を優しく包み込んでいった。
血に濡れた傷がゆっくりと塞がっていく。
死人のように青白かった肌に少しずつ血の気が戻っていく。
そして。
「……ん……」
リアムの唇から小さな呻き声が漏れた。
彼の閉ざされていた瞼が、ぴくりと震えた。
決着はまだついていなかった。
いや、本当の決着はここから始まろうとしていたのだ。
英雄の物語はまだ終わってはいなかった。
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