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第81話:和解と協力
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血と泥にまみれた贖罪を終えたその日の夕方。
アルフォンスは意を決して、宰相府のゼノンの執務室を訪れた。
扉をノックすると、中からいつも通りの平坦な声がした。
「……入れ」
部屋に入ると、ゼノンは山のような書類に埋もれながら、顔も上げずに言った。
「何の用ですかな、王子。私は忙しいのだが」
その相変わらずの態度。
だが今のアルフォンスには、その言葉が不思議と腹立たしくはなかった。むしろ、その変わらなさに安堵すら覚えていた。
彼はゼノンの机の前に立つと、何の躊躇いもなくその場に深く、深く頭を下げた。
「……ゼノン殿」
その声は静かだったが、確かな決意がこもっていた。
「……俺は愚かだった。君が築き上げたもの、そして俺が壊そうとしたものの本当の意味を、ようやく理解した」
ゼノンは、ようやくペンを置き、アルフォンスの顔を初めてまともに見た。その顔に残る痛々しい傷跡と、泥で汚れたままの襟元に気づき、わずかに眉をひそめる。
「俺は君を妬み、そして恐れていた。君の正しさを認めることが、俺の信じてきた全てを否定することに思えて怖かったのだ」
アルフォンスはゆっくりと顔を上げた。
その瞳にはもはや葛藤の色はなかった。そこにあるのは、全てを捨て去った男の、清々しいほどの覚悟だった。
「だが、もう迷わない。君がやっていることは正しい。いや、この国が生き残るためにはそれしか道はないのだと分かった」
彼はゼノンの蒼い瞳をまっすぐに見つめ返した。
「だから頼む。……俺にも償いをさせてくれ。この国と、俺が傷つけた民のために」
その言葉は、懇願でありながら、命令に近い響きを持っていた。
「俺は君のように全てを見通すことはできない。だが俺には、俺にしかできないことがあるはずだ。……君が描く未来図を実現するための剣になる。……いや、駒でも構わない。……どうか俺を使ってくれ。俺の残りの人生の全てを、君の改革のために捧げる」
王国の第一王子が。
次期国王が。
辺境の貴族の三男坊に頭を下げ、自分を駒として使えと懇願している。
ありえない光景だった。
ゼノンはしばらくの間何も言わず、ただ黙ってアルフォンスを見つめていた。
彼の頭の中では高速で計算が始まっていた。
(……ティンバー村の遺族への謝罪。情報網からの報告は受けている。……民衆からの暴力を甘んじて受け、プライドという最大の欠陥を自ら破壊したか。……精神的な脆弱性というリスクは大幅に低下。むしろ、この贖罪意識は強力な労働意欲(モチベーション)へと転化する可能性が高い)
計算は終わった。
答えは出ている。
「……いいだろう」
ゼノンの口元にほんのわずかな、しかし確かな笑みが浮かんだ。
それは優秀な、そして扱いやすい人材を手に入れた経営者の、満足の笑みだった。
「あなたのその『リソース』、ありがたく使わせていただきますよ、王子。……ただし、あの時伝えた条件は変わりません。成果を出せなければ、いつでも切り捨てる」
その相変わらずの物言い。
だがアルフォンスは今度は笑ってそれを受け入れた。
「ああ。……存分に使うといい。そして、もし俺が再び道を誤ることがあれば、その時は君の手で俺を斬ってくれ。……それが俺の望みだ」
その日、その瞬間。
二人の若き獅子は、初めて本当の意味で手を取り合った。
それは友情ではない。
ただ一つの目的……『国家の再生』という共通の目的の下で結ばれた、極めて合理的で、そして何よりも強力な協力関係の始まりだった。
光と影。
理想と現実。
二つの対極が一つになった時、ベルシュタイン王国の改革はもはや誰にも止められない巨大な潮流となって、歴史を動かし始めるのだった。
アルフォンスは意を決して、宰相府のゼノンの執務室を訪れた。
扉をノックすると、中からいつも通りの平坦な声がした。
「……入れ」
部屋に入ると、ゼノンは山のような書類に埋もれながら、顔も上げずに言った。
「何の用ですかな、王子。私は忙しいのだが」
その相変わらずの態度。
だが今のアルフォンスには、その言葉が不思議と腹立たしくはなかった。むしろ、その変わらなさに安堵すら覚えていた。
彼はゼノンの机の前に立つと、何の躊躇いもなくその場に深く、深く頭を下げた。
「……ゼノン殿」
その声は静かだったが、確かな決意がこもっていた。
「……俺は愚かだった。君が築き上げたもの、そして俺が壊そうとしたものの本当の意味を、ようやく理解した」
ゼノンは、ようやくペンを置き、アルフォンスの顔を初めてまともに見た。その顔に残る痛々しい傷跡と、泥で汚れたままの襟元に気づき、わずかに眉をひそめる。
「俺は君を妬み、そして恐れていた。君の正しさを認めることが、俺の信じてきた全てを否定することに思えて怖かったのだ」
アルフォンスはゆっくりと顔を上げた。
その瞳にはもはや葛藤の色はなかった。そこにあるのは、全てを捨て去った男の、清々しいほどの覚悟だった。
「だが、もう迷わない。君がやっていることは正しい。いや、この国が生き残るためにはそれしか道はないのだと分かった」
彼はゼノンの蒼い瞳をまっすぐに見つめ返した。
「だから頼む。……俺にも償いをさせてくれ。この国と、俺が傷つけた民のために」
その言葉は、懇願でありながら、命令に近い響きを持っていた。
「俺は君のように全てを見通すことはできない。だが俺には、俺にしかできないことがあるはずだ。……君が描く未来図を実現するための剣になる。……いや、駒でも構わない。……どうか俺を使ってくれ。俺の残りの人生の全てを、君の改革のために捧げる」
王国の第一王子が。
次期国王が。
辺境の貴族の三男坊に頭を下げ、自分を駒として使えと懇願している。
ありえない光景だった。
ゼノンはしばらくの間何も言わず、ただ黙ってアルフォンスを見つめていた。
彼の頭の中では高速で計算が始まっていた。
(……ティンバー村の遺族への謝罪。情報網からの報告は受けている。……民衆からの暴力を甘んじて受け、プライドという最大の欠陥を自ら破壊したか。……精神的な脆弱性というリスクは大幅に低下。むしろ、この贖罪意識は強力な労働意欲(モチベーション)へと転化する可能性が高い)
計算は終わった。
答えは出ている。
「……いいだろう」
ゼノンの口元にほんのわずかな、しかし確かな笑みが浮かんだ。
それは優秀な、そして扱いやすい人材を手に入れた経営者の、満足の笑みだった。
「あなたのその『リソース』、ありがたく使わせていただきますよ、王子。……ただし、あの時伝えた条件は変わりません。成果を出せなければ、いつでも切り捨てる」
その相変わらずの物言い。
だがアルフォンスは今度は笑ってそれを受け入れた。
「ああ。……存分に使うといい。そして、もし俺が再び道を誤ることがあれば、その時は君の手で俺を斬ってくれ。……それが俺の望みだ」
その日、その瞬間。
二人の若き獅子は、初めて本当の意味で手を取り合った。
それは友情ではない。
ただ一つの目的……『国家の再生』という共通の目的の下で結ばれた、極めて合理的で、そして何よりも強力な協力関係の始まりだった。
光と影。
理想と現実。
二つの対極が一つになった時、ベルシュタイン王国の改革はもはや誰にも止められない巨大な潮流となって、歴史を動かし始めるのだった。
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